壊れたオルゴール

秋色

1話完結

 友達を誘って行ったジュニアのクラシックバレエ発表会。趣味ではないけと、チケットを幼馴染の親が毎回送ってくるから、付き合いで行っている。幼馴染のそのコの名前は花織。小さい頃からクラシックバレエをやってて、気が強くて生意気で、大人しい僕をよく外に引っ張り出していた。


「山に登ろう!」 


「いや、僕は部屋で絵を描いてる方がいいんだ。今日風が強いし」


「ダメだよ。風に向かわなきゃ」


……なんてね。


 しばらく見てないけど美少女の女子高生になっているのを想像してた。この世は自分中心に回ってるって位の。でもステージに現れた花織は想像と違ってた。少しふっくらして普通のコになっていた。しかも演技の途中、数秒間、動きが止まったんだ。同級生は、「緊張して次の踊りを忘れてしまったのかな」と言った。僕の心には、オルゴールの箱の中の踊り子が浮かんだ。


 それは、七才の時、男の子のクセにと言われながらも、クリスマスプレゼントに親にねだった物。ネジを巻くと白鳥の湖の曲が流れ出し、箱の中の踊り子の人形がクルクルと回り出す。

 でも二年前、突然壊れてからは、ねじが一回転しか回せない。曲も一音節で止まり、踊り子の動きも凍りつく。


 発表会のあった夜、机の上にオルゴールを置き、ネジを指が痛くなるまで巻こうとしたけど、無理だった。隣の工務店の源さんに頼もう、

そう思いついた。源さんは修理の天才だ。でも源さんが修理した物は、いつも不格好になって蘇る。ビニールテープぐるぐる巻きとか。


 だから修理を頼むのは最後の手段。

頼まなくていいんじゃない? 不格好になる位なら。そんな家族の声。



 僕はその声に反抗するように源さんの所へオルゴールを持って行った。


「修理代ってどの位する?」


「ねじが曲がってるだけだ。金ならいらん。持ってる道具で何とかするから」




 オルゴールは復活した。やっぱりありあわせの材料が接着剤でくっついてたけど。でも踊り子は清らかな音楽に合わせ、クルクル回り始めた。 


 

 次の土曜日、紅葉の山の麓で花織に偶然会った。


「スケッチブック持って、絵を描きに行くの?」


「ああ」


「まだ、絵、続けてたんだ」


「ん。花織は?」


「最近太って思うように踊れなくて。これからは週末に山道を走る事に決めたの。ほら、ダサいでしょ? ジャージ姿」


「ううん」


「風、強い。ってだめだね。風に向かわなきゃ」


「やっぱ、かっけ~な」


「ん?」


「何でもない。さ、出発しよ」




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壊れたオルゴール 秋色 @autumn-hue

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