好きを仕事に。好きをこの手に。
藤間伊織
第1話
「ねえ、お母さん。『好きを仕事にする方法』って知ってる?」
「バカなこと言ってないで、勉強しなさい。そうじゃないならせめて家事の手伝いでもしてちょうだい」
「ねえ、お父さん。『好きを仕事にする方法』って知ってる?」
「知ってたら、父さんは今頃天文学者だったろうなあ」
「ねえ、ポチ。『好きを仕事にする方法』って何だと思う?」
「ワン!」
「ねえ、おじいちゃん。『好きを仕事にする方法』って知ってる?」
「そりゃあ、好きなことを好きなまま、忘れないでいることだろうさ。仕事を後から好きになるって方法もあるが……ちょいとコツがいるしな。何にせよ、勉強はしとくんだな。どんな仕事にも『道』がある。それを知るには学ぶしかない。仕事なら金が絡むからなおさらな。別に学校の勉強だけが勉強じゃないだろ?好きなことを追いかける情熱を、忘れないことだ」
「……おじいちゃんのお仕事って何だったの?」
「あの人はね、学校の先生をしてたのよ。家を継ぐべきだって言う周りの反対を押し切ってね。生徒皆に慕われていて、私も優しいあの人が大好きだった。『結婚してほしい』って突然言われたときは驚いたけど……喜んでお返事したわ。珍しく緊張していて。私の両親に挨拶に来た時の方が余裕を見せてたのよ?ふふ、おかしいでしょ?」
「そんなの……仕方ないだろう。好きな人を目の前にしたら、俺だって緊張するさ」
「ねえ、おばあちゃん。おばあちゃんはどう思う?」
「うーん、難しい質問ね。あの人はよく『自分を信じることが大切だ』って言ってた。私もそう思うわ。だから、やっぱり自分の好きなことを、好きだって強く思うことじゃないかしら。あなたはあの人に似てるところがあるから、面白い大人になりそうね」
「僕、この写真の若いおじいちゃんしか知らないけど……そんなに似てる?僕も自分を信じていられるかな?」
「雰囲気や性格はよく似てると思うわ。それと、自分を信じられなくなったら誰かに信じて貰えばいいのよ。少なくとも、私とあの人はそうやってお互いを支えて、幸せにやってこられた」
「おばあちゃんはまたおじいちゃんに会いたい?」
「そうね、会いたいけど、次に会うのは私が人生を生き抜いたらかしら。どんなことでも『好き』を手に入れるのは難しいことなのね。『愛』ならなおさら。……あらら、いつの間にか話が逸れちゃったわね。ごめんね」
「ううん、難しいけど、今の僕のままでも大丈夫だって気がしてきた!あとは信じること!でしょ?」
「ふふ、ええそうね。おばあちゃん、応援するわ。きっと、おじいちゃんもね」
好きを仕事に。好きをこの手に。 藤間伊織 @idks
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