第9話
俺はこの学級で仲間外れにされている。話は数か月前に戻る。
よく晴れた日の朝、登校して下駄箱を開くと、1枚の紙きれが落ちてきた。
「今日の放課後、弓道場で待っています」
そう丸みを帯びた字で書かれた紙は、明らかに目的が分かるものだった。ただ手紙の主が分からないのが困りものだったが。
そして放課後、弓道場のドアを開けたが、そこには誰もいなかった。そう言えば時間指定はなかったな、これではいつ来るかわからない。来るか分からない人を待ち続け、貴重な放課後を浪費するのは嫌だったが、渋々本を読み、時間を潰すことにした。
待つこと20分、弓道場にやってきたのは同じクラスの大島玲子であった。ホームルームは同じ時間に終わっただろう、なんのタイムラグだ。その不満を抑えつつ、彼女の言葉を待った。
話はこうだった。ずっと前から好きだった、付き合ってほしい、と。その告白に対し俺は「勉学に集中したいから」と返事をし、断った。途端、初心な女学生の顔が醜く歪み、般若のような形相になったのである。さらには「私に逆らったやつはどうなるか分かっているのよね」というドラマの悪役らしい捨て台詞を残して去っていった。
それからというもの、クラスメイトからのあたりが強くなった。あくまで俺と大島の問題であって、クラスの奴らは関係ない。しかし、地域住民のほとんどが大島財閥の傘下で働いているので、ご令嬢の権力には皆、膝を屈するしかない。こんな高校生のうちから権力に屈することを覚えないといけないなんて、嫌な境遇に生まれたものだ。こういう状況にあるから、松野には俺を避けるように言ったのだ。
図書館の閉館のアナウンスが意識を呼び戻す。嫌なことを思い出すために時間を使ってしまった。大島の告白を断った表向きの理由は「勉学に励むため」だが、本音は違う。権力を盾に人を従属させようという考えのやつは、俺の思想に合わないからだ。慕いたいと自ら思わせるような人間であることが、人の上に立つ上での必要条件だ。そこのところを彼女ははき違えているように感じた。彼女が行っているのは絶対王政だ……などと御高説賜わっても聞く耳など持たないのだろう。俺は密かにため息をこぼした。
拝啓、死にたがりの君たちへ 桜河浅葱 @strasbourg-090402
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