親友(男)が女装して俺の理性が消し飛んだ

助部紫葉

ある夏の日の話



イツカは俺にとっての唯一無二の親友だ。


中学の時に出会い、意気投合。何かにつけて2人でいつも一緒に行動し仲良くなっていった俺たちは、気がつけばお互い気の置けない親友となっていった。


同じ高校に進学し、なんやかんやで高校2年。幸いにも同じクラスで、相も変わらず俺たち2人一緒の高校生活を送っている。


モブ男子筆頭の俺とは違ってイツカは女の子と見間違われる程の中性的な見た目の美少年である。


とはいえイツカは紛うことなき男だ。


2人で海に遊びに行った時に男性のシンボルが付いていることはバッチリ確認済みだ。


イツカがあまりにも可愛すぎた為、俺としても「コイツ本当に男か?」なんて疑ったこともあった訳だけど、イツカは普通に男子更衣室に入って普通に着替えた。その時に確認して確証を得たという所だ。



で、紛うことなき男のイツカなんだが。


俺はそんなイツカに惚れてしまった。




◇◇◇




「あっついなぁー……」


「もうすぐ夏休みだしね」



パタパタと教科書で自分を扇ぎながら、ため息混じりに呟くと、前の席のイツカがそれに反応する。椅子の上で半回転しコチラに顔を向けながら返答をくれた。



「夏休みまであと1週間……はやく夏休みにならんかな」


「そうだね。ケイ、ちなみに今年の夏のご予定は?」


「あー……特に無いが?そういうイツカさんは何かご予定は?」


「ボクもこれといってないね。まぁ、なんやかんやでボクら2人で遊んでるでしょ」


「そうだな。俺ら悲しいことに彼女いないしな」


「彼女ねー。実際のところさ。彼女とかいる?なんか面倒くさそうだしいらなくない?」


「そうかぁ?やっぱ俺は彼女欲しいけどな。出来れば彼女作って夏休みはひと夏の思い出を作りたい。青春したい。あわよくば童貞も卒業してしまいたい」


「ふーん……そう……あと1週間で出来るといいね。ガンバ」


「たくっ……自分は比較的モテるからって余裕ぶりやがってからに。イツカと違って非モテのモブ男子の俺はどーせモテねーよ」


「そっかな?ボクはケイもわりとイケると思うんだけどね」


「ほお?俺のどこら辺がイケそうなんだ?」


「そうだねー。まずは腕が付いてるでしょ」


「だいたいみんなついてるな」


「足もあるし」


「無かったら学校来てねーな」


「なんと頭もある」


「おぉー(棒)」


「中身は入ってないけどね」


「……オマエが俺を舐め腐ってるのはよくわかった」



俺は身体を乗り出してイツカの首の後ろから腕を回して締め上げる。



「ぐぇっ……!?」


「イーツーカーくーん!なんだって?俺の頭ん中が空っぽだって?どういう意味かなー?」


「言ったまんまの意味だけど?ケイ馬鹿だし」


「ヨシわかった!テメェの頭ん中も空っぽにしてやる

!」



片腕でイツカの首を締め上げつつ、もう片方の手でイツカの頭を鷲掴んで力を込める。



「い、いだい!いだい!?ちょっ!?頭絞めないで!?」


「こうして絞れば耳から中身出てくるだろ?」


「おぉぉぉーーー…………!?!!」



ギチギチと力を込めてイツカの頭を締める。しかしコイツ頭ちっちゃいな。それにやたら甘い良い匂いすんだよなコイツ。男の癖に。


それに肌は白くてスベスベだし、同じ男なのに何故こんなにも俺と違うのだろうか。



「ギブギブッ!あやまる!あやまるからもうヤメ!出る!耳から脳みそ出ちゃう!」


「たくっ……」



パシパシと締め上げる腕にタップコール。俺はペイっとイツカを解放した。



「もー……ちょっとした冗談じゃん……」


「俺も冗談、冗談」


「その割には力強かった気がするんだけど……」


「気の所為だ。だいたいオマエなぁ。あんなん言ったらヤラれるのわかってんのに口にすんのが悪いんだろ」


「それは……その……アレだよ」


「どれだよ」


「やっぱなんでもない……」


「んだよ。はっきりしないな」



イツカの煮え切らない態度に少し違和感を感じるも、それを追求するよりも早く休み時間が終わるチャイムが鳴った。


コイツはたまにこういう態度をとることがある。俺に対して何かを隠すような態度。親友とは言え、やはり全てを全てさらけ出している訳では無い。


その態度に俺はどうしてもヤキモキしてしまう。


とはいえ俺もコイツに対しては隠し事をしている訳だからお互い様といったところだろう。


俺の隠し事。男だけどオマエの事が好きだとか言えるわけが無い。言ったら最後、この関係は壊れてしまうだろうから。




◇◇◇




放課後。



「イツカ、帰るぞ。今日も家来んだろ?」


「あっ、うん。行く行く」


「夕飯どうする?なんか作るか?」


「めんどーだしコンビニいいよ」


「んじゃ、コンビニ寄って帰るか」



高校進学を期に俺は一人暮らしをしていた。理由は「母さんと2人でイチャイチャしたいから社会勉強って事でオマエ高校から一人暮らしな」という父親のワガママ(?)だったりする。とんでもないオヤジだ。


そしてイツカは両親共働きであまり家に帰ってこないらしい。毎回、夜は1人で寂しく食べていたのだが、高校進学し俺が一人暮らしを始めた事を期に俺の部屋に入り浸るようになった。


俺としてと1人で寂しく夕飯をとるよりは、やはり誰かと一緒に食べる方がいい。その気持ちはイツカも同じでほぼ毎日イツカと一緒に夕飯を食べている訳である。



「「ただいまー」」



俺の部屋に付いて2人の声が重なった。



「いやイツカがただいまはおかしいだろ 」


「いやいやもうここボクの部屋みたいなところあるし。おかしくないでしょ」


「いつか らイツカの部屋になったんだよ」


「え?なにそれギャグ?つまんないよ」


「ギャグちゃうわ」



軽口を交わしながら靴を脱ぎ部屋の中へ。


勝手知ったるなんとやらイツカも遠慮なしに部屋の中に上がり込みリビングに向かう。そこでエアコンのリモコンを手に取り勝手にクーラーを付けた。



「部屋の中も暑っついね……ケイ、ボク先にシャワー浴びるからね」


「おい待て家主を置いて先にシャワー浴びようとすんな。俺が先だろ」


「早いもん勝ち!」



荷物を置くなりイツカはダッと駆け出し浴室へと続く扉に飛び込んだ。


やりたい放題なイツカに呆れを覚えるが、その遠慮の無さが少し嬉しくも感じた。



イツカがシャワーか……いや待て俺、何を想像してる

。落ち着け思春期。そもそもアイツは男だ。これアレか思春期なのか?なるほどわからん。


この鳩尾あたりが言い得もないもどかしさを感じるのは果たしてなんなのだろうか。



衝動に駆られて俺はイツカが消えた浴室の扉を開けていた。


そこには一糸まとわぬイツカが居た。本当に男かと疑うような滑らかな白い肌が目に入り。そして、下半身にぶら下がる小振りなブツも目に入った。やっぱり男だコイツ。



「ちょっ!?ケイっ!急に入ってこないでよ!?」



唐突な俺の侵入に慌てたイツカは手で胸と下を隠した。下はともかく胸を隠す動作が意味わからん。女子か。



「俺も汗でベタベタするから、いっそ一緒に入ろうぜ」


「は、はぁ!?い、いや流石に男同士だからってそれは流石に……き、キモイでしょ……」


「んだよ連れねーな。だったらさっさとあがれよ」



スッパリ諦めて俺は名残惜しさと共に扉を閉める。



「う、うん……」



扉が閉まる間際にイツカのか細い声が聞こえた気がした。それが少しだけ残念がってる様に聞こえたのは俺の願望か。


内心、誘いを断ってくれて良かったと思った。もし一緒に風呂に入っていたら俺はおそらく何をするかわからなかったから。




◇◇◇




シャワー浴びて夕飯をとり、あとはいつも通りに2人でダラダラと過ごす。テレビ見たり漫画読んだりゲームしたりと。勉強?知らんがな。



「そういやさケイ。休み時間の時の話なんだけどさ」



不意にイツカが口を開いた。



「彼女欲しいとか言ってたけどさ……好きな女の子とか……居るの?」


「好きな子?いや別に……居ないけど……」


「何その間。ボクに隠し事?本当は居るんじゃないの?」


「居ないって」



まぁ、本当は目の前に居るんだが。



「ふーん……怪しい……」



ジト目で俺を睨むイツカ。なんだその表情。可愛いんだけどキッツ。



「オマエなぁ……だいたいオマエと一緒に居て俺が女の子と接してるとこ殆ど見てないだろ?それでどうやって好きな子が出来るよ?」


「非モテの男子高校生なんてちょっと優しくされたりとか、なんだったら会話しただけで好きになっちゃったりするでしょ」


「俺がソレだと?」


「そうそう。ケイ、女の子に「おはよう」とか言われただけでその子の事、好きなったりするでしょ」


「どんだけ俺はチョロいんですかね?」


「この前だって柏木さんに話しかけられてデレデレしてたじゃん」



柏木さん。クラスメイトのギャルである。この前ちょっとだけ会話したがそれだけである。



「してねーよ」


「そおー?鼻の下伸びてたけど?」


「伸びてねーよ」


「ケイ、ああいう子が好きなの?」


「そんな事ないからな。俺はどっちかっていうと派手なのより友達みたいな感覚の明るい子が好きだな」


「へぇー……そうなんだー……」



そこで少しイツカは考えるような素振りを見せ、暫く間を置いてから言葉を発した。



「友達みたいな、ね……」



そう友達イツカみたいな奴。



「それってもしかしてボクみたいな感じ……?」



ドキリと心臓が大きく跳ねた。俺はなるべく平然を装ってそれに答える。



「何キモイ事言ってんだ……」


「き、キモイってなんだよ!バカッ!」



ぷんすこ怒り始めるイツカにバカアホボケとあれやこれやと悪態をつかれながら、ポカポカと殴られる。痛くは無い。というかかなり貧弱だ。



「ええい!鬱陶しい!やめっ!やめっ!」


「うるせぇ!くたばれっ!」



過度なスキンシップはよくない。いろいろとよろしくない。



「なんだよ!ボクの何が不満だって言うんだよ!」


「不満に決まってんだろ!だいたいオマエは男だろうが!」


「それならボクが女の子だったらいいわけ!?」


「そういう問題でもないけどな!」


「だったらどうしろって言うんだよ!」


「どうもこうも無いけど!?おまえさっきからなんなんだよ!意味がわからんぞ!」


「むー……」



頬を膨らませてそっぽを向くイツカ。だからそういうのはやめて欲しい。可愛いから。



「もし……もしもだよ……?」


「おう」


「ボクが女の子だったらケイ的にはありなわけ?」


「…………」


「どうなの……?」



大いにありな訳だが。むしろ男のままでもワンチャンありな所もあるのだが。


それを言うか?言うのか?いやいや無い。無いから。


でも、まあ、少しぐらいならば。



「ま、まぁ……イツカ、顔だけは良いしな……もし女の子だったら……まぁ……ありっちゃ……ありなんじゃね?」


「ふ、ふーん……」




◇◇◇




なんてことがあった翌日。


イツカは「ちょっと家に寄ってから帰るから先に帰ってて」といろいろとツッコミどころがある事を言ってから自宅へと帰った。もう俺の部屋が完全に自宅認定されてるし家から自宅に帰るとかいろいろおかしいが、今更なのでそこら辺はスルー。


なんだろうなと思いつつも俺は自宅にてイツカを待った。


俺が家に帰ってしばらくしてからガチャリと勝手に扉が開く音。どうやらイツカが来たようだ。



「ただいまー」


「おかえ――り……?」



ソファーでグダリながらイツカの方を仰ぎみて、そして俺は硬直した。



「どうだ見ろケイ!女の子になってやったぞ!」



そこにはセーラー服に身を包んだイツカがドヤ顔で仁王立ちしていた。


セーラー服。そうそれは女子が着る制服である。


男が着るものでは無いし、似合うものでもない。


しかしイツカはそれを違和感なく着こなす。もうどこからどう見ても普通の女子高生にしか見えなかった。


どうしてそんな格好をしているのかというツッコミより先にミニスカートから伸びる白くてスベスベの細い足が網膜に焼き付く。



これは毒だ。



「これもうどっからどう見ても女の子でしょ?どう?あり?ありでしょ?ケイくん?ねえねえ?どうなんだよ?」


「…………」


「ほらほら黙ってないでなんとか言えよー!なになに見とれちゃった?可愛い?ねえボク可愛い?彼女にしたい?タイプ?どうなの?」



ニタニタと意地の悪い笑みを浮かべながら、挑発するようにイツカは俺に近づいてくる。


やめろ。こっち来んな。



「ケーイー?ほらほら感想!」



イツカの手が俺へと伸びる。



パァンッ!と乾いた音が響いた。



「……え?」



伸ばされたイツカの手を俺は振り払うように思いっきり叩いていた。



「さ、触んな……!」



思いの外、大きな声が出て。


それを聞いたイツカの表情が一転してみるみる青ざめていく。



「ご、ごめん……」



イツカの顔が絶望に染まり、暗く、悲しく、どんよりと落ち込んでいく。



「えっと……これはその……ちょっとからかってやろうって……それだけで……別に他に他意はなくて……それで……あの……えっと……だから……違くて……」



しどろもどろに狼狽えながらもイツカは言葉を探すも上手く見つからないのか、意味の無い言葉ばかりを呟く。



「き、キモかった……よね?」



今にも泣き出しそうな顔で。


引き攣った笑みを浮かべながら。



「こ、こんな事……もう、し、しないから……だから……」



そうしてイツカは絞り出すようにして呟いた。



「き、嫌いに……ならないで……」



ああ、俺は一体何をやっているんだ。


嫌いになる。


それが出来れば苦労なんてしなかった。


嫌いになれないし、離れられないから、こっちは困ってるんだ。


なんでそんな顔するんだ。


なんでそんな顔にさせてるんだ。


イツカのそんな顔を見たくなんかない。


いつも通りに能天気にヘラヘラ笑っていて欲しい。


もういい。


こんな顔にさせるぐらいなら。


もうどうとでもなれ。



「イツカが悪いんだからな」


「け、ケイ……?」



振り払ったイツカの手を掴んで、そのまま力ずくで引き寄せて、その華奢な身体を抱きしめた。



「えっ……ちょっ――んッ!?」



そしてそのまま無理矢理イツカの唇に自分の唇を重ね舌を口内にねじ込む。



「んー!?ん、ンンっ!?」



逃げる舌を舌で絡め取り、嬲るようにイツカの口内を犯していく。離れようと僅かに抵抗するイツカを

キツく抱きしめ離さないし、逃がさない。もう止まれない。


次第にイツカの抵抗が弱まり、スルリとイツカの腕が俺の首へと巻きついた。


逃げようとしていた舌が積極的に俺の舌へと絡みついてくる。気がつけばお互いがお互いを求めるように絡みつく。流し込んだ唾液が混じり合いぴちゃぴちゃと音を立てる。甘い、甘い味がした。


しとしきりイツカの口を味わって、少しの名残惜しさと共に唇を離すと2人の唾液が糸を引き、そして切れた。



「け、ケイ……」



白い肌は紅潮し、濡れた瞳で俺を見上げるイツカは既に出来上がっている。


それを見て、俺の中にあった僅かばかりの理性が完全に消し飛んだ。


その場にイツカを押し倒す。



「ずっと我慢してたのに!オマエが!オマエがそんな格好をして!俺を挑発するから!だから俺は!」



そうして俺達は一線を越えた。







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親友(男)が女装して俺の理性が消し飛んだ 助部紫葉 @toreniku

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