エピローグ:最終話

初めて彼に出会った日のことを、今でもはっきりと覚えている。


混雑した駅の構内。


彼の音楽が、俺を導いてくれた。


そうしてたどり着いた先、彼の周りだけ、不思議と世界に色がついて見えたのだ。


それから共に時間を過ごすうち、いつの間にか、彼は俺にとってかけがえのない存在になっていた。


一度失い、大学で再会してからも、それは変わらなかった。


でも。


そこで再び、俺は彼を失いかけた。


そうして何度も繰り返した後悔の先、ようやく気づけたことがある。


それは、俺にとって彼が特別な存在であったように、彼にとってもまた、俺は特別な存在であったということ。


それなのに。


互いに大切だったのに、分からなくて、すれ違って、傷ついた。


だから今度は


ちゃんと二人、向き合って。


踏み込むことを、恐れないで。言葉にすることを、恐れないで。そうして二人で未来に進もう。


「なぁ、まずは一緒に連弾しよう。俺がお前に作った曲。ちゃんと作り直して譜面におこすから。それがいい」


「分かった。でもまぁ、何にしても、先にこの報告書を終わらせてからになるぞ。お前もちゃんと、心配かけた人に目覚めた報告、先に全部終わらせろよ」


「しないといけないことが山積みだな」


「そうだな。でも、時間はたっぷりある」


蛍琉が笑って、俺も笑う。


もう大丈夫。だって、蛍琉は目覚めたのだから。

俺たちは再び、巡り会えたのだから。


これは、『かつての悲劇を語る物語』なんかじゃない。これは、その先にある、『未来への希望を紡ぐ物語』。


途切れてしまった旋律を、再び繋いで。


俺たちの新しい音楽は、ここからまた、始まる。


                  Fine

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

優しい嘘に別れを告げて、どうか消えない旋律を 月詠のら @MoonlitStrayCat

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ