貨幣

 異世界の商人たちよ。


 想像にたがわず、いい商売してんな前ら。

 へいの交換レートとか、あれ時々「金貨1枚=銀貨10枚=銅貨100枚」みたいな、頭のおかしい相場でやってるじゃねえか。

 少なくともこっちの世界じゃあ、金属の相場比率なんて「金80,000:銀1,000:銅10:鉄1」でほぼ決まりだ。

 こいつは世界の原子総量での比率に起因するやつで、狂ったら生き物の出来も変異しちまう。

 でも異世界もフツーの奴らばっかだよな、じゃあこの比率が変わるはずが無え。

 だいたい、「へい」ってのはそもそも「数字」じゃねえ、国あたりが造ってる「物」だ。

 数字を自由に作れる「へい」でも存在すりゃあ、話も変わるがな。

 目的物同士を直接交換するよか、クッションひとつませたほうが取引の機会に恵まれやすい、って発想で創られはしたがな、物々交換ってやつ自体から大きく離れるもんじゃねえ。

 で、物ってのは相場が変動すんだし、傷とかで価値下がったりすんだからな、金貨1枚がつねに決まった枚数の銀貨になるたぁ限らん。

 その相場ってやつも、発行元の信用度だの、関係上での確執だの、水増しの混ぜ物の量が発行時の経済状況で変わるだのな。

 そもそもみんな「いい子ちゃん」じゃねえんだし、どうせ売るんなら取れるだけ取りてえわけだ。

 いろんな要素が全部ひっからまって、同じ品でも価格がクッソ激しくバラけるから、値段なんてのはこうしょうはじめなきゃわからんもんよ。

 ……そんなんじゃ勘定に手間取るんじゃねえか、だと?

 おうその通りよ、だから買い物をサクッと済ませよう、だなんてな真似は普通やらんぞ、それやったら買い物に失敗すっかんな。

 それよかさあ、「価値あるやつを安く、無価値なやつを高く」ってこれ、労力なしにざやかせぐ手法じゃねえかよ。

 そんで金や銀を安く手に入れて、陰で売りさばいちまおうって寸法だ。

 ……ほんといい商売してんな、おれ様も混ぜやがれ。


 ま、そういうこった。

 へいってのはへいと違って、人らの生活の助けにするために国が造ってる「物」なんだわ。

 だから日本のカネもな、へいに関しては政府が造ってる「物」だ、経済操作のために行政のだいさんしゃが造ってるへいとはちげえんだ、国に感謝して大事に扱えよ。

 まあただそれもな、「10円硬貨」とか味気ねえ名前付けよるから、なんの魅力も感じねえってのはある。

 そんなん、大事にしようとか思わんだろ。

 そこでこのおれ様がだな、カッコよく命名し直してやるから、有りがたく思え。

 えー、うぉっほん。

 1円硬貨は「ジパング軽銀貨」、5円硬貨は「ジパング黄銅貨」、10円硬貨は「ジパング青銅貨」、50円硬貨は「ジパング白銅貨」、100円硬貨は「ジパング大白銅貨」、500円硬貨は「ジパング黄銅環白銅貨」……だ。

 ふっ、どうよ?

 これでもう会計するとき、「支払いはジパング黄銅環白銅貨で構わないか?」とか異世界キメられるわけだ!

 ふははは最っ高だろう、おれ様天才!!

 いいかよく聞け、こうやって発想ひとつで、世界なんていくらでも変えていけんのよ。

 「どうせこんな世の中じゃ」なんて、情けねえ弱音吐いてんじゃねえぞ?

 ……おい、今「情けねえのはどっちだ」とか言いやがったのだれだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

異世界くだ巻き譚 たてごと♪ @TategotoYumiya

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ