第47話 最終話

 ――最後の戦争の日から、一年弱の時が経った。

 犯罪者討罰法が無くなり、二〇四九年以前の法律に戻った社会は、犯罪数が圧倒的に増加していた。まだまだ犯罪者への差別も残っており、職場や学校等で犯罪を犯した者への扱いはハラスメント染みていた。

 アウトロー街は政府が管理しているも、未だに元犯罪者達が根付いている。彼らから家を奪うと何をしでかすか分からないのと、社会復帰の足枷になるため、政府はどう対応すべきか判断しかねている状況である。その後始末は、面倒を押し付けられるように、総理大臣を辞任した一心に一任されており、剣崎は総理秘書官を辞めて、その補助をしていた。

 糸田と炎士は死に、シロは地下に厳重に拘束されている。最強の【咎】を持つシロをどう拘束しているかと言うと、【咎】を発動し、ナノマシンに何らかの反応が見えたら即座に強固な地下室内部を爆破し、そこに毒ガスが散布する。二段構えの罠をシロに告げて拘束しているのだ。故にシロは【咎】を発動することもなく、過去の罪の裁判を待つ間、白い地下室の中で一人、テレビや漫画を読んで自由気ままに暮らしている。

 リンファと凛と蘭に至っては、行方知らず。持っている財産と共に故郷の中国に帰ったのではないかとの風の噂が流れているも、実際のことは誰も知らない。

 一方、アウトローだった太一と彩葉は復学せずに、どんな生活を送っているかと言うと――。

「いやあぁぁ‼︎」

「うるせぇ! 黙ってろ‼︎」

 都内の銀行では銀行強盗が起きており、騒然としていた。銃火器で武装する犯人は金髪と坊主頭の二人。銀行の周囲を囲む警官隊を警戒し、二十人程の人質を取って立て籠っている。数時間に及ぶ硬直した状況に、現場の警察はパトカーの無線機を手に取る。

「本部、【対凶悪犯部隊】に応援を求む! どうぞ!」

『もう送っている』

 そう答えたのは、警視庁にいる火野。【アウトロー討罰隊】が解散され、現在は警視庁の中で【対凶悪犯部隊】の隊長として指揮を執っている。

 銀行の中では、地面に座らされる二十人程の人質に、二人の少年と少女がいつの間にか紛れていた。金髪の犯罪者に銃口を突きつけられている人質の女性が怯え切っている中、

「やるかね」

「はい」

 二人は立ち上がり、始動する。

 疾走――凄まじい速さで銃を持つ二人の犯罪者に近づく。少女は人質の女性に銃口を向けている金髪の犯罪者に、少年は他の人質を見張る坊主頭の犯罪者に。

 突如目の前に少女が現れ、「ひっ」と驚いた金髪の犯罪者は、女性に向けた銃の引き金を思わず引きそうになる。

一つだけの強盗ワン・スティール

 まるでマジックのように、金髪の犯罪者から一瞬で銃を盗んだ少女は、顔面に掌底をガッと、お見舞いして彼の意識を刈り取る。

「うぉわ⁉︎ 何だ、お前‼︎」

 ドンッ、ドンッ!

 もう一人の少年は、坊主頭の犯罪者に銃を二発放たれるも、それを躱し――。

「すみません。弁解は裁判でお願いします」

 顎先に蹴りを放ち、意識を奪った。

「【対凶悪犯部隊】がやったぞ! 総員、突撃‼︎」

 それを見た銀行を取り囲んでいた警官隊が、銀行に入って来て速やかに犯人の二人を拘束し、人質を解放していく。一仕事を終えた二人の少年少女は、銀行の外へと出て行った。

『太一、彩葉、問題ないか?』

 その二人の少年少女は、太一と彩葉。アウトローの二人はまだ保護観察という身ではあるが、その身体能力の高さから、警視正の火野の元で【対凶悪犯部隊】の一員として、警察の手に負えない事件を担当していたのだ。

「はい」

「問題ないさね」

『ではまた何かあれば、連絡する。この前みたいにインカムを失くすなよ。常に手元に置いておけ』

 火野がそう言って、通信は切られた。

「ったく、人使いが荒いったらないさね。休日も糞もないじゃないかい」

「まぁまぁ、俺達が選んだ道ですし」

 最後の戦争の日が終わり、太一と彩葉にはいくつかの選択肢があったが、犯罪者討罰法が無くなって犯罪が増えることを予期していたため、リンファ達のように行方をくらますのではなく、政府の犬とも言える警察に協力し、飼われることを選んだ。

「まだ、俺には何が正しくって、何が間違ってるかは分かりませんが、悪くない社会になったと思います」

 太一はこの社会を見るように、空を見上げる。

「犯罪者討罰法がある時は、やっぱりどこか歪だったように思えます。犯罪者だからって、罪を犯したからって、殺すことが罰だなんて極端過ぎる。復讐や私刑をしても、満たされるのは一時の感情だけでしょうし」

「そうさね。あたいみたいに、犯罪をしたくなくてもするしかないってヤツもいるしね」

 彼に続くように彩葉も空を見上げた。

「俺は……彩葉さんと同じで、俺がアウトローになって手にした力は、犯罪と向き合うために使います。もう復讐に心を濁す人が現れないように。皆が納得できる社会のために」

「あたいはあんたのために使ってんだけどね」

「……へ? 今何か言いました?」

 語るのに夢中で彩葉の小声が聞こえていなかったのか、太一は再び聞き返すも、彼女は呆れたように先を歩き出した。

「バーカ、何でもないさ」

「ちょっと、彩葉さん! 絶対何か言いましたよね⁉︎」

 そんな太一は、彩葉を駆け足で追いかける。太一が自身を縛る鎖を破り手にした自由を、犯罪と向き合うために。

 そして、彩葉と向き合うために――。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

アウトロー 穴ポコ @anapoko

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ