第9話『小さな満月を作りましょう』後編

 白くなった床とかテーブルをいて綺麗にしたり、ヤタ様に顔を拭いてもらったり、粉の袋を片付けてたりしているうちに15分が経った。


「お、そろそろ蒸し上がりですかね」

「できたのー?」

「中身を見てみましょう」


 ヤタ様は、鍋をかまどからおろしてから蒸し器を外す。蒸し器は湯気を立てているから、とっても熱そう。


「あつくないー?」

「熱いですよ。ホカホカです。火傷やけどしないように、気を付けないように運ばないとですね」


 ヤタ様は蒸し器をテーブルまで運ぶ。あたしは椅子に上って、蒸し終わった生地を見ることにした。

 蒸し器のフタが取られると、白い湯気の先にてかてかした白いものが見える。


「おー!」

「うんうん、いい感じに蒸しあがってますね」

「このまま食べれるー?」

「食べられはしますよ。でも、多分あんまり味はしないと思います」

「おいしくないのかー」

「それに、見た目があまり良くないです。見た目を美味しくするために、これから仕上げをしていきましょう」

「どんなことするのー?」

らした手ぬぐいを使って、また生地を捏ねていくんですよ」

「またひとつにするのかー」

「そうですね。それでちぎって丸めたら完成です」

「はやくやろーよー!」

「ええ、やっていきましょう」


 ヤタ様は、濡らした手ぬぐいの上に蒸した生地を箸で移動させてゆく……だけど、それを見てたらちょっとずつ移動させるのがゆっくりになっていく。そして、何回か行ったり来たりを繰り返して、ヤタ様の手は蒸し器の上でも手ぬぐいの上でもない空中で止まってしまった。


「どーしたのー?」

「どうやってこの小さな生地をまとめて捏ねていこうか、と考えていたのです。このまま素手でやったら、手ぬぐい越しでも火傷しちゃいますからね」


 ヤタ様は魔法を使えないから、このままだと何もできないのかー。あたしなら、なんとかできるかなー?


「ヤタ様ー」

「リン、どうしましたか?」

「手ぬぐいをさわったらあついんだよねー?」

「そうですね」

「手ぬぐいをさわっても、あつくなかったら生地をこねられるんだよねー?」

「ええ。どうにかしてその方法を考えなければいけませんね」


 それなら、多分この魔法を使えば大丈夫。


「アンスタンビュフォン」


 目に見える変化はないけど、これで大丈夫。


「魔法? ですか。何が起こったんですか?」

「これでだいじょーぶ! さわっても、あつくないと思うよー」

「本当ですか?!」


 ヤタ様は、生地に手ぬぐいをかぶせて、その上からおそる恐る生地に触る。

 

「……本当だ! 熱くない。リン、ありがとうございます」

「えへへー」


 ヤタ様が喜んでくれて嬉しい。それに、お団子もちゃんと完成しそうだからそれも嬉しい。


「残りの生地も移して、捏ねていきますか」


 蒸し器に取り残された生地を手ぬぐいの上に移すと、手ぬぐいを使って生地をまとめる。それから、包むようにふたつに折って、体重をかけてこねこねしていく。

 ちょっと、大変そう。でも、熱くない分楽になってるのかな?


 しばらくこねこねていると、手ぬぐいの間から見える生地が段々とつやつやしてくる。なんか、おっきくて丸い白玉みたい。……でも、なんかもっと似てるものがある気がする。


「よし、捏ねるのはこんなものでしょう」

「なんか、おっきな満月みたいだねー!」

「確かに。それでは、ここからは小さな満月を沢山作りましょう。今はもうそのまま触っても熱くないですよ」


 ヤタ様がそう言っているなら熱くないから、大きな満月に触ってみる。

 

 ……ぴと。あったかい。

 ちょっと力を入れてみる。もちもちする。


「あったかくて、もちもちだー! おいしそうだねー!」

「一口で食べられるくらいの大きさにちぎって、丸く形を整えたら完成ですよ」

「ついに完成かー!」

「ええ。生地が大きいので、沢山できますよ。一緒いっしょに満月、作りましょう」

「おー!」


 あたしたちは、大きな生地から小さなもちもちをちぎって、手で丸い形にしていく。そのまま触るとちょっとベタベタしててくっ付くから、手を水で濡らしてくっつかないようにしてから、生地を丸めていく。


 1個、2個、3個……。


 大きかった生地は段々と小さくなって、代わりに小さな満月が並べられていく。




「結構な数ができましたね」

「たくさんできたねー!」


 1個の大きな満月から、40個くらいの小さな満月ができた。


「やはり、多めに出来てしまいましたね」

「後で食べればいいよねー?」

「そうですね、余った分は後で――いや、お昼ご飯にしましょう」

「おぉ? すぐに食べれるのー?!」

「ええ、作りたてのほうが美味しいですからね。もちろん、タレも用意しますよ」

「やったー!」


 あれ? でも、これってお供え物じゃなかったっけ?


「お供え物、神様より先に食べちゃってもいいのー?」

「大丈夫ですよ。神様も多過ぎるお供え物を出されたら、食べ切れなくて困るのです。だから、私たちが余った分を食べるのは問題ないのですよ」

「供えすぎもよくないんだねー」

「そうですね。さて、まだやることはいくつかありますから、満月を食べて頑張っていきましょう」

「おー!」


 作りたての満月、もちもちのお団子。はやく食べたいなぁ。

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Usual UnUsual Days 八咫空 朱穏 @Sunon_Yatazora

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