第8話『小さな満月を作りましょう』前編

「そろそろ、作り始めましょうか」


 朝ごはんを食べて、果樹園でくだものを採って。今はおうちでのんびり過ごしている。

 あたしはのんびりしてるけど、ヤタ様は朝ごはんを片付けてからもテーブルに物を運んでいる。いつもよりいそがしそうな気がする。


「なにつくるのー?」


 ヤタ様はテーブルから白い粉の入ったふくろを持ち上げて、さらに強調するように少し持ち上げる。


「これを材料に満月を作るのです」

「おおー! まんげつー!? お月様、つくるのー?」

「いえいえ、そんな大きなものは作れません、団子のことですよ。白くて丸いので別にそう呼ばれるのです」

「お団子、おいしいよねー!」


「さて、お団子の材料は何でしょうか? リン、当ててみてください」


 あたしは、ヤタ様の持っている袋をじっと見つめる。白い粉が入っている。……どこからどう見ても白い粉にしか見えない。


 うーん、白い粉だねー。白い粉、いくつか言ったら当たるかなー?


「こむぎこー!」

「いいえ、違います」


 こっちじゃないのかー。それじゃあ、こっちかなー?


「さとー?」

砂糖さとうでもないのですよ。少しは加えますが、この袋の中身は違います」


 さとーでもないなら、もうこれしかないよねー。


「それじゃあ、おしお……?」

「いいえ、塩でもないのです」


 どれもちがうなら、この白い粉はなんの粉なんだろー。


「わかんないよぉー……。なんの粉なのー?」

「これはお米の粉、米粉というものです」

「お米って粉になるのー!?」

「ええ。水で洗ってかわかして、ってからくだくと、このように粉になるのです」

「なんか、すごいねー!」


 とりあえず、お米をなんやかんやすると粉になるらしい。これはお米の粉だってことを覚えておこう。


「それでは、この米粉を使ってお団子づくりを始めましょうか」

「おー!」

「まずは米粉をボウルに移しましょう」

「あたし、やりたーい!」

「袋は少々重いので、下の方は私が支えます。リンは、上の方を動かして粉を出してください」


 あたしは椅子いすに上ると、ヤタ様が支えている袋の上の方を持って粉を出していく。最初は少しずつ袋をかたむけて粉を出す。袋から白い粉が少しづつ、ボウルに注がれる。お米の粉は、小麦粉よりは重そうで、砂糖よりはさらさらしてる感じがする。


「おー、結構さらさらしてるねー」


 粉がたきみたいになっている白い粉で面白くなって、一気に袋を傾ける。すると、大量の米粉がボウルに注がれて盛大に粉がう。そしてそれがあたしの顔に直撃ちょくげきする。


「うわっ!?」


 思わず目をつむりながらあわてて袋の傾きを戻す。

 目を開けてボウルの方を見ると、ボウルの中には米粉の山ができていた。


 ……入れすぎちゃったかなー?


「ちょっと入れ過ぎですが、このくらいなら問題ないでしょう。その分、沢山作ればいいのですから」


 ヤタ様はあたしの顔をのぞんで、微笑ほほえむ。


「ふふっ、ちょっと顔が白くなってしまいましたね」

「あたしのお顔、白くなっちゃったー?」

「ええ、少し白くなってます。テーブルもちょっと雪が降ったみたいになっていますね」


 テーブルを見ると、ボウルの周りのテーブルも白くなっている。服を見てみると、あたしのもヤタ様のも白くなっている。


「ヤタ様、ごめんなさい……」

「いえいえ、謝ることはないですよ。粉を使うと、私でもたまにこうやって白くしてしまいますから。気にせずにお団子づくりを続けましょう」


 ヤタ様はおこっていないどころか、私を優しくはげましてくれた。


「次は、ちょっとだけ砂糖さとうを入れて、よく混ぜます。粉が舞わないように、ゆっくりと」

「ちょっとだけなのー?」

「ええ、お供え物ですから。あんまり甘くてはいけないのですよ」


 ヤタ様は、そう言いながら手を動かして、米粉の山に砂糖を少しだけかけてから粉が舞わないようにゆっくりと山をくずしてたいらにしていく。


「お供え物だから仕方ないんだねー」


 確かに、お供え物ってあんまりあまいものとか、辛いものとははない気がする。きっと、そういうものなんだろーなー。


「供え終わったら、私たちが頂くことになりますから。その時に味付けしてを食べましょう」

「たのしみだねー!」


 ボウルの中で平らになった粉は、雪が降った平原みたいな感じがする。


「次は、お湯を入れて混ぜていきます。危ないので、私がやりますよ」

「はーい」


 ヤタ様はテーブルを離れると、かまどで火にかけていたなべを持ってきた。もくもくと湯気を立てているお湯は、確かにあぶない。


「すみません、リン。鍋きを持ってきてもらえますか? 鍋敷きを用意するのを忘れてしまいました」

「いいよー」


 こういうのは、探すと面倒だから魔法まほうを使う。


「スペクト・コフリン!」


 台所の棚から、鍋敷きが飛んでくる。それをキャッチして、ヤタ様に渡す。


「はい、どーぞ」

「リン、ありがとうございます。助かります」


 ヤタ様は鍋敷きテーブルにを置いて、その上に鍋を置く。そして粉の入ったボウルと鍋を交互に見る。


「……ふむ。この粉の量ですと、鍋の3分の2くらいのお湯でしょうか? とにかく、お湯が冷める前にささっとやってしまいましょう」


 ヤタ様は、米粉の入ったボウルに一気にお湯を入れる。お湯を入れると、ちょっとだけ粉がって、白いけむりみたいなものが見える。さっきのよりふわっとした感じで、お顔も白くはならない。なんか、魔法の実験をしてるみたい。


 鍋を戻すと、お湯を入れたボウルをはしでかき混ぜる。段々と、さっきまでサラサラの粉だったのが、白いポテトサラダみたいな感じになってくる。それよりもうちょっと、ベタベタしてる感じの方が近いかな?


「うーん、ちょっとお湯を入れ過ぎてしまったようなので、粉を足しましょう」


 粉を足してかき混ぜると、ベタベタ感がなくなってポテトサラダからパンの生地の方が近い感じになった。


「うん、こんなものでしょう。あとは頑張って手でねていきます」


 さっき熱湯を入れたばかりなのに、手を使ってこねこねするのかー。なんか、大変そー。


「あつくないのー?」

「ちょっと熱いですが、そのうち慣れますよ」


 ここはヤタ様のお仕事だから、あたしは何をすればいいんだろー?


「あたしはなにすればいいのー?」

「そうですね。リンには、し器の準備をお願いしたいです。できますか?」

「やるー! できるー!」

「それでは、お願いします」


 ヤタ様は、ボウルに手を突っ込んで生地をこねこねし始める。その間に、あたしは蒸し器を準備をする。蒸し器はたまに使うから、どこにしまってあるかわかる。蒸し器を一通り出すと、組み立てていく。


 蒸し器に丁度いいお鍋はどこかなー?


 さっきまで蒸し器がしまってあった場所を探してみるけど、見つからない。どこにあるんだろう? ヤタ様に聞いたら、わかるかな?


 あたしはヤタ様のところに向かっていく。ボウルの中を覗いてみると、ひとかたまりになった生地がこねられている。さっきよりもちゃんと生地って感じがする。


「ヤタ様ー? 蒸し器のお鍋ってど――」


 あった。


 テーブルの上に目を移すと、探していた鍋が置いてある。


「鍋……?」


 あたしがヤタ様の方を見ると、ヤタ様はあたしと入れ替わるように鍋の方を見る。


 ちょっとだけ、空白の時間が流れる。


「……あぁ! この鍋、そういえば蒸し器用のやつでしたね。使い勝手がいい大きさなので、よく使ってしまうんです」

「それ、使いたいのー」

「まだお湯が入っていますから、こぼさないようにしてくださいね」

「はーい!」


 魔法で水球を出して、鍋に入れる。そのまま鍋をかまどにセットする。組み立てた蒸し器をかまどの横に置こうとすると、ヤタ様がボウルを持ってあたしを呼んでいる。


「生地、できあがりましたよ。リン、蒸し器をこっちに持ってきてください」

「はーい!」


 あたしは、蒸し器を持ってテーブルに向かう。ボウルの中身を見てみると、さっきよりも更に生地っぽさが増している。


「おー! 白いパン生地みたいだねー」

「確かに。でも、これもパン生地と似たようなものですよ」

「じゃあ、これで完成じゃないよねー」


 パンもここからはっこー発酵させて、その後に切ったり丸めたりするんだよね。お団子も、そういうことをするのかな。蒸し器を準備したから、これを蒸していくのかな?


「そうですね。小さくちぎって蒸して、それからまたまとめて、捏ねて。またちぎって丸めたら完成ですよ」

「なんで最初にちぎるのー? 最初からおっきいまま蒸したらいいんじゃないのー?」

「このままだと、蒸し器に入らないんですよ……って言うのは冗談です。ちゃんと、意味があるのですよ」

「意味があるのかー」

「ええ。小さくすることで、中まで火が通りやすくなるのです。蒸して中が生だったら、美味しくないお団子ができちゃいますから」

「まずいのは、いやだねー。小さくすると、おいしくなるのかー」

「そうですね。美味しくするためのひと手間ですね」

「それじゃあ、おいしくしていくぞー!」


 あたしとヤタ様は、ボウルに入っている生地を少しずつちぎって蒸し器に置いていく。ヤタ様が言うには、ちぎったやつはあんまり分厚くしないほうがいいってことだから、ちょっとだけ押して平たくしてしてから蒸し器に置いていく。

 なんか、白いクッキーを作っているみたい。


 生地を全部ちぎって蒸し器に入れると、蒸し器がいっぱいになった。


「予想はしていましたが、ここまでギリギリだとは……。でも、1回蒸すだけで大丈夫そうでよかったです」

「たくさん食べれるからいいよねー?」

「そうですね。いつもよりたくさんお団子ができますよ」

「やったー!」

「完成するのはもうちょっと先ですけどね」

「早く食べたーい!」

「ふふ、そうですね。それでは、蒸していきましょう」


 ヤタ様は、生地の入った蒸し器を白い湯気を立てている鍋の上にセットする。


「どれくらい蒸すのー?」

「15分くらいでしょうか」

「15分かー。ちょっと、長いねー?」

「散らかった物を片付けてるのには丁度いい時間だと思いますよ」


 ゆかとかテーブルは白いままだった。多分、あたしの顔もまだ白いと思う。


「粉で白くなっちゃったもんねー。よーし、お片付けするぞー!」

「おー……ですかね? ともかく、お片付けしましょう」

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