第36話 私に起こった「奇跡」
強く持つのは「意思」より「意識」。
人が薄くなるのを視たくなければ、「視ない!」と「強く意識」すること。
子どものときから他人の気や念を受け取りやすい受信機体質の私の場合、「特に強く」意識することがポイントになる。
かといって、自分自身の気持ちを全く感じなくなるほど強く意識し過ぎるのも問題だ。
この世では「健全に」生きることが、とても難しくなるから。
要はバランスを取ること。「視える」世界と「視えない」世界の均衡を保ちながら、自分なりに境界線を引いて、自分の世界をちょうど良く加減・調整し、調和させる。
受信機体質の私だったら、「アンテナの感度を鈍くする」程度で十分だろう。
これはすごく簡単な方法だけど、行動に移した翌日からその効果は表れた。
まず他人の念や気。
相変わらず感知はするけど、それらを受け取り過ぎなくなった。
だからそのせいで気分が悪くなることもなくなって、もう1週間以上経つ。
特に体育の授業には、効果がテキメンに表れた。
もちろん(特進クラスメイト以外の)男子生徒たちからのエロい視線や、女子生徒からの嫉妬の念を、相変わらず受けてはいる。
だけど以前より気にならなくなったのは、「気にし過ぎない」と自分で意識した結果、プラス界人の存在が大きい。
実際、界人は私を護ってくれていると分かっているから、私は安心して体を動かす(体育の授業を受ける)ことができている。
まさか受信機体質の私が、「普通に」体育の授業を受けることができる日が来るなんて・・・何気にすごいな私は、と自分で自分を褒めてしまう。
だって私にとってこれはもう、「歴史が変わった」と思えるくらいの出来事だから。
気分が悪くなるたびほぼ毎回、私の“世話”をさせられていた忍にも「まーに奇跡キタ!?」って言われたし(忍自身は私の世話を「させられてる」とは全然思ってないようだから安心した)。
銀兄ちゃんからは、「単に今までのおまえが気にし過ぎてただけだろ」と、“軽く”言われたけど。
でも二人とも、私が霊力をコントロールできていることを喜んでいるって“分かる”。
二人とも、言いたいことを私に言った後、しめくくりは笑顔で「良かったな」だったし。
私に起こった「奇跡」はまだある。
人が薄く視える現象も、それ以来ピタッと止んだ。
だからその人の「寿命」が尽きるのか、それとも「(強く)絶望」しているから薄く視えるかは、結局分からないままだけど、この現象自体が起こらなくなったことが重要だから、区別できなくても構わない。
それに「寿命か絶望」っていうのも、あくまで「そうではないか」という推測の域でしかない。
だけど、「本当の意味」まで知らなくてもいいっていうか、本当の意味を知らないうちに、人が薄く視える現象が起こらなくなって良かったと思ってる。
そういうわけで、同じ人がまだ薄く「視え続ける」かどうかまでは、その人と偶然でも再会していないから、今のところは分からない。
ちなみに、頼人叔父さんの妻で慶葉学園の理事長を務める、めいおばさんからの情報によると、私が薄く視え続けた唯一の人物である近江先生(2年特進クラスの担任だった)は「病気で」入院している。
めいおばさんから「それ以上のことは今はまだ私の口から言えない」と言われたから、近江先生の病状や病名は詳しく分からないけど・・・どうやら近江先生が薄く視え続けたのは、「絶望」よりも「寿命」が尽きつつある可能性のほうが強いようだ。ってこれも推測の域でしかないけど、一緒に聞いてくれた父さんも、私が聞く前に、私と同じ判断をしてたし。
あと、年齢的に「寿命」で薄く視えたと思われる70代の松田さんは、すでにタンザニアへ出発しているため、あれ以来会っていないから確かめようがない。
でも松田さんの孫娘である遠藤スミレからは「おばあちゃん?全然元気だよ」と聞いたから、ひとまず安心している。
そうそう、遠藤スミレのことだけど・・・。
月曜日に学園で会った遠藤さんに、「美味しい白桃を選んでくれてありがとう」とお礼を言った。
これは私自身と「約束してたこと」だし、私のために誠意を尽くしてくれたことに対して感謝の気持ちを伝える――お礼を言う――のは当然のことだと、私は思ってる(ただし、再び会うことが分かっている人に対しての話)。
だから私としては、個人的な約束を果たした時点で遠藤さんとの“かかわり”は、もう終わったはずだった。
けど遠藤さんにとって、それは「始まり」だったみたいで・・・。
「やっぱりわたし、“神谷雅希ファンクラブ”を立ち上げるから!」と遠藤さんに「宣言された」私は、たっぷり5秒は黙った挙句に「・・・・・・は」というリアクションしかできなかった。
でもそれを機に、遠藤さんとは比較的長くつき合うというか、今後も「かかわり合う」ことになる。
遠藤さんのサポートがなければ、「未来の私」は自分がやりたいと思ったこと――仕事――を、自分のペースで細く・長く、なおかつ安定して続けることができなかった。
なんて、そのとき(15歳)の私は当然“まだ”知らなかったけど。
そして翌週にはもう一つ、とても大きなサプライズニュースがあった。
ていうか、私のファンクラブができたことなんて、この知らせを聞いたときの驚きに比べると、私のファンクラブができて「どうしよう」・・と思ったことが、話題性もひっくるめて「全然大したことない」と思い替えられたくらいだ。
それは(翌週の)火曜日の朝のこと。
忍と私が教室に入るなり、クラスメイトの「まリア充」こと安倍まりあが、“私”に向かって突進してきた。
「まさきーっ!!」と叫びながら、迷うことなく私に抱きついたまリア充は、その表情から怒ってはいないと分かったし、ナイフ等の凶器も持ってなかったので、私はとりあえず、まリア充を抱きとめた。
「おはようまリア充。どうしたの。何かあった?」
「・・・おはよう雅希。その様子じゃ、やっぱり雅希は知らないんだね」
「だから何を」
「・・・戻ってきた」
「え。何が?それとも誰・・」
まさか。
ハッとした私の予測を裏付けるように、まリア充は涙声で、「雄馬くん・・・戻って来たよ、学園に!」と、私に教えてくれた。
死神のマリアージュ 桜木エレナ @kisaragifumi
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