第35話 夢の役割
「今のところ“寿命”か“絶望”か、区別はつかないんだよな」
「うん」
「じゃあ今まで薄く視えた人たちの“薄さ”具合は一緒だったってことか?」
「うーん・・あんまりガン見してないから絶対とは言いきれないけど・・たぶん同じだったと思う」
「そっか。まあ俺の場合でしか言えねえけど、たとえば“俺は今から5分後に死ぬ”っていう気は全然しない」
「な・・何言ってるの!そんなの当たり前じゃない!」
「そうかな。まあ今の例は極端だったてのは認めるけど。俺が言いたいのは、俺は今にも死にそうな状況下にいないし、今、不治の病に侵されてもいない。そして今、命に係わる突発事故が起こる気も全然しない。だからこそ、今から5分後に死ぬ“わけがない”っていう“絶対的な自信”?とにかく確信があるんだ」
「あ・・界人が言いたいこと分かる。なんとなくだけど」
「要は、どれだけ強く“そうなるわけがない”って思っているかじゃね?確信めいて“そうなるわけがない”と思っていればいるほど・・」「“そうなるわけがない”という現実が叶う」
「そうそう、それ!俺が言いたかったことは!」
「・・・可能性は自分で選べる」
「ん?雅希?」
「ねえ父さん」
「なんだ」
「たくさん存在する可能性は、私が視た未来のビジョンも含めて自分で選べるんだよね」
「おまえが“視てない”ビジョンも含めてな」
「あ・・・」
「未来のビジョンが視えるのは、何もおまえだけじゃねえ。俺の弟たちの中にも視えるヤツはいるし、頼人も視えるときがある。だがやつらは意図して視ないようにしている。何故か分かるか?」
「・・・視えたビジョンに翻弄されるから」
「まあそういうことだ。もし自分が死ぬビジョンが視えたとき、大抵の人は“もうすぐ自分が死ぬこと”に意識をフォーカスしてしまう。するとどうなる?」
「そのビジョンが現実になる可能性が高くなる・・・」と答えた界人に、父さんは「そのとおり。”死”自体は誰にでも起こることだが、そのビジョンを現実として“早々に引き寄せちまう”んだ」と解説した。
「じゃあ頼人叔父さんたちは、いつもどうやって未来のビジョンを視ないようにしてるの?」
「“未来のビジョンは視ない”と強く意識するしかねえ。何度も自分に言い聞かせて暗示するようなもんだ。いずれにしても“強く”意識や意図するっていうのがポイントだ。自分が見たいと思う物事――つまり自分が強く意識や意図したこと――が、自分の現実として投影されるのがこの世のしくみだからな。それに頼人も昨日言ってただろ?“極力視たり感じたりしないように意識してるので”と・・雅希?」
『さっき頼人叔父さんが言ってたことを思い出せ』
『え』
『ヒントはそこにある』
『ヒント?何それ。ていうか何のヒントなの』
『前にも言ったろ?持つのは“意思”より“意図”だって。プラス“認識”も。忘れるなよ・・・』
意識と意図。プラス認識。
それからさっき界人が私に言った「気にし過ぎ」は、銀兄ちゃんから前に同じことを言われた。
そのとき銀兄ちゃんは「人は自分が見たいと思うことしか見ない」みたいな・・さっき父さんが言ったのと同じようなことを言った。
てことは、「正夢みたいな夢」に出てきた銀兄ちゃんの「役割」は、私にこのことを教えるため――?
「・・おい雅希っ」
「えっ?」
「どうした。ボーっとして」
「あ・・・あのさ、正夢みたいな夢で銀兄ちゃんに言われたことのほとんどを今、父さんと界人が言ってくれたと思う。だからこれはすごく重要なポイントじゃないかなって気がした」
「そうか、銀河がね。ふーん。“意図”やら“意識”はあいつが言いそうなことだから、ま、“指南役”としては適任だな」と言った父さんに賛同するように、界人は「分かる~」と言いながら、ニヤニヤ笑っていた。
「どしたの界人」
「いや・・おまえが寝てたとき、俺も銀河兄ちゃんから
その光景がパッと目に浮かんだ私は、軽く「そう」と言いながら、思わず顔がにやけてしまった。これじゃあ界人と同じじゃない。
・・・まぁ、それでも全然いいけど。
「“寝てた”で思い出したけど!さすがに二週間も寝続けてたら俺じゃなくても心配するって!」
「は・・?あぁ、そうだよね。って私の中でその話はもう終わってるんだけど」
「マジ!?じゃあ掘り返す必要はなかったか・・・あっ。でもさ、なんで”二週間“だったんだろ」
「それ、こだわらなきゃいけないところ?」
「さあ。頼雅さんはどう思いますか?」
「俺にも分かんねえよ」
「白桃が出回る時期って、今から二週間くらい後だと私は思ってたけど・・」
「だよな」
「そうそう。“スーパーや八百屋とか、普通の果物屋ではまだ販売してないはず”って、遠藤さんにも言われた・・」「界人」
「ん?何、雅希」
「“遠藤さん”って誰。もしかして、私も知ってる“あの人”?」
「えっ?あ、まぁ・・・うん。おまえも知ってる、あの“遠藤さん”・・だったりする・・」
「まさか界人は“遠藤スミレ”と一緒に藤実屋へ行ったの」
「行ってない行ってない!てか藤実屋は、遠藤さんのお父さんが経営してるんだよ」
「え。そうなの。知らなかった」
「俺が藤実屋に行ったとき、店員のエプロンつけた遠藤さんがいたからあれ?と思って聞いてみたら“今日は実家の手伝いしてる”って言われてさ。それで俺も初めて知ったんだ」
「ふーん」
「誰だ?“遠藤スミレ”って」
「同じ学園の同い年の女子生徒。だけどクラスは一度も一緒になったことない」
「そしてそいつは界人・・いや、違うか。雅希、おまえのことが好きなんだな」
「父さん、人の記憶を読まないでくれる?」
「おまえの記憶は“読んで”ねえ」
「じゃあなんで分かるの」
「白桃を“視たら”な、自然と“分かった”」
「すげー!頼雅さん、そういうことまで分かるんですか!?」
「分かるっつーか、ま、この白桃は高級果物店で売ってる品だけあって、高品質なのはもちろんだが、それ以上に波動が良い。おまえにも分かるだろ?」と父さんに聞かれた私は、渋々ながら同意の頷きをして、「“キラキラ”がたくさん視えた」と答えた。
“キラキラ”とは純度の高い波動のことで、私にはキラキラした(金色の)粒で視えるときがある。だから私はそのことを”キラキラ“と呼んでいる。
「きっとおまえのために、遠藤さんが選んでくれたんだろうなと“想像力”を働かせたまでだ」
「“霊力”の間違いでしょ」
「マジですげぇ!俺そこまで話してないのに・・」「ねえ界人」
「んっ?」
「“私に何かあった”って、遠藤さんに話してないよね」
「話してない。おまえに何があったのか、俺自身も完全に把握してなかったっていうのもあるけど、仮におまえが病気になったとか怪我したとか、そのとき分かってても赤の他人には言わねえよ。遠藤さんには“カノジョ、っておまえのことだけど、にプレゼントしたい”って言っただけだ」
「ふーん」
「そしたら、“神谷さんにプレゼントするんだったらお店の中でも一番いいヤツを特別にあげる”って遠藤さんに言われて」
「じゃあタダだったの」
「いや!さすがにそこまでしてもらうのは、カレシとしてどうかと俺は思うから、ちゃんと正価を払ったよ。雅希が宝石を買ったときみたいに、“白桃が高級果物化されてること“にマジで驚いたのは事実だけど!白桃は全部、遠藤さんが選んでくれた。遠藤さんってああ見えて一途っていうか・・まあちゃんとしてるよな」
「おまえが言う“ちゃんとしてる”って、どういう意味だ」
「え?そうですね・・“ズルしない”、っていうかまあ・・“ズルくない”?かな」
「なんだそれ」
ダイニングチェアに座って、テーブルに両肘をついた私は、両手を頬に乗せて父さんと界人の「仲がいいやりとり」を見聞きしながら、自然と口元がほころんでいた。
私はやっぱり、この「現実」がいい。
もし明日、学園で遠藤さんに会ったら、お礼を言おう。
「美味しい白桃を選んでくれてどうもありがとう」って。
このときの、私はもちろん誰にも、「二週間」にも意味があったと気づいてなかった。
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