第40話 朝、いつもの日常

 次の日の朝。


「ふふふっ」

「………………」


 じーーーーーっ。


「ニヒヒヒィ♪」

「………………」


 じーーーーーっ。


 テーブルを挟んで朝食の焼き鮭を食べている姉さんが、朝から不敵な笑みを浮かべている。


(……怪しい)


 これからなにかが起きるのか、それとも、もうすでになにかが起きているのか。


(んんー……あ)


 口の中から鮭の骨をスルッと出すと、皿の端に置いた。

 魚を食べながら考え事をするときは気を付けよう。というか、しない方がいい。

 と、心の中で呟いていると、


 ピンポーン。


「ん? こんな朝早くに誰だろう?」


 ピンポーン。ピンポーン。


「さぁ~ねぇ~」


 ――ニヤニヤッ。


 このはぐらかし方は……


(…………怪しい)


 ピンポーン。ピンポーン。ピンポーン。


「あ、瑞樹ーっ。今、手が離せないから出てきてくれなーい?」


 とキッチンにいる母さんに言われたため、お箸を置いて席から立つと、


「早く~早く~っ♪」

「…………はぁ」


 ため息をこぼしながらリビングを出ると、廊下を進んで玄関へとやってきた。


(……やっぱり、怪しい)


 姉さんがあの顔をするときは、ほぼ十割の確率でなにかが起こる。


 ピンポーン。ピンポーン。


「はぁーい」


 ピピピ、ピンポーン。


「っ……はぁーい! どちら様です……か……」


 扉を開けると、朝一番の元気な声が耳に入った。


「――瑞樹っ! 迎えに来たぞ!」

「おはよう、瑞樹!」

「っ!! 武藤先輩……凛堂先輩……。二人でどうしたんですか?」


 突然の来訪にびっくりしていると、


「今言っただろ? 迎えに来たんだよっ!」

「そ、その通りだ。一緒に、学校に行こう!」


 え? 二人と一緒に学校へ? どういうこと……?


 この状況を理解しようとしている間、先輩たちは満面の笑みで僕の返事を待っていた。


 うーん……よくわからないけど。


「い、いいですよ……っ」

「よっしゃー!」

「イエッス!」


 玄関で熱のこもったガッツポーズを決める二人。


 すごい熱量だ……。


 なんとなく、ここだけ温度が上がったような……。


 と、心の中で呟きながら手でパタパタと扇いでいると、


「よしっ! 行くぞ!」

「早くカバンを取って来いっ!」

「!! えっと……実は、まだご飯を食べ終わっていないんですけど…――」


「「――それなら、ここで待つ!!」」


 一言一句間違えずに言うと、扉の前で仁王立ちする二人。


「え? ……こ、ここで二人を待たせられませんよ!」

「なら、すぐに食べて来い」

「一口で食べて来られるだろ?」

「ひ、一口じゃ無理ですよ!」

「じゃあ、口に詰め込んで――」

「味噌汁で流し込めばいい」

「む、無茶言わないでくださいよ……って、どうしてお味噌汁があることを知っているんですか?」


 ――ギクッ。


「しょ、しょうがないなーっ。それなら、あ、あたしが…――」

「わ……ワタシが、食べさせてやろうっ!」

「あっ。今。あたしが言おうとしていたんだぞ! 横取りするなッ!!」

「ふんっ。先に言ったもの勝ちだっ」

「なんだと……っ!?」

「なんだ? やる気か?」

「上等だ! 覚悟しろーッ!!!」


 そして、また始まってしまった…………つかみ合いからの取っ組み合い。


「「ぐぬぬぬぬぬ……っ!!!!!」」


 お互いの額を擦り付けて睨み合う二人。


 朝から二人とも元気だな……。


「金髪デ~~~ブッ!」

「なにーッ!? この骨太ッ!」

「なんだと~!? このっ、ケツデカ!」

「安産型と言え! いいじゃないか!! 立派な赤ん坊が産め――――あ」

「……っ。せ、先輩たち……」


 ………………………………………………………………………………。


 き、気まずい……。

 こんなことなら、耳を閉じておけばよかった……。


 すると、


「あらら、また始まっちゃったかー」


 姉さんが茶碗と箸を持って様子を見にきた。

 ご飯片手に見に来るくらいなら、止めるのを手伝って欲しいのだけど……。


「…………姉さん。もしかして、これを狙っていたんでしょ?」

「どうだろうね~?♪」


 そう言って、片目でチラッと二人の方を見ていた。

 ……これは、『確定』と言っていいだろう。


「お前は、いつも、いつも!!」

「貴様こそ、いつも邪魔しやがってーッ!!!」


 ………………。


 気づけば、もう見慣れた光景だ。


「「ぐぬぬぬぬぬ……っ!!!!!」」


「二人とも~頑張れ~♪」


 止めるべきか、それとも今みたいに見守るべきか。

 この答えは……簡単には出なさそうだ。


「あははは……はぁ……」

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なぜか、学校で一二を争う腕っぷしの先輩たちに告白された件 白野さーど @hakuya3rd

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