第7話

「かはっ……!」

 辺りに血が飛び散る。

『————お前は俺と一緒に地獄へ落ちろ、バイオレット』

「お、お兄……さまっ!?」

 バイオレットはダンの名を叫び、その場で倒れ伏した。荒い呼吸の中、夜空に手を伸ばす。

「ど……う……して……」

 その手は敢えなく地面へと落ちて、バイオレットは目を固く閉じる。それを見届けるように、漆黒色の矢も消えていく。

「おわっ……た?」

 リリアは爛れて火傷のようになっている両腕から力が抜けて、ぶらりと下に降ろす。同時に自分の力では立っていられなくなる。

「リリアっ!」

 木々の陰からレイウェンたちの姿が見える。リリアはそっと微笑んだ。

「良かった……。みんな無事で」

 倒れそうになるのが、ユエが人の姿に戻り、その肩を支えてくれた。レイウェンが駆け寄ってきて、きつくリリアを抱き締める。

「それはこっちの台詞だよ。無事で本当に良かった」

 掻き抱くようにきつく抱き締められたリリアは、レイウェンに身体を預ける。

 今更のように両腕の痛みが増す。そのまま目を瞑ろうとした時、フライが歓喜の声をあげた。

 ≪みんな、見てー!≫

 その声に、全員が森の奥に見える景色に息を飲む。

 リリアもレイウェンに支えられながら、空を見上げる。

「これは……」

 ≪キレイー!≫

「————こんな光景は、見たことがない」

 ≪俺たちもないぞ≫

 目の前には月と太陽が東側と西側で横一列に並んでいた。まるで、光と闇が一つになったように空の色がグラデーションになっている。

「こんなことって……」

「あるんだ……」

 サラとティラーがお互いに手を握り合いながら、じっとその光景を見つめた。

 カイザーはそっとアイリスの肩を抱き寄せ、アイリスは素直にその肩に寄りかかる。エドワードとキャメロンは互いに顔を見合わせた。

 リリアはレイウェンを見上げる。

「レイウェン」

「リリア、君は本当にすごい女性ひとだ。ますます、君に心を奪われてしまったよ」

 レイウェンの髪が朝日に当たり、キラキラと輝く。その輝きにリリアは目を細め、彼の頬を包み込むように両手を伸ばす。

「わたしは何も。六神たちと……ダンが力を貸してくれたから」

「ダンも?」

 ダンのことは予想もしていなかったのだろう。レイウェンは驚いたように目を見開く。しかし、すぐに感慨深げに囁いた。

「意外と良い奴だったな、アイツも」

「ええ、そうね。わたし達と同じ望みをずっと昔から持っていたのよね。その望みを叶えるのに、こうして一歩近づけたわ」

「リリアを守って、力を貸してくれていたんだな。感謝の意も込めて、彼の墓を作ろう」

 レイウェンは優しくリリアの頭を撫でて、微笑む。そんな彼の顔を引き寄せ、そっと唇を重ね合わせる。

「リ……リア?」

「レイウェン、愛してるわ。わたし————」

 まるで、言わせまいとするかのように再び唇が重なり合う。今度は少し長めの口づけだ。

「僕の台詞を奪わないでくれ。————リリア、僕と結婚しよう」

 レイウェンの言葉にリリアは涙が溢れて止まらなくなる。何度も頷くので精一杯だった。

 息を飲んで二人を見守っていた周りから、わぁっと歓声が上がってグリの力で大量の花びらが舞い散る。

 レイウェンとリリアは顔を見合わせて、笑い合った。

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光陰分かつ天満月と六神龍〜月夜に輝く少女は何を想ふ〜 玉瀬 羽依 @mayrin0120

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