第5話

「何だ今凄い魔法は! あの子、チート能力者なのか!」

「なるほど、勇者が魔王を倒せたのは、仲間にあんな魔術師がいたからか。おかしいと思った」


 騒ぎ出すギャラリー達。チート能力者だってことがバレてる!

 するとさらに。


「その子がチート能力者……クリス様、わたくしを騙していたのですね」


 やって来たのはアリーシャ姫。

 けど、騙すってそんな。


「アリーシャ姫、僕は別に騙していたわけじゃ」

「お黙りなさい。本当は役立たずのザコキャラのくせに手柄を横取りして、英雄を気取っていたのでしょう。その上、このわたくしと結婚だなんて図々しい。恥を知りなさい! こんな結婚、破談です!」


 刺々しい言葉を吐き捨てるアリーシャ姫。

 けど、この結婚はアンタが言い出したことじゃない!


 するとアリーシャ姫、今度は私の方へと来る。


「それに比べて貴女、お強いのですね。わたくし初めて会った時から、貴女は他の方とは違うって思っていましたの」

「はぁ?」

「ステラさんと仰いましたね。貴女こそ、わたくしの伴侶にふさわしいですわ。実はわたくし、百合もいけますの」


 まさかの求婚! いきなりの百合展開ですか!?

 いや、でもそんな事よりも……。


「アリーシャ姫様、一つよろしいでしょうか?」

「なんですの?」

「歯ァくいしばれオラァッ!」


 私の右ストレートが、アリーシャ姫の顔面を直撃。

 ぶっ飛ばされた姫は地面に転がり、信じられないと言った顔をする。


「お、お父様にもぶたれたことないのに!」

「やかましい! 誰がアンタみたいなのと結婚なんてするかー!」


 クリス様が役立たずですって? 

 新魔王を倒せたのは、クリス様が体を張って時間を稼いでくれたからなのに。


 私はため息をつくと、今度はクリス様へと向き直る。


「クリス様、お願いがあります。もう一度私と、パーティーを組んでくれませんか!」

「ステラ……君はそれでいいのかい?」

「もちろんです。クリス様は私なんて要らないかもしれませんけど、私にはクリス様が必要なんです!」


 これは紛れもない本心。

 だってクリス様がいないと私はただの飲んだくれになるって、証明されてるんだもの。


「ステラ……僕は今まで、自分が君の重荷になっているとばかり思っていた。優しい君は力を隠して思うように戦えないし、僕に気を使ってるからパーティーを続けようとしてるんだって思ってた。だけどこれ以上君に負担をかけたくないから、アリーシャ姫との結婚を受けたんだ」


 えっ、そんな理由だったの?

 アリーシャ姫が美人だから、ふらっといったわけじゃなかったんだ。


「けど、今はっきりわかった。僕には君が必要だ。ステラ、どうかこの先もずっと、僕と一緒にいてくれ!」

「喜んで!」




 ……あれから5年。

 孤児院では今日もクリス様が、小さな子達の面倒を見てくれている。


「クリスお兄ちゃん、お本読んでー」

「うん。洗濯が終わったら読んであげるから、ちょっと待っててね」

「兄ちゃん、それが終わったら俺と、チート能力者ごっこやろう。兄ちゃんはざまあ展開になる、勇者の役ー」

「……お手柔らかにね」


 あれからクリス様は孤児院のお手伝いをするようになったんだけど、子供達に大人気。

 ひょっとして魔物と戦うよりも、こっちの方が向いているのかも。

 そして私はと言うと。


「グランド・プラァゥ! 地面よ、畑へと変われ!」


 魔術を使って孤児院に畑を作り、野菜を栽培していた。

 せっかくチートな魔術があるんだから、魔物と戦うだけじゃなくてもっと有効活用しないとね。

 もう隠す必要もなくなったから使い放題。今ではクリス様と一緒に、野菜を育てている。


「ステラ、そろそろ一休みしたら。お茶淹れるよ」

「お茶くらい私が淹れますよ」

「いいよ。俺がやるから、ゆっくり休んでて。ステラの好きなチョコレートを買ってあるから、一緒に食べよう」

「はい。ありがとうございます、クリス様♡」


 にっこりと笑いあう私達。


 これは時代遅れと罵られた勇者と、チートな魔術師の物語。

 現在新婚生活編に、突入しています♡



 了


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勇者なんて時代遅れ!? 実は最強なチート達に活躍の場を奪われ干された勇者様とパーティーを組んでいます。 無月弟(無月蒼) @mutukitukuyomi

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