第4話

 魔王を討伐してから2ヶ月。私は生まれ育った孤児院へと帰っていた。

 王様から頂いたお金で、建て直された孤児院に。


「ステラのおかげで雨漏りが直せて助かったわ」

「子供達にもお腹いっぱい食べさせられるしね。けどステラは……」


 マザー達がこっちを見てる。

 現在私は孤児院で、飲んだくれと化していた。


「ふん、なにが勇者よ。魔王を倒した英雄よ。お姫様に求婚されたからって、ふらっといっちゃってさ……ひっく。マザー、もう一杯!」


 空になったコップを、高々と掲げる。

 クリス様とアリーシャ姫の結婚が決まってから私は酒浸りになり、自堕落な生活を送っていた。



「ステラ、真っ昼間っから飲むのはやめなさい」


 マザーはそう怒ったけど、飲まなきゃやっていられないっての。特に今日は。


「そういえば今日って、クリス様とアリーシャ姫の結婚式の日だったわよね」

「──っ! クリス様の話はやめて!」

「ステラ……あなた昔から、クリス様のこと好きだったものね。けど私も驚いたわ。てっきりクリス様も、あなたのことが好きって思っていたのに」


 マザー、そんな都合のいい妄想を抱いていた時期は、私にもありましたよ。

 でも、もう全部終わったことなの。


 するとその時、部屋のドアがバンって開いて、この孤児院で暮らしている男の子が入ってきた。


「ステラ姉ちゃん大変だよ! 新魔王ってやつが軍を率いて街に攻めてきて、クリス兄ちゃんとお姫様の結婚式を襲撃してる!」

「何ですって!?」

「先代魔王の敵討ちとか言ってるらしいけど、どうしよう。クリス兄ちゃん大丈夫かな?」


 そんなの、大丈夫じゃないに決まっている。だって魔王を倒したのは、私がこっそりサポートしてたからなんだもの。

 クリス様がピンチ……ええーい、こんな所で飲んでる場合じゃない!


「マザー、私行ってきます。クリス様ぁーっ!」


 というわけで、光の速さでやって来たのは、街で一番大きな教会。

 クリス様とアリーシャ姫の結婚式が行われているはずのそこには、魔物の大群がいた。


「はははっ、我こそは先代魔王の従兄弟にして、新魔王なり! 勇者よ、お前の首は俺が取る。ものどもかかれー!」


 新魔王を名のる頭に角を生やした巨大な人型魔物が、部下をけしかけてる。

 そして燕尾服を着たクリス様が剣を取り、アリーシャ姫や神父を守りながら戦っていた。


「ここは僕が抑える。みんなは早く逃げるんだ!」

「クリス様、お任せしますわ」


 アリーシャ姫や式の招待客が逃げて行く。

 しかし多勢に無勢。クリス様一人じゃ、魔物の大群を抑えきれない。


「おい、どうした勇者。お前強いんじゃなかったのか!」

「そうよ、ちゃんと私達を守りなさいよー!」


 守られてるはずの人達が、ヤジを飛ばしている。

 なによ、皆勝手なんだから!

 そんな彼らにムカつきつつも、私はクリス様の元へと走った。


「クリス様ー!」

「ステラ!? どうしてここに」

「魔物の襲撃を受けたと聞いて来ました。私も手伝い──痛っ!」


 頭に割れるような痛みが走る。

 いけない。飲み過ぎたせいで、二日酔いになってるー!


 こんな状態で戦うのは、 難しいかも。

 その証拠に私は、背後から忍び寄る影に気づいていなかった。


「死ねー!」

「ひっ!」


 振り向くとそこにいたのは、こん棒を振り上げたゴブリン。

 マズイよ。いくら私がチート魔術師だからって、今殴られたらただじゃすまない。

 だけどその時、クリス様が私達の間に割って入り、ゴブリンのこん棒を頭に受けた。


「ぐあっ!」

「ク、クリス様!?」

「この、ステラに手を出すなー!」


 剣でゴブリンを切り裂く。

 けど頭を殴られたんだもの、無事じゃないはずだ。


「クリス様、大丈夫ですか!?」

「ステラ……君はどうして来たんだい?」

「来るに決まってるじゃないですか! クリス様のピンチなんですよ!」

「君には……僕に捕らわれずに、自由に生きてほしかったのに」

「えっ?」


 言っている意味がよくわからない。

 すると、クリス様はさらに驚くことを言う。


「ステラ、もう僕に遠慮することないよ。思う存分、チートな力を発揮させて」

「チ、チート? な、ななな、何を言っているのですか。わ、私が実は日本からの転生者で、チートな魔術師だとでも言うのですか?」

「そうでしょ。本当は、ずっと前から気づいていたんだ。君が実力を隠していることも。その理由が、僕に気を使っているからってことも」

「ど、どうしてそれを!?」

「分かるよ。だって四天王が突然武器を持てなくなったり、たまたま地割れが起きて魔王が落ちるなんて、あり得ないもの」


 そりゃそうだー!

 完璧に誤魔化せてたって思っていたけど、実はバレバレだったの!?


 で、でもクリス様。私は今二日酔いで……。


「お前達、何をごちゃごちゃ言っている。手下ども、やれ!」 


 モタモタしてたら、新魔王が部下に命じた。


「ど、どうしようクリス様。実は私、今頭が痛くて、上手く呪文が唱えられないの」

「なんだって? 分かった、それなら」


 クリス様は剣を構えて、私を守るように前に立つった。


「詠唱する時間は、僕が稼ぐ」

「で、でもさっき、頭殴られたんじゃ」

「やらせてくれ。僕は世界の平和なんて守れないけど、君のことだけは絶対に守るから」


 きゅ~ん!

 こ、これって俗に言う、「お前は俺が守る」のシチュエーション!?


 ここで断ったら、女が廃る。

 分かりました。クリス様が戦っているうちに、詠唱します!


「死ねー、ダメダメ勇者! 先代魔王を倒した割にはあんまり強くない事は、証明済みだー!」


 新魔王の配下が、クリス様を襲う。

 早く……早く詠唱を終えないと。


「後ろの魔術師もろとも、あの世に送ってくれるー!」

「ステラには指一本触れされない!」


 クリス様が頑張ってくれている。もう少し……。


「怪我してるくせに、よく頑張ったな。だがもう終わりだ。この新魔王自らが、手を下してくれる」


 ……詠唱完了! 今だ!


「終焉魔法……エンド・ワールド!」


 発動させたそれは、失われたとされる強力な魔法。

 新魔王とその配下達は、まばゆい光に包まれた。


「うわぁぁぁぁっ!」

「な、なんだこれはー!?」


 バタバタと倒れていく魔物達。新魔王も目を見開いて口をパクパクさせながら、私を見る。


「しゅ、終焉魔法!? まさかお前、今流行りのチート能力者──」


 新魔王が喋れたのはそこまで。私の放った一撃で、新生魔王軍は全面したの。

 クリス様は……良かった、無事だ。


「ステラ!」

「クリス様、やりましたね」


 だけど歩み寄ろうとした瞬間、周りから声が上がった。


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