第3話
クリス様が魔王をやっつけたという噂は、瞬く間に国中に知れわたった。
「おい、勇者が魔王を倒したらしいぞ」
「マジで? 勇者って、ざまあ展開になるためにいるんじゃなかったのか?」
失礼なこと言われてるけど、これで皆見直すに違いない。
そして私とクリス様は今、王様に呼ばれてお城へと来ていた。
「勇者クリスよ、よくぞ魔王を倒してくれた。お主ならやってくれると信じていたぞ」
王様、旅に出る前に挨拶に来た時は、「勇者じゃなくてチートな転生者でも現れてくれないかなー」なんて言っていたのに、とんだ手のひら返し。
だけど慈悲深いクリス様は、そんなこと気にしない。
「勿体無いお言葉、ありがとうございます」
「うむ。ところでクリスよ。お主に大事な話がある。アリーシャ、こっちに参れ」
「はい、お父様」
やってきたのはこの国の王女、アリーシャ姫。
黄金に輝く髪を持ち、美人でスタイルのいいお姫様なんだけど、私はこの人、ちょっと苦手なんだよねえ。
だって彼女、前に会った時「勇者なんて時代遅れですわ」なんて言ってたのよ。
だけど今回は。
「クリス様、よくぞお戻りになられました。わたくし、前から貴方は他のダメダメ勇者とは違うって思っていましたの!」
おい!
親が親なら、娘も娘。以前の失礼な態度を棚に上げて、手のひら返しかい!
「魔王をやっつけるなんて、本当に素晴らしい。そこで、勇者クリス。アナタをわたくしの伴侶としますわ」
「勿体ないお言葉……って、えっ?」
ええーっ!?
ちょっとちょっと、何言ってるのこの人!?
クリス様も驚いた様子で、目を見開いてる。
「あの、アリーシャ姫様、伴侶とはいったい?」
「あら、何を驚いておりますの。貴方は魔王を倒した勇者ですのよ。ならば王女であるわたくしと結婚するのは、当然ですわ」
「なっ!?」
なんですってー!?
確かに昔は魔王を討伐した勇者がお姫様と結婚するのは定番だったけど、もう時代は変わってるのよ!
「け、結婚なんて、そんなのダメです。私が許しません!」
「あら、どうして貴女の許しを得る必要があるのかしら? これはわたくしとクリス様の問題でしてよ」
「そ、それはそうですけど。ク、クリス様だって急にこんな事言われても、困りますよね」
クリス様、断る勇気も大事ですよ。
だけどそうしていると、王様が口を開く。
「なるほど分かったぞ。大方そなた、クリスが結婚したらパーティーは解散になるから、稼ぎがなくなるのを危惧しているのだろう」
「えっ? は、はい。そんなところです」
本当は大好きなクリス様が、取られるのが嫌なだけだけど。
しかし、適当に答えたのがいけなかった。
「ならばお主に、大金を払おう。魔王討伐の功績もあるしな」
「お、お金で解決するおつもりですか?」
「何だ不服か? お主の育った孤児院は財政難と聞いておる。悪い話ではないと思うが」
「さすがお父様ですわ。これを断るってことは、お腹を空かせている子供達を見捨てるって事ですから。お優しい魔術師様は、そんな事しませんわよね」
なんて意地悪な物言い。これじゃあ嫌だなんて言えないよ。
で、でもクリス様だって、急に結婚なんて言われても困りますよね?
「ク、クリス様はどうお考えですか?」
「ステラ……もし僕がこれからも君とパーティーを組みたいって言ったら、どうする?」
「そ、そんなの組むに決まってます。クリス様が望むならこのステラ、どこまでも貴方と共に歩む所存です」
「その結果、孤児院の建て直しが叶わなくても?」
「クリス様が、それを望むなら……」
だからお願い、断って。
だけどクリス様は、なぜかとても寂しそうな顔をする。そして。
「ステラ……もう僕に捕らわれなくていいよ」
「えっ?」
「アリーシャ姫、貴女との結婚、お受けいたします」
ガーン!
目の前が真っ暗になる。
結婚……クリス様とアリーシャ姫様が、結婚……。
「受けてくれるか。良かったなアリーシャ」
「はい、アリーシャ感激ですわ」
王様と姫様は笑っているけど、頭に入ってこない。
くすん、酷いよクリス様。
旅が終われば私はポイですか? 大金は、手切れ金ってことですか?
涙でにじんだ目では、彼の顔も歪んで見えた。
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