第2話

 私が前世の記憶を取り戻したのは、12歳の時。

 クリス様の役に立ちたくて、魔術師になると決めたすぐ後の事だった。

 とりあえず初級魔法のファイアーボールを練習してみたんだけど、ビックリ。なんと山一つを焼き付くしちゃったのだ。

 しかも慌てて復元魔法を使ってみたら、一瞬で何事もなかったみたいに元に戻っちゃったもんだからさらにビックリ。

 そして突然、頭の中に前世の記憶が甦ってきたの。


 日本に住んでた高校生だったこと。

 交通事故で死んじゃったけど、チートな最強魔術師として、この世界に転生したのだ。


 チートな魔術師なんて、普通なら喜ぶべきこと。

 だけどクリス様は勇者という肩書きにコンプレックスを抱いていて、チート転生者に劣等感を持っていたから。

 私は転生者ということを隠してクリス様のパーティーに入り、平凡な魔術師のフリをしているの。

 そして今……。


「はははは、我らに戦いを挑んでくるとは、愚かな勇者よ。お前など所詮、この後に控えているチート転生者の前座に過ぎん!」


 好き勝手言っているのは、頭に二本の角を生やし、黒いマントを羽織った、巨大な人型の魔物。

 彼こそが全ての魔物を率いる長、魔王であり、今まさに最終決戦が始まろうとしていた。

 そしてさらに。


「ふふっ、かませ犬の分際で、生意気な坊やだこと」

「勇者など調子に乗った挙げ句痛い目を見る、ざまあ展開になるのがお似合いだ」


 魔王の側にいるのは、配下である火、水、土、風の四天王達……って、数多くない!?

 普通四天王って、一人ずつ倒していくんじゃないの?

 対してこっちの戦力は、私とクリス様の二人だけだ。


「く、まさか総力戦を挑んでくるとは。ずいぶんと警戒されたものだ」

「バカか、お前など眼中にないわ。どうせお前を倒した後、新の主人公がやってきて本番が始まるんだろう。コイツらはそのための戦力だ!」

「……ああ、そうだよ。どうせ僕は、チート能力者の引き立て役なんだ」


 あ、クリス様が体育座りをしていじけだした。

 こ、これはまずい。


「何をやっているんですか。ここで魔王軍を倒して、今までバカにしてきた人達を見返してやりましょう!」

「ステラ……そうだね。来い魔王軍、僕が相手だ!」


 気を取り直すクリス様。よーし、私も援護するぞー。

 敵に向かって杖をかざして、呪文を唱える。


「聖なる水よ、敵を貫け……ウォーターアロー!」


 矢の形をした水が、魔王と四天王に向かって飛んでいく。

 だけど。


「はははっ、こんなもの効くかー!」


 魔王は全くのノーダメージ。他の四天王にも当たりはしたけど、怯んだ様子はない。


「ステラ、君は下がって。コイツらは僕が倒す!」

「生意気な勇者め。我が一撃をくらえー!」


 巨大なハンマーを持ち上げたのは、筋肉モリモリの土属性四天王。

 だけど、頭上までハンマーを持ち上げたその時。


「あれ、重いー!?」


 高々と上げたハンマーの重みに耐えかねて、ガクンと膝をついちゃった。

 自分の武器の重さに耐えられないというのはおかしな話だけど……どうやらうまくいったみたいね。


 実はこれには秘密があるの。

 さっき私が放ったウォーターアローには、当たった者には強力なデバフが掛かるようになっていたのだ。

 これぞチートのなせる技。そこにすかさず、クリス様が斬り掛かる。


「隙ありー!」

「ギャー!」


 よし、デバフのおかげだって気づかれずに、やっつけられた。

 この調子で、どんどんいっちゃおう。


「クリス様、ここに来る途中、怪我しましたよね。治しておきます」


 クリス様に治癒魔法を掛ける。

 だけど実はこれにも強力なバフが付属されていて、クリス様の全ステータスは3倍になった。

 クリス様は、次々と四天王を蹴散らしていく。


「バカな、四天王が全滅だと? かませ勇者相手に!?」

「ふっふっふー。クリス様をバカにするからこうなるんです!」

「さあ魔王、後はお前だけだ。覚悟しろ!」

「くそー、こうなったら!」


 魔王は突然、腕を伸ばして手をかざした。

 その手の先にいるのは……私?


「勇者よ動くな。少しでも動いたら我が魔法で、仲間の女を木っ端微塵にするぞ!」

「ステラ! くっ、卑怯な」

「はははっ、さっきの魔法を見るとコイツは雑魚。足手まといを連れてきたのは、失敗だったな!」


 なんて言ってるけど。魔王さん、アナタの目は節穴です。本当は私、ここにいる誰よりも強いんだもの。

 ただ問題は、ここで魔王の攻撃を防いじゃったら、チートって事がバレちゃうってこと。

 これじゃあ迂闊なことはできないじゃない!


「そのままじっとしていろ。なぶり殺しにしてやる。ダークサンダー!」

「うわーっ!」


 魔法を受けたクリス様が声を上げる。

 けどそれでも倒れずに、何とか踏みとどまる。


「クリス様、私に構わず、やっつけちゃってください!」

「嫌だ! 僕はダメダメ勇者だけど、ステラだけは命に代えても守る!」


 力強い言葉に、キュンと胸が鳴る。


 クリス様、やっぱり優しい。

 でもどうしようこのままじゃやられちゃう。何とかして助けないと……あ、そうだ。


 クリス様や魔王に聞こえないよう、小声で呟く。


「……グランドクラッシュ」


 それは高位の土魔法。すると魔王の足元の地面が、真っ二つに割れた。


「ぬおっ! なんだこれは!?」

「え、何が起きたの?」


 急に地面が割れ、体勢を崩す魔王。

 ここですかさず言う。


「ああ、偶然にも地割れが起きて、魔王が呑み込まれてる! クリス様今です。偶然、たまたま、運よく巡ってきたこのチャンスを、生かしましょう!」


「そうだね。魔王、覚悟!」

「うぎゃああああっ!」


 クリス様の一撃で、魔王は切り裂かれた。

 やった、ついに魔王を倒したんだ。私がチート能力者だってバレずに、ごく自然に!


「やりましたねクリス様! 魔王をやっつけちゃうなんてさすが──むぎゃ」


 クリス様がいきなり、抱きついてきた!


「きゃっ!? ク、ククク、クリス様!?」

「ありがとう。ここまで来れたのも魔物を倒せたのも、全部君のおかげだ。ステラ、大好きだよ」


 はうっ!

 わ、私もクリス様のこと、大好きですー!


 こうして魔王を倒した私達の旅は、終わりを迎えるのだった。




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