勇者なんて時代遅れ!? 実は最強なチート達に活躍の場を奪われ干された勇者様とパーティーを組んでいます。

無月弟(無月蒼)

第1話

 勇者。それは剣にも魔法にも秀でた職業。

 かつては最強とうたわれ、皆の憧れの職業だったんだけど。


 その超凄いはずの勇者様が私の目の前で、椅子に乗って首をくくろうとしていた。


「ちょっ、ストップストップ! 何をやっているんですか!?」

「ステラ……お願いだ、助けると思って死なせてくれ!」


 そんな無茶苦茶な。


 今自ら命を絶とうとしているのが、勇者のクリス様。そして私は彼とパーティーを組んでいる、魔術師のステラ。

 私達は宿に泊まっていたんだけど、朝になって彼の部屋を訪ねたらこの有り様だ。


「いったい何を考えているんですか。アナタが死んじゃったら、いったい誰が魔王をやっつけるって言うんです」


 そう。私達は今、魔王討伐の旅の真っ最中なの。

 魔王を倒すのは勇者の役目と、相場は決まっている。なのにうちの勇者様ときたら。


「誰がやっつけるだって? 決まってるじゃないか。ニッポンとか言う国からの転生者や、実は最強だって言うチート能力者達だよ!」


 泣きそうな顔で言うクリス様。

 予想はしていたけど、やっぱりそれですか。


 かつては最強職種と言われていた勇者。

 しかし最近では、転生者や実は最強だったチート職種の活躍により、勇者の株は暴落の一途を辿っているのだ。

 しかも性格最悪なクズ勇者が大量発生してるもんだから、評判は下がる一方。

 で、豆腐メンタルなクリス様は毎日のように、「勇者なんていらない子なんだ」って落ち込んでいるの。


「ステラ、知っているかい。最新の『最強だと思う職業ランキング』で、勇者の順位は中の下なんだよ」

「う、とうとう半分以下になってしまったんですね。で、でも勇者って言えば、皆の憧れじゃないですか」

「それも昔の話だよ。その証拠に『こんな職業には死んでもなりたくないランキング』では、勇者がぶっちぎりの1位なんだもの」


 誰よそんなランキング作ったの!


「やっぱりもう、勇者なんて時代遅れなんだ。だから一緒に旅をしてきた仲間だって、僕を捨てて行っちゃったんだ。うっ、ううっ……」

「た、確かに先日、二人辞めていきましたけど、まだ私がいるじゃないですか。それとも、私じゃ不満ですか?」

「そんな事無いよ。君はいつだって僕のことを支えてくれる、大事な人だよ」

「クリス様だってそうです。覚えていますか、私達が初めて会った日のことを。クリス様は魔物討伐のクエストで稼いだお金でお菓子を買って、私達にくれましたよね」


 あれは今から10年前。私が10歳、クリス様が12歳の頃。

 クリス様は私のいた孤児院を訪れて、お菓子をくださったの。


 夢中でお菓子を食べる私を見て、「皆が喜んでくれて、僕も嬉しい」って笑って。

 その瞬間、私のハートにとすっと矢が刺さった。

 なんて素敵な笑顔。私は、この人の力になりたい。それがこの世界での初恋だった。


 そうして今、魔術師になった私はクリス様とパーティーを組んでいる。


「クリス様が活躍して、勇者の株を回復させればいいじゃないですか」

「僕にそれができるかな?」

「大丈夫ですよ。クリス様は強いですもの」

「ステラ……ありがとう。そうだよね、もうちょっと頑張ってみるよ」

「さすがクリス様! よ、ニッポンいち……い、異世界一!」


 危ない。つい日本一って言っちゃうところだった。


「ステラ、二人だけのパーティーだけど、これからもよろしくね。よーし、チート転生者になんて負けないぞー!」

「そ、その通りです。頑張りましょー!」


 一緒に腕を振り上げて、えいえいおーっ!

 だけど内心、心苦しかった。


 実は私には、クリス様には言っていない秘密がある。

 それは私の前世が日本の高校に通っていた、女子高生だということ。

 そう、私はクリス様が劣等感を抱いている、チートな転生者なの。


 これは絶対にクリス様に知られるわけにはいかない。

 だってパーティーの中に、自分よりずっと強い転生者がいるなんて知ったら、やっぱり僕はいらない子なんだって言って、今度こそ首をくくりそう。

 だから私は秘密を守りながら、彼の側にいる。


 これは時代遅れと罵られた勇者と、チートな魔術師の女の子の、波乱万丈な物語だ。



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