あとがき

 本作をここまで読んで頂いてありがとうございます。

 今回、この作品をカクヨムで公開した理由としましては供養の意味合いが強いです。

 本作「儚きは夢そして人」、元は「幽けきは明けの夢に踊る」はというタイトルでした。

 流石にわかりにくいって事で、このタイトルになりましたが、本作は私の好きな要素をこれでもかと詰め込んだ作品になります。

 そして、私がこれまでに書いた小説の中で最も好きな作品でもあります。

 基本、私は自分の創作物が大好きな人間なのですが、書籍化した「-異能-」よりも好きだと思えるほどにこの作品が気に入ってしまっています。

 私は元来自分の好きなものしか書く事のできないプロとしては致命的な主義を持つ人間なのですが、そんな人間の書いた「これ以上はないくらい好きな話」が本作となるわけです。

 

 書いている間中、そして書き終えてからも、この作品は「目隠しをされて乗るジェットコースターの様な話」だと思っていました。

 私はそういうお話が大好きですし、二回目に読む時の目隠しを外した状態でやっと見えてくる景色というのも大好きなんです。

 ただ、そういう話が好きな人間は当然限られますし、特に本作のような組み立てではこれがジェットコースターであると気付く前に降りられる事も多いです。

 本作の欠点については無数に挙げることができ、しかしそれが同時に私の好きな要素である部分も多いのです。

 

 一般受けしない、とは便利で卑怯な言葉ですが、本作は端からそういった部分を投げ捨てたような作品だと言えます。

 しかし困った事に私はこの話が大好きなのです。

 この作品を書き上げたのは去年の三月頃。

 そこで私の創作意欲が一回完全に小説から離れてしまいました。

 立場が変わったことで仕事がとても忙しくなったとか、生活環境の変化だとか、ボドゲ制作とか、言い訳はいくらでもできるのですが、本音を言えば「こんなに好きな話を書けたから小説はしばらくいいかな」ってところがありました。

 いくつかの賞に送ったりもしましたが、当然ながらあまりいい手応えを感じることもなく、かといって他の作品を書く気にもならずというような状態が続きました。

 元々公言しているように私の執筆に対するスタンスは「書いた時点で満足」なんです。

 小説を書く過程で得られる苦悩や喜び、それだけで満たされるのでそれを公開したり出版したりして得られる評価などは副次的なオマケであると考えています。

 そんな人間なので小説を書かない事には仕方ないのですが、その気が湧かない。

 非常にマズいと思いました。

 このままでは私はこの作品を抱えたまま終わってしまうような気がしたのです。

 なので、一度この手から離す必要がありました。

 このお話は大変好きですが、私の人生における最終稿ではなく、今後の作品の糧になってもらう為に引導を渡す必要がありました。

 カクヨムに小説を送り投稿予約をして、日々公開される本作を見送ってようやく私は次のお話を書く準備ができた気がします。


 以降は蛇足です。


 本作の人称について。

 小説の基本は人称の統一です。

 皆さんが小説を書く場合は本作のように細かく視点を変更し、なおかつ人称を変えるみたいな読者に優しくない方法をしてはダメですよ。

 本作の人称は明確なルールに従って決めているのですが、そんなのは読む側にとっては全く関係ない部分でその上どうでもいいんです。



 本作の章題について

 四字熟語をもじって付けています。

 全部わかりましたか?

 

 一章 白昼堂塔 

 これはわかりやすい。

 白昼堂々ですね。

 塔は仏教的には死者の供養の為に建てるしるし、という意味があります。

 真っ昼間に堂々と墓石が出る的なあれですね。


 二章 事後不省

 これはわかりにくいかと思います。

 人事不省です。

 元々は意識を失い意識不明になるって意味ですね。

 中国語の不省に無意識って意味があるらしいですよ。

 つまり、中園司季君が意識失って訳わからなくなるってことですね。


 三章 朝三墓石

 まぁ余裕でしょう。

 朝三暮四です。

 言葉巧みに相手を騙すことですね。

 意味合いは読んで頂ければなんとなく察せるかと思います。


 四章 鶏鳴敢闘

 これも知ってるなら簡単ですね。

 元は鶏鳴狗盗。

 故事成語ですが、下らない人って意味とどんな下らない技能でも役に立つって意味があります。

 本作のラスボスが鶏なのでそれにかける形ですね。

 四章時点ではまだ出てないんですけど。


 五章 生死無為

 これは難しい?

 生死無常

 人生の儚さといった感じの意味ですね。

 一文字変えただけですが、読みが変わってるのでそりゃわからないという感じですが。

 無為は色々な意味がある言葉で、仏教用語では「永遠に変化しない真実、真理」といったような意味。それから転じて、自然ありのままというような意味を持ちますが、一方で普段使うなら例えば

「今日もまた一日無為な日を過ごした。」

というような、なにもしない、無駄な、というような意味合いも持ちます。

 生死無為という造語に敢えて意味を与えるとしたら「人の生き死にはごく自然なことで、死した者は生き返らない」とでもなるでしょうか。

 あの異品に等々木が「無為」と名付けたのはなかなか皮肉ですね。


 六章 艱難九苦

 はい、艱難辛苦ですね。

 これも読みが変わってるのでわかりにくいやつですね。

 非常につらいことや困難に苦しむことですね。

 四苦八苦という言葉もありますね。

 生苦、老苦、病苦、死苦の四苦に

 愛別離苦、怨憎会苦、求不得苦、五蘊盛苦の四つを合わせて八苦ですね。

 そこに八難技が得た苦は知られる事のない苦しみです。

 そんな感じです。


 七章 極星学宇

「きょくせいがくう」と読みます。

 これは絶対にわかりません。

 原形ないやつです。

 曲学阿世

「きょくがくあせい」と読む四字熟語です。

 文字の並びを入れ替えて漢字を変えてもうぐちゃぐちゃですね。

 元々の意味は時勢によって真理をねじ曲げることですね。


 八章 一盃塗血

 これは読みが完全に一緒

 一敗塗地です。

 再び立ち上がれない程の大敗って意味ですね。

 破れ、臓腑が土に塗れるって結構アレな光景を現した四字熟語ですが、章題の方では負けてないし、血に濡れただけなのでセーフですね。


 九章 解心転意

 こちらも読みが一緒

 回心転位

 これまでの自分を省みて言動などを改めることですね。

 章題の方は漢字のまま意味を読んでいただければと思います。


 十章 含笑転落

 これはかなり変わっているやつですね。

 含笑入地

 笑いながら安らかに死ぬことです。

 章題も意味合いとしてはほぼ同じですね。


 十一章 六層無安

 これはギリギリわからなくもない程度の変更ですね。

 三界無安

 三界私たちが流転する世の、欲界、色界、無色界では無安、心の安らぎはないという意味ですね。

 章題は六層、社の内部のことになっています。


 十二章 起床転落

 余裕ですね。

 起承転結。物語の基本です。

 これは意味よりも語感重視な章題ですね。


 十三章 伯物存故

 こちらはわかりにくいやつ。

 薄物細故

 意味のない、役に立たないことですね。

 本作の主人公は果たしてどうだったのでしょうね。


 蛇足も以上です。

 本作について語りたい小ネタなどは無数にありますが、それを延々とするのは流石に野暮でしょう。

 改めまして、本作を読んで頂いてありがとうございます。

 また、いつかなにかの形でお会いできれば幸いです。

 

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儚きは夢そして人 落葉沙夢 @emuya-s

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