13-4 伯物存故 《終》

日時

【五月四日】 

場所

【社日夕支部】

人物

【中園司季】


「昨日はよく休めたかな?」

 業務開始前、等々木さんが俺の部屋にやって来た。


「おかげさまで。」

「それはよかった。いい仕事はいい休日からと言うからね。」


 そんな一般企業のような台詞がここで聞けるとは思わなかった。

 いや、一般企業で働いた事なんてないけどさ。


「それで、どうしたんですか?」

「覚えているかな、以前少し話した事なんだが、異品名としての君の名前を付けないといけなくてね。表記上の問題というやつさ。」

「俺が付けていいんですか?」

「君の名前だからね。今すぐじゃなくてもいいよ。一週間後、五月十一日までに決めてくれれば構わない。」


 表記上と等々木さんは言うが、それはつまり社の中での俺の名前と言う事だろう。

 この世で俺を知っているのはもう社の人間しかいない。

 だから、異品としての俺の名前はそのまま俺という存在の名前になる。

 思い付く名前は一つだった。

 本名は無理だろう。

 それなら少しでも呼ばれ慣れたやつがいい。


「ハクゾンでお願いします。」


日時

【五月四日】 

場所

【社日夕支部】

人物

【ハクゾン】


「ハクゾンでお願いします。」

 彼はそう言った。

 対した老人は少しだけ驚いた顔をした後、それを認める。

「では、ハクゾンで登録しておこう。ようこそ社へ。」

 老人が差し出した手を若者は少し躊躇って握る。

「そうだ、ハクゾン君社の教義を知っているかな?」

 若者は頷いた。


 覚めない夢はない

 

 

                                   【終】

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