これをあなたが読んでいるということは私はすでにこの世にいないかもしくは
尾八原ジュージ
何かを忘れたということです。
朝、なにかしら薄氷のようなものを踏み抜いたような感覚がして、その途端ふわふわ系の目眩が始まりました。
とりあえず「目眩 ふわふわ」でネット検索してみると、なかなか怖い病名が並んでいます。こいつは怖いなと思いつつ、この機に「万が一今日死ぬもやむなし」みたいな文章を書いておこうと思ったのは、たぶんいい感じのお天気だったからでしょう。
とにかく何かしら書き記しておくことに決めました。今日中に私に万が一のことが起こったら、自動的に公開されるようなものが好ましい。幸い、日頃小説を読み書きするのに使っているカクヨムには「時間を指定して公開」という機能がついています。今日は2022年の12月14日ですから、この機能を使って、くだんの文章が2022年12月15日の午前零時に公開されるよう設定しておけばよろしい。今日中に何も起こらなさそうなら、予約を取り消してしまえばいいのです。これなら誰の手を煩わす必要もありません。
とりあえずは本日、たまたま用事がないのを幸い、一日がっつり休んでしまうことに決めました。仕事や結婚式やドラゴン退治やらの予定がなくて助かりました。どっちみち目眩でふわふわになってしまったので、普段のパフォーマンスは発揮できないでしょうが。
しかしちょっとばかり日用品を買わねばならなかったため、近所に外出はしました。別に死ぬと決まったわけではないので呑気なものです。
気持ちのいい朝でした。雲ひとつない快晴、とはいきませんが広がった雲の端から青空が見え、雲間からは明るい光が差して美しい眺めです。風も冷たいなりに心地よく、爽やかな気候でした。
さて万が一私が今日のうちに死ぬとして、最後に会っておきたい人はいるだろうか。歩きながらあれこれ考えてみましたが、不思議とそういう人は思いつきませんでした。むしろ親しい人に会ったら未練になるから会わずにおくのが良いなぁ、などと考えながらぶらぶら歩いていると、たまたま知人に出くわしました。
彼女には日頃お世話になっているので、先日クリスマスプレゼントと称し、ちょっとしたお菓子の詰め合わせを渡したところでした。曰く「今日は改めてお菓子のお礼を言いたくて、後で電話でもかけようと思っていた」とのこと。これが真に「人生最後の日に会う人」であったとすれば、かなりベストなチョイスではないかと思いました。
少し話をしてその人とは別れ、普段よく行く神社の前を通りかかったのでお参りをしました。御神籤は大吉でした。
さて買い物を済ませた後帰宅して、今、布団の中で飼い猫に揉まれながらこれを書いているところです。ちなみに現在出かけてはいますが家人がいるので、万が一があっても猫の生活は保証されています。ご安心ください。
しかしカクヨムに予約投稿の機能があってよかった。これがあれば万が一私が死んでも、この文章はお目にかけられるはずです。どなたが読んでくださるかはわかりませんが、インターネットの片隅に遺言のようなものを遺しておける。便利なものです。
というわけで、あなたがこの文章を読んでくださっているということは、私はすでにこの世にいないか、予約投稿の解除を忘れたということです。ここまでお付き合いいただき、どうもありがとうございました。
追記:案の定予約投稿の解除を忘れたため、ピンピンしているのにも関わらず本作が公開されてしまいました。大変申し訳ありません。目眩は寝たら治りました。
これをあなたが読んでいるということは私はすでにこの世にいないかもしくは 尾八原ジュージ @zi-yon
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