第5話

 だだっ広い敷地内を駆け出した蘭を追いかけ太郎はヘトヘトだったが、

「じまん焼き買って帰る?」

 とケロッとした蘭を見て少しホッとしたというかウジウジした圭佑に対して同じような思いでいた太郎は頷いた。


 少し歩いたところにじまん焼きの店はあるのだが物価高はこの店にまできている様で100円で買ってもお釣りがきたはずなのにそうでは無くなっていた。


「こうして買って帰るのも太郎がバンド始める前以来だね」

 太郎は心の中で蘭が圭佑と付き合い始める前以来だと思いながらもクリームの入ったじまん焼きを頬張る。


「あなたの正義感、素晴らしいわ。是非とも戦隊部に入って」

「……勧誘か。じまん焼きを奢ったのもそれだったのか」

「いや、そういうわけじゃないけどさ。でも太郎が入ってくれると私もあの頃のことを思い出す、子供の頃にやった戦隊ごっこ」

「蘭ちゃんと花奏さんで十分だと思った」


 蘭は太郎を小突いた。イタタと呟く太郎。

「可愛いって思ったでしょ、花奏ちゃんのこと」

「思ってないし……いやそれ言うと失礼か。可愛い部類だとは思ったしアイドル戦隊も悪くない」

「ほらやっぱり。素直でよろしい」

 だんだん昔の蘭と太郎の主従関係に戻りつつあった。


「本当に優しいのよ、太郎は。人に優しいから自分の感情押し殺しちゃうから陰でネガティヴになってそれがバンドの歌詞に全部吐き出されてた」

「……まぁな、すっきりしてた。それで」

「普通なら圭佑を見放すのにね……正義感ていうかあなたの優しさ、悪くはないけど少し心配ね。相変わらず」

 そんなこと言われてもなぁと太郎。


「よーし、太郎に私に山部長、花奏ちゃん、そして圭佑。5人でとりあえずはじめて追加戦隊も探さなきゃ」

「えっ、もう加入?! 嫌だよ……」

「なんで?」

「だ、だって……手当て半分だし、備品はお金かかるし、万が一怪我したら」

 蘭はムッとした顔をする。


「だから困ったものよ! 気弱な坊ちゃんとあなたがいるから。それは非認定戦隊の場合でしょ? お金はしばらく圭佑がなんとかして実家から援助してもらって……」

「それ、取らぬ狸の皮算用じゃ」

「実績を作って半年以内に戦隊部は認定戦隊になるわよ!」


 と蘭は太郎の前でポーズをとった。他にも通行人がいるのに。

「恥ずかしくないのか?」

「恥ずかしくないわよ。太郎だって数ヶ月前、大勢の前で童貞がなんだっ! て叫んでたくせに」

「こらこら、蘭ちゃん……人がいるんだから」

 蘭は無邪気に笑った。


「戦隊も全身タイツ着て仮面被ってポーズ取らなきゃいけないんだから、恥ずかしいだなんて言ってられないわよ」

 太郎もつられて笑った。

「……まだまだ青春はこれからよ」

 蘭はそう言って走った。昔からこの強引さは変わってないなぁとやれやれとした表情だが昔からの蘭の夢……叶えさせてあげたいという気持ちはある。なぜなら彼女が戦隊のセンターになってる姿、想像するだけでなんだかワクワクする。

「……彼女の夢は僕の夢……ってか」

とボソッと呟く。


そして蘭に

「蘭ちゃんはもうとっくに青春楽しんだろ? 圭佑と」

 と太郎が叫ぶ。が蘭は振り返って、ん? という顔をする。

「まだよ」

「え」

「あんな見掛け倒し、中身ひ弱な奴が私とセックスできると思う?」

「え」

「キス以上できない男が……何カッコつけてるんだかー」

 太郎は蘭の意外な告白に口を開けっぱなしになった。


「ね、太郎。もう一度聞くけど。戦隊部に入るよね?」

 首を傾げて蘭は聞いてきた。太郎は開けっ放しの口を両手で塞いだ。


 そしてその質問に首を縦に振って答えた。


 それが温水太郎、戦隊部に入部した動機の一つであった。


 終

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

戦隊部に入らない?(6話完結、短編バージョン) 麻木香豆 @hacchi3dayo

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

同じコレクションの次の小説