第89話
私たちは『結婚』した。
永遠の愛を手に入れた。
でもそれを証明する社会的な裏付けは一切ない。
この『結婚』は私たちの中だけで成り立っているものだ。
社会はこれを歪だと言うのだろうか?
人それぞれに愛の形がある。男同士だって女同士だって、愛し合っていい。
愛とは無条件に溢れる自分の本心なのだから。
結局のところ、結婚なんてものは形でしかない。
本当に大切なことは二人が愛し合っているという事実だけなのだ。それが私たちだ。
日本はまだLGBTQに関して色々と整っていない。それは検討すべき事柄が多いからなのだろう。或いは社会の混乱を引き起こさないためか。
――同性愛は悪だろうか?
勿論子供は作れない。
でも精子ドナーなんかを利用すれば私たちでも子供を持てる。男の人の場合だって卵子提供がある。
結婚しても子供を持たない家庭だってある。勿論そんなの個人の自由なのだから誰からも批判される筋合いも無い。
つまり大切なのは、同性愛にしてもなんにしても全てを「善と悪」の二分割にするのではなく、もっと寛容なやりようで、寛容な考え方を私たちが持って、物事を進めていくべきなんだ。
互いに敬う気持ちを忘れずに、一人の愛に満ちた人間としてお互いに接していけば、世界はもっと美しくなる。
高校の倫理の授業で学んだ、「モラトリアム」という単語。
日本語で「猶予期間」と言う。
思春期の時期のことを主に指し、自分自身のアイデンティティを確立し自己を形成していく期間のこと。
この間、少年少女はありとあらゆる経験をして大人になるための準備を進めていく。云わば蛹のようなものだ。
なら、この私たちの愛の物語は運命だ。
運命のモラトリアムだ。
私たちは運命に導かれている。
これまでも、そしてきっとこの先も。
幸せもあるだろう。
困難だってあるだろう。
目を逸らしたくなることだってあるはずだ。
溶けて消えてしまうかもしれない。
「この世界に私たちはいたよ」って。
声をあげられずに社会から疎外されるかもしれない。
でも、そのすべてが運命によって左右され、私たちの未来は創られていく。
月と海みたく、自然の力でひかれあう。
その道の途中に私たちはいる。
道はまだ始まったばかり。
ここから始まる永遠。
だから――
「ねえ、海?」
「な、に月?」
「大好き」
「僕も大好き」
何度だってこの愛を叫ぼう
何度だって横顔を見つめよう
何度だって思い出に浸ろう
何度だってあなたの温もりを感じよう
何度だってこの運命を確かめ合おう
誰がなんと言ったって、今この瞬間だけはここにある
私たちは愛に満ちて、ここにいる
――モラトリアムは終わらない
それはきっと。
モラトリアムが私を掴んで離さないから。
<終>
モラトリアムが私を掴んで離さないから 堅乃雪乃 @ken-yuki
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