火龍の果てのRED

土岐三郎頼芸(ときさぶろうよりのり)

第1話

 何もかも信じたくなかった。


 あの人の愛は真っ赤なニセモノだなんて。


 何もかも信じられなくなった。


 あの人の愛は真っ赤なニセモノだった。


 あの晩の真っ赤な月も満月のクセに月蝕で大きく欠けたニセモノだった。


 残されたわたしの唇から真っ赤な血が滴った。


 わたしは、赤が嫌いになった。


 赤が嫌いな、わたし自身も嫌いになった。


 だから、わたしは旅に出た。


 知人の誰にも会いたくなかったから、南の国を選んだ。


 綺麗な海が見たかった。


 水族館にいるような変な魚も見たかった。


 原色の花々が見たかった。


 極彩色の寺院も見たかった。


 激辛の料理も食べたかった。


 不思議な形の果物も食べたかった。


 ともかく今までやったことのないことを全部やってみたかった。


 そうしないと前に進めない気がしていたから。


 本当は赤は好きな色だ。


 わたしはまた赤を好きになれるだろうか。


 わたしはおそるおそる、その初めての赤に唇をよせた。


 


 朝目覚めてすぐにコップ一杯の水を飲むいつもの習慣。


 しばらくしてわたしは思い知らされる。


 どこにも進めていなかったことに。


 わたしの嫌いな赤が追いかけてきた。


 いままでと違う、ありえないような鮮やかな赤になって、わたしを追いかけてきた。


 もう、いいかな。


 もう、いいよね。


 わたしの旅ももう終わり。


 見上げた十字架も真っ赤に染まっていた。


 誰かが訛った英語でわたしの名前を呼ぶ。


 やさしい笑顔でわたしに微笑みかける。


 痛みはほんの一瞬だよとささやく。


 そんなの嘘だとわかっていても、わたしはその人に身を委ねる。


 彼はもう大丈夫だよとわたしに告げる。


 その言葉にわたしはかぶりをふる。


 わたしには信じられないから。


 ありえない。


 大きい方も小さい方も真紅だなんて。


「検査しても異常はありません。あなたは病気じゃありません」


 あの赤いのは病気じゃないならなぜ?


「あなたはこれを食べませんでしたか?」


 机の上にコトリと置かれたそれは、わたしが昨日、口にした赤。


 炎の形の薄い赤の内側に、紫に近い濃い赤を秘める。


 中国語では紅火龍果、


 英語ではRed Dragon Fruit 、


 日本では赤ドラゴンフルーツとよぶそれ。


「これを何個も食べたのなら、便も尿も真っ赤になって当たり前です」


 笑っちゃうわ。


 わたしの血便も血尿も、文字通りに真っ赤なニセモノだったなんて。


 これがホントの赤っ恥。


 わたしはやっぱり赤が嫌いだ。


 悩んで損した、コンチクショー!

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火龍の果てのRED 土岐三郎頼芸(ときさぶろうよりのり) @TokiYorinori

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