第16話 帰省

 大学を卒業して、これから社会人になるというタイミングで初めて実家を出て一人暮らしを始めた。


 先日のお盆休みに実家に帰省したのが、私が実家に住んでいたころとはどこか感じるものが異なっていた。家具の配置などが多少変わった点はあるが、自分の目で見たところ何も変わってはいない。しかし、以前住んでいたときに感じていたような安心感や安堵感を感じることはできなかった。


 私が使用していた部屋を覗いてみたが、使用していた家具や生活用品などはそのままあり、そこに私がいたという形跡はあるものの、そこはもう私はおらず空っぽであった。

 あんなに居心地よく感じていた場所がもぬけの殻のように見えてしまい、そこには私の居場所がなくなってしまったということを痛感させられてしまい寂しさを感じてしまう。


 私の中ではもう、ホームが独り暮らしのアパートとなり、実家がアウェイになってしまったのだろう。

 実家にいたときは家族の一員として生活を共にし、家族で同じ時間を過ごしていたが、その集団から脱退しそれぞれ違う時間を過ごすようになった。当たり前だが、私が家族のいない時間を過ごしているということは、家族も私のいない時間を過ごしているのだ。

 

 

 あのころに感じていた実家の雰囲気が少し恋しく感じた。

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人生百景 獅子丸 @shishimarudesu

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