6:そして城は守られた

11月11日 屋上


ようやく終わった。

これでよかったんだ。鈴橋理水(すずはしりみ)はこれまでのことを思い返した。

 思えば全ては父が亡くなってから始まった。父親は不動産会社の社長。金はたくさん貯まっており、自分たちはこのマンションでタダで住んでいた。私たちの完璧の城だ。

 母は私たちがこの城に慣れてきた頃に交通事故で亡くなった。

 しばらくは立ち直れなかったが、自分たちにはこの場所があると父に言われ、いつの日か悲しみは消えた。

 兄と私はこの場所が好きだった。付属の公園でめいっぱいあそび、いつも贅沢の毎日だった。

 学校では、嫉妬心からいじめのようなものにもあっていたが、いつも兄に助けてもらっていた。

 兄の拓也(たくや)はいつも理水につきっきり、どんなときも妹のそばにいて、心配そうな目で彼女をみている。

 いわゆるシスコンというやつだ。理水にとっては優しさが伝わっても、そこには半分自分に対する執着心が垣間見えていた。

 そして、大学生になり始めた2人。事件は起きた。

 父が脳梗塞でこの世を去った。突然の訃報だった。

 残されたのは、兄とこの大きな城だけ。ここでまたもや問題は発生した。

 父が死んだことにより、この城の管理が難しくなった。

 マンションを管理していた会社は父の会社。そのため、経営がいきつかなくなり、

別の社員が城を管理した。

 こうして、この城は私たちの城ではなくなった。

 自分たちも金を払わねば追い出される。

 それはだめだ。今までの思い出と大切な居場所が消えてしまう。

 そんな時、兄から一つの言葉が漏れた。

 「いっそ、このマンションで事件が起きれば、物価が安くなるはず・・」

 確かに、ここで死者が出てしまえば、不動産の価格が安くなり、家賃が減っていく.これでしばらくは安泰できる。

 もう迷いはない。理水はこの言葉に乗った。

 まず考えたのは、自分の嫌いな相手をこの場で消すことだった。

 そうして再び事件は起きた。兄が103号室に住む女性を殺した。

 「心配するな、直ぐになんとかするから」

 兄は理水を呼びつけ、自分の行いを告白し、直ぐに作業に取り掛かった。

 バスルームでバラバラに解体し、それをこっそり裏の山に捨てた。理水もそれを手伝った。

 運ぶ最中は吐き気が止まらず、何度も吐きこぼした。

 これが死体か。ゴミ袋が飛び出ている一本の腕がまるで救いを求めるかのように、開いた状態で飛び出ていた。

 そして次に兄はなんとその女性の家に住むことを決めた。

 「こうすれば違和感はないだろ。住民がいることで変なことは起きない。」

 理水はこの兄の発言に何も思わなかった。

 もうこんなことをしている時点で、兄が何をしようと何も思わなかった。

 一方私は、メッセージアプリを使って、このマンションの人たちの心の闇を見て、標的を決めていった。マンション内の住人の行動も逐一確認した。

 そこに1人の男が女性を見つめているということが多かった。

 男や女性が住んでいるのは父が残した住人書類ですぐにわかった。

 彼らを使って、勝手に事件を起こさせてもらおう。それが理水の計画だった。

 案の定、男と女性は事件を起こした。こうすれば、自分たちも疑われることはない。念の為、女性に手紙でメッセージを消すことと問題がないかを確認するための写真も撮らせておいた。

 一方兄はもう1人の人物を殺していた。どうやらこのマンションの住人ではないようだった。

 殺した理由は単純。借りた金を返さなかったから。せっかちである兄らしい理由だった。その男もバラバラにして裏庭に捨てたという。

 そして再びもう1人の人物が理水にメールを送った。

 送り主はなんと、有名バンド"clevers"の相良圭一だった。

 どうやら彼は私の友人の鹿野芳乃(かのよしの)にほとめぼれしたらしい。

 アイドル現役がファンに一目惚れ。こんな面白いことは放って置けないと理水は直ぐにメールを送る。

「その鹿野は私の友人で、同じマンションに住んでますよ」

それを伝えると相良は大喜び。どうやら彼にとって彼女はとっておきの"推し"のようだった。

 鹿野もファンだということを伝えると、今直ぐ会いたい、顔を見たいの一点張り。

 理水は呆れながらも、彼女に合わせることにした。あまりにもくどい方法で。

 彼女を自分の部屋に寝かせ、それを相良がお持ち帰りする。そうして楽しむ手筈のはずだった。

 やがて鹿野は遺体となって発見され、相良によれば、彼女はパニックになり、おもわず首を絞めてしまったという。

 これぞまさに理水が求めたものだった。

 相良に命じ、マンションの近くに遺体を捨てろといった。

 やがてニュースとなり、このマンションの

物件が事件の巣窟となり、価格は下がって私たちの暮らしは安定する。

 こうすることが自分の城を守る最大のやり方だ。それが最善策だと自分に言い聞かせ、

 理水は屋上でタバコを吸う。

 片手のスマホでこんなツイートをして。

 

「#この物件ヤバいみたい。

気をつけろ。このマンションには殺人鬼がいる。住んだら血を見るぞ〜!」

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あるマンションの何気ない非日常 Pepper @jholic0304

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