第4話


「父様たちが帰ってくるとなると……宴の準備が必要だな。後は供物用の獲物も」



この里は山の恵みで結構豊かな生活が出来ている。だから定期的に宴を開いて神々に感謝の祈りを捧げ、里の者同士の結束を高めている。鬼獣の討伐成功となれば、神々への感謝と無事の帰還を祝って必ず行わないと、暴動が起きる。



「狩りに行かなければいけないけど、取り敢えずは今までと同じく里の者たちに里から出るなと伝えないと。ないとは思うけど、逃げた鬼獣が里の近くに出ないとは限らないからね」


「ですが、供物の獲物を狩りに行かせろと恐らく何人かうるさく言う者共がおりますよ」


翔季しょうきに相談して狩りの人選はこっちでする。選ばれなかった者は大人しく里の中で宴の準備をさせておいて。蓮俐は里の中を頼むね」


「はい、承知しました」


「それじゃあ、まずは翔季を探して伝達しないと……」


「それには及びませんよ、お嬢様、若様」


「「翔季」」



蓮俐と話し込んでいた私の背に穏やかに投げかけられた声。振り返ると話題の人物、翔季が少し汗をかいて走り寄ってくるところだった。私たちから三歩離れた場所まで辿り着くと、一礼してにこりと微笑み口を開いた。



「報告が私の元にもかなり早い段階で来ましたので、勝手ながら里の者たちに改めて里から出ずに鬼獣の侵入に備えよと伝えましてにございます。事後報告となってしまいましたこと、お詫び申し上げます」


「いや、いい。流石だな、助かる」


「いえ、聡明なお嬢様と若様であればこのような判断を下すと思っておりましたので」



翔季、正式な名前はけい 翔季。代々、頭領である紅家に仕える景家の出身で私と蓮俐の世話役であり、教育係である。景の家の中でも優秀な者が代々頭領の補佐役を勤めてきた。翔季もその優秀さを認められて子どもの頃から私と蓮俐に仕えてくれている。いずれ頭領となる私の補佐役になるために。私にとって心の底から信頼できる数少ない味方の一人だ。



「じゃあ時間短縮といこう、蓮俐は里の中を頼む。浮ついてトラブルが起きないようにしっかり手綱を握っておいて。宴の準備も忘れずに」


「はい、姉様」


「翔季は私と狩りのメンバーの選抜と準備を頼む。それが終わったら蓮俐の補佐を頼む」


「承知しました」


「急ごう、余計な横槍を入れられる前に」


「「はい」」



二人は神妙な顔で頷いた。


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獣の姫 @yuzuha___

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