企画入賞レビュー「キミと言葉の壁を超えたくて」


それは孤独の寂しさから少年が見出した妄想だったのか?
はたまた本物のトモダチであったのか?

何をもって友情とするのか、本物の友情とは何なのかを考えさせてくれるSF小説です。誰も居ない砂の星で暮らす少年が、ある日出会った壊れかけのロボット。
ろくに動くことも出来ず、会話すら成立しないその相手を「意味の分からない言葉の羅列で一応返事をするから」と友達扱いして一緒に遊び始める主人公。それは傍から見れば「お人形の一人遊び」と何ら変わらず、どこか虚しさを感じる行為だったのですが……。

それでも彼は一切友情を疑うことがないんですよね。
言葉が通じていないのだから、相手の気持ちなんてわかりっこないのに。
誠心誠意、友達を疑わずロボットを人間として扱い続けるのです。

その様子が実に楽しそうで、それまでの孤独がどれほど深いものであったのかがよく表現されていました。(きっと昔は一緒に遊ぶ仲間が居たのでしょう)けれど、どんなに尽くした所で相手はしょせん壊れかけのロボット。
果たして無垢の友情は、絶望の現実を覆し、有り得ない奇跡を起こせるのか?

設定、シナリオ、結末、全てが美しく、企画に集まった作品の中で最も泣ける作品でした。砂の惑星で少年がする「遊戯」や「友達への気遣い」も独創的で自由な発想こそが有料なSFを生み出す根源なのだと痛感させられました。これが入賞でなければいったい何が入賞だというのでしょう?

何よりも綺麗で純粋、一点の曇りもない宝石のような友情譚。
顔がグシャグシャになるほど泣いてみたい貴方へ、おススメです。


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