【第20話】転生って何ですか?
ドクター・モディファイの禁断症状が治まらないうちに、僕は病院の倉庫に残っていた新型カーゼの予防薬とマスクをすべて焼却してから病院をあとにした。
「これで当分、悪さはできないでしょう」
「ポコ。クスリで人間を弱らせて支配しやすい世界を作ろうなんて、魔王の考えることはひどすぎるポコ」
「そうですね。今までは穏便にマドロラを取り戻そうと考えていましたが、どうやらキッチリこらしめたほうがよさそうですね」
「ポコもそう思うポコ。魔王にも絶対『ざまぁ』するポコ!」
「船に着きました。では、先を急ぎましょう!」
僕たちはナディの操縦する船で、ベルカイ村に向かった。
「ナディさんにはすっかりお世話になってしまっていますが、ご迷惑じゃないですか?」
「構わねえよ。魔王をやっつければ税金がなくなるから、生活が楽になるし、ジーロと一緒にいれば、あの料理をいつでも食えるからな。こうなったら最後まで付き合うぜ」
「ありがとうございます」
*
2日間ほどの船旅を経て、僕たちは転生屋のリンカがいるというベルカイ村に到着した。
もう夕暮れどきだ。
「ところで転生屋って何なんでしょうか?」
「知らないポコ」
「えっ!? ポコタンが特に突っ込まないから、てっきり常識なんだと思っていました」
「ポコも同じポコ」
「やれやれ。知ったかぶりはよくありませんね」
「それはこっちのセリフポコ」
「ねえ、みなさーん! 『てんせいや』って何か、知っている人はいますか?」
シーン……。
とりあえず船の中に知っている者はいないようだ。
「しょうがないポコ。村人にたずねるポコ」
僕は船のみんなに近くの宿屋で休むようにいって、ポコタンを連れて聞き込みをすることにした。
「あそこに大きな酒場があります。情報収集してみましょう」
「ポコタンはお酒、大好きポコ。ジーロは?」
「飲んだことありません。子どもはあまり飲まないほうがいいらしいですよ。……っていうか、ポコタンって何歳なんですか?」
「さあ……。考えたことなかったポコ」
「まあ、人間じゃありませんし、たしなむ程度なら飲んでもいいんじゃないでしょうか」
「やったポコ! かわいいお姉ちゃんと飲むポコ!」
店に入ってみると、シニア層が多い。
客だけでなく、数名いる従業員も、おおむね40歳を過ぎていそうな人ばかりである。
「若者はいませんね」
「お姉ちゃんがいない酒場なんて、クリープのないコーヒーみたいなもんポコ!」
「そういえば、店の外もご年配者ばかりでしたね。もしかして、少子高齢化が進んだ村なのでしょうか」
「ポコはもう宿屋に帰るポコ」
「ちょっと待ってください! せめて転生屋のリンカの居所がわかってから帰りましょう」
僕がそういうと、近くのテーブルについていた老人が話しかけてきた。
「お若いの。あんたも転生するつもりか?」
「……? 転生って何ですか?」
「おや、よそ者かい。かつてこの村は、美男美女の多い村として有名で、観光客が絶えない村だったんじゃが、今はもう老人ばかりになってしまってね。観光に来る者もめっきり減っちまったわい」
「どうしてそんなことに?」
「転生屋のせいじゃ。若者はみんな行っちまった」
「だから、その転生屋とは何なんですか?」
「異世界で人生をやり直せる店じゃ」
「異世界? どんな世界ですか?」
「病気も苦しみも痛みもない、仕事も勉強もしなくていい、理想郷じゃ」
「へーえ! そんな世界、本当にあるんですか?」
「あるらしい」
「らしい……って、おじいさんは見たことがないんですか?」
「誰も見たことはない。だが、行った者は誰も帰ってこないから、きっといい世界なんじゃろう。わしの娘も孫娘も帰ってこない。おお……アリアナ……クレマ……」
おそらく娘さんと孫娘の名前なのだろう。
老人はうるんだ瞳を指先でぬぐった。
「だったら、おじいさんも行ってみればいいじゃないですか」
「転生できるのは40歳までなんじゃ」
「なぜですか?」
「理由はわからん。転生屋に聞いてくれ。しかし、おぬしは転生の意味も知らんと、なぜ転生屋を探しているんじゃ?」
「ちょっと聞きたいことがありまして。どこにあるんでしょうか?」
すると、老人は窓の外に見える山を指さした。
【長編版】異世界で二郎系ラーメンを作ったら無敵!~敵も高飛車少女も僕を追放した勇者パーティーもこの味の中毒性には勝てず奴隷になりたがるからといって全員に「ざまぁ」するのはやりすぎですよポコタン~ 加瀬詠希 @KASE_YOMIKI
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