お賽銭

丫uhta

神様の悩み


 夕暮ゆうぐどきのとある神社じんじゃ

 人気ひとけくなった境内けいだい一人ひとり巫女みこ拝殿はいでんまえこぶしにぎめてっていた。


 バイトで巫女みこをしていた縁多えにしだ 恵美めぐみは、うしろにまとめたかみらしながら賽銭箱さいせんばこ近付ちかづくとにぎめたひろげてまえ賽銭箱さいせんばこに1まいの5円玉えんだまほうれた。


 カラン!チャッ! パン!パン!!


なにとぞぉ…どうかぁ……!」


 縁多えにしだは、しば力強ちからづわした。

 そんな、彼女かのじょうしろでは、かぜいてるわけでもいのにちいさな旋毛風つむじかぜきていた。


「おい、小娘こむすめ…」


「っ! え!?」


 縁多えにしだは、そのこえおどろきながらうしろをかえった。そのこえは、あきらかに自分じぶんこえだったのだ。


 しかし、そこには、くるぶしほどのおおきさの旋毛風つむじかぜ縁多えにしだは、旋毛風つむじかぜにすることまわりを見渡みわたすが、だれないことくびかしげると、神社じんじゃ一礼いちれいして、そのからはなれようとしたそのとき


「ちょっおい!て!てとってるだろうが!無礼者ぶれいもの!」


「わっ!!」


 縁多えにしだ旋毛風つむじかぜ横切よこぎろうとしたそのとき旋毛風つむじかぜは、縁多えにしだまえ移動いどうしたのだ。


 そのこえは、やはり自分じぶんこえなのだ。そして、そのこえは、まえ旋毛風つむじかぜからこえるのだ。しんじられなかった。なにおこってるのか、理解りかいかなかった。


 縁多えにしだは、見開みひらいてかたまっていると旋毛風つむじかぜから煙幕えんまくようけむり発生はっせいした。


 ボフゥン!

「…ふぅい。久々ひさびさだなぁ。この姿すがたになるのは……ん?おもった以上よりうごきがにぶい……」


 そのこえともけむりからあらわれたのは、全身ぜんしんにおふだられた、ねこきつねしたようなぞものだった。


「え?え?え?え?……ぇ?…えぇぇぇ……?」


 あまりの出来事できごと連続れんぞく縁多えにしだは、ドギマギしながらまわりの景色けしきまえなぞもの見比みくらべていた。


「お、小娘こむすめ無礼者ぶれいものは、ぎた。ヲイラがわるかった。とりあえず、すわれや……」


    ◆


 拝殿はいでん階段かいだん腰掛こしかける縁多えにしだ賽銭箱さいせんばこうえって縁多えにしだ見下みおろすなぞもの


「……この神社じんじゃ神様かみさま? んーまぁ……ってか、なんであたしのこえなの?」


 きをもどした縁多えにしだは、興味深きょうにぶかそうに御札おふだまみれれの神様かみさまつめていた。


 神様かみさまは、ねこようなほそ尻尾しっぽりながらふだ隙間すきまから琥珀色こはくいろ狐目きつねめのぞかしていた。


これか? 神様かみさまってヤツは、自分じぶんこえたないのだ。だから、一人ひとり相手あいてするときかぎるけど、その人間にんげんからりるようにしてるのだ」


「そう、なんだ……? ……さわってもい?」


「ダメ。不幸ふこうになるぞ? ところで、おまえきたいことがある。おまえ、さっきぜにれたな?」


「……うん。5円玉えんだまれたよ?」


 神様かみさまは、そううと賽銭箱さいせんばこんで5円玉えんだまを1枚、すとうえでお手玉てだまようころがしはじめた。


「……何故なぜ、5円玉えんだまなのだ?」


「え?……縁起えんぎいからじゃん」


縁起えんぎ? なるほど、五円ごえん御縁ごえんか……おまえは、だれとのえん大事だいじにしたいのだ? ヲイラの主観しゅかんだが、いまひとは、たしかにえんは、大事だいじにしてるとおもうが昔程むかしほどじゃないな。いまは、ひとえんだんより、自分じぶん大事だいじにしてるようおもえる」


 チャッ!


 神様かみさまは、うえころがす5円玉えんだま賽銭箱さいせんばこもどして「小娘こむすめ何故なぜ賽銭さいせんれるのかってるか?」と縁多えにしだとなりすわった。

 獣臭けものしゅう雑巾ぞうきんようにおいに縁多えにしだは、神様かみさま気付きづかれないよう間隔かんかくあけけた。


「ん~よくからないけど、ねがいをかなえてもらうため前払まえばらてきかんじかなぁ?」


「……つまり、願掛がんかだいことか?おろかな……」


「え?ちがうの?」


当然とうぜんだ。大前提だいぜんていとして、願掛がんかけとうのは、人間にんげん神様かみさま目標もくひょう約束やくそくすることだ。むかしは、神様かみさま約束やくそくしたらなになんでも目標もくひょう達成たっせいしなきゃばちたるとわれていたからなぁ。それに、元々もともとは、ぜにじゃなくてな。願掛け札ってってな。目標もくひょういたふだ神社じんじゃ御神体ごしんたいこめけていたなぁ……」


 神様かみさまは、なつかしむようはなすと体中からだじゅうられたおふだ見渡みわたした。カサカサとかぜれるふだ

 よくれば、それぞれのふだかれた文字もじには、商売しょうばい安産あんざんいてるようおもえた。


「……つまり、おかねじゃなくて、またかみいてしいってこと?」


「んや、ちがうな。さっきもったとおり、いまひとは、昔程むかしほどえん第一だいいちかんがえてない。だから、お賽銭さいせん意味いみも、時代じだいわせたほういんじゃないかっておもってな? そこで!おぬしとき。この小娘こむすめなに方法ほうほうは、いかをかんがえてもらおう!って直感ちょっかんささやいたんだ! ってことで、小娘こむすめや?なにかんがえろ。っておくが、なに解決策かいけつさくるまでかえれないぞ?」


 神様かみさまは、縁多えにしだ見上みあげた。さきほどのにおいにくわえて、そのくちからさら生臭なまぐさにおいに縁多えにしだは、おもわずがってあたまうえ神様かみさまから距離きょりった。


「くっさ……っ! ぷはっ!」


「え…?ヲイラ、そんなにくさいの……? か、勘違かんちがいはするなよ!除夜じょやかねでヲイラのけがれは、えるんだ!」


 足早あしばや神様かみさまからはなれて空気くうき縁多えにしだ姿すがた神様かみさまは、つよがるようったそのとき


主神ぬしがみさん?なぁにしてんですか?」


 神社じんじゃ裏手うらてからけたおとここえがして、神様かみさま縁多えにしだは、こえのした方向ほうこうかえった。

 そこには、竹杖たけつえいた裸足はだしの、ヒョットコのおめんけたおとこっていた。


 その異様いようちからすぐに人間にんげんじゃないとさとった縁多えにしだは、近付ちかづいてるヒョットコのおとこわせてがった。


 しかし、かべにでもぶつかったかのようにこれ以上いじょうがることは、出来できなかった。かえれば、鳥居とりい縁多えにしだは、本当ほんとう神社じんじゃかられなくなっていた。


安心あんしんしろ、小娘こむすめ。コイツは、客人神まろうどかみ。アラハバキなんて名前なまえもあるが、ぬらりひょんってやつだ。おい!ぬらりひょん!ちょっとい!」


 神様かみさまばれたぬらりひょんは「えぇ…?なに?」と心底しんそこいやそうにつぶやいた。


   ◆



「……とことだ。ぬらりひょん。なにかんがえがあればってくれ」


 拝殿はいでんゆかに3にんようすわっていた。

 賽銭さいせんはなしかされたぬらりひょんは、あわれむよう縁多えにしだつめた。縁多えにしだは、かおらした。


「まだ子供こどもなのに、災難さいなんじゃな……。しょうがない。ず、縁起えんぎ賽銭さいせんならべてるか。なにかの法則性ほうそくせいがあるかもれない。おじょうさんや。いまぜには、なにがあるのか、おしえてくれ」


「え、う、うん。1えん。5えん。10えん。50えん。100えん。500えん


 ぬらりひょんは、ふところから白紙はくし巻物まきものふでして拝殿はいでんゆかひろげるとまた、ふところからすみはいったつぼすと、縁多えにしだ言葉ことばわしてふではしらせた。


 神様かみさまえば、賽銭箱さいせんばこはまったあしっここうとあせっていた。


 縁多えにしだは、住職じゅうしょくからきかされた意味いみのある賽銭さいせんことおもしながら、ぬらりひょんにはなした。


「おじょうさん、たすかった。この問題もんだいは、おもっていた以上いじょうはや解決かいけつしそうだぞ!……5円玉えんだままいで、かさかさ御縁ごえん。11えんえん……なんだこれは!えんばっかりじゃないか!」


 ぬらりひょんは、あきれたとわんばかりにあたまかかえた。あらためてかんがえれば、25えんで2重御縁じゅうごえんだったり、485えん四方八方しほうはっぽうからの御縁ごえんと、まさに45えん始終御縁しじゅうごえんだった。


「うわぁ……こんなにえんだらけだと、なんかからまってうごきづらそうだね」


 巻物まきものかれた縁尽えんづくしのわせに縁多えにしだおもわず苦笑にがわらいをかべた。


わったぁ?」


 神様かみさまけたこえ近付ちかづいてた。縁多えにしだは「くさいから近付ちかづかないで」とかく事無ことないやかお神様かみさまかえった。


「……ひどくない……? くそぉ!なんでヲイラが神様かみさまなんだよぉ!神様かみさまになるまえだったらすぐにせたのにぃ!!」


「……からまる…?す……?」


 ぬらりひょんは、真剣しんけん眼差まなざしをおめんからのぞかして賽銭さいせんくみわせと現代げんだいぜに見比みくらべていた。そのとき


「あ、あの、ぬらりひょんさん? 質問良しつもんいい?」


「うむ。いぞ」


「ありがとう。ぬらりひょんって妖怪ようかいだよね? なん神様かみさまになってるの?」


 縁多えにしだ言葉ことばにぬらりひょんは「ふふふ」と微笑ほほえようわらいながらからだこして縁多えにしだた。


可笑おかしなおじょうさんだ。神様かみさまってやつは、ほぼ全員ぜんいん元々もともとなにかの妖怪ようかいだったんじゃよ? 主神ぬしがみがどんな妖怪ようかいだったのかりたい?」


 非常ひじょう興味深きょうにぶかはなしだったので縁多えにしだは、ようくびたてった。そんな縁多えにしだあたまやさしくでるぬらりひょんは、ふでいてさけ一口ひとくちんだ。


「ぷはぁ!可愛かわゆいおじょうさんをながめながらのさけは、格別かくべつじゃな! 主神ぬしがみは、木霊こだまだったんじゃ。むかしから妖怪ようかいは、わるものわれてるが、妖怪ようかいは、ひとにこれっぽちも興味きょうみい。むかしからわれてる悪事あくじ悪戯いたずらなんかは、ひとしたおにがワシらの姿すがた真似まねこしてるのだ。いやぁ、なつかしいのぉ。全国ぜんこくとくたか和尚おしょうさんやら陰陽師おんみょうじさがすため東西南北とうざいなんぼくかたぱしいえ一軒一軒いっけんいっけんまわったモノだわ!」


 心底しんそこたのしそうにはなすぬらりひょんだったが、縁多えにしだは、どういうかおをすればいのかからず夕日ゆうひた。大分だいぶんくらくなってている。


 境内けいだいでは、神様かみさまたのしそうに旋毛風つむじかぜばしていた。

 ぬらりひょんは「おっと、いそがねばな」とつぶやいてふたたふでにぎった。


   ◆


「……ほれ、パッとおもいついたあんじゃ。おじょうさん、これをそこのくっさい主神ぬしがみせてやりな。けてかえるんじゃよ」


 ぬらりひょんは、ゆらりとがってさけみながらぬらりとえていなくなった。その様子ようす縁多えにしだは、おおきくした。

 そして、ぬらりひょんにわたされた、巻物まきものとおすとそこには。


十円じゅうえんは、自由じゆう百円ひゃくえんは、飛躍ひやく』と達筆たっぴつかれていた。


「わぁ…! ぬらりひょんさん!ありがとうございます!!」


 縁多えにしだは、えたぬらりひょんにあたまげてあし境内けいだい酒瓶さけびん準備じゅんびする神様かみさま近付ちかづいた。


今夜こんやは、うたげうたげぇ! ぬらりひょん!付近ふきん妖怪ようかいびかけろぉ!! ん?おー出来できたかぁ?」


「……これでかえしてくれる?」


 縁多えにしだは、いきめながら神様かみさま巻物まきもの手渡てわたした。上機嫌じょうきげん神様かみさま


「……ほぅ! 十円じゅうえん自由じゆう百円ひゃくえん飛躍ひやく! かんがえたな! よし!かえっていぞ!ご苦労ごくろうだったな!!」


 ブワァ!神様かみさま言葉ことば反応はんのうするよう鳥居とりいからかぜ突然とつぜんいた。

 鳥居とりいかってあるこうとしたそのとき


「あ、小娘こむすめひといか? ヲイラたち神様かみさまは、はっきりって無力むりょくだ。ことわりどころか、ひと一人ひとり運命うんめいすらえれない。そんなヲイラになに約束やくそくしたいのだ?」


「……近々ちかぢかすの。だから、最後さいごにクラスのきな告白こくはくしたくてさ。その勇気ゆうきねがったの!」


 神様かみさまは、縁多えにしだ言葉ことばさかずきそそさけめた。縁多えにしだは、すこさびしそうに微笑ほほえみながらかえる。


「そうか、せっかく仲良なかよくなれそうだったのに……。でも、おぬしなら上手うまくやれるさ。無力これでもヲイラは、神様かみさまだ! おぬしがどこにくのからないが、ヲイラがずっと見守みまもってる! だから、元気げんき姿すがたで!またてな! おぬし未来みらいに、乾杯かんぱいだ!」


「うん……うん!ありがとうございました!」


 縁多えにしだは、姿すがたえゆく神様かみさまって帰宅きたくした。


   ◆◆◆


 年始ねんしさむ季節きせつ

 朝日あさひ神社じんじゃ参拝さんぱいする3にん人影ひとかげゆきもった境内けいだいいたくなるほど黄金おうごんかがやなか、まだおさないむすめが、境内けいだいなかつくられたゆきだるまにあし近付ちかづいた。


「ママー!ゆきだるま!」


「こら、はいらないの!怪我けがするわよ!」


「あれ?なんかこの神社じんじゃあたたかくい? それに……線香せんこうにおい? まぁいや。さっ!パパと神様かみさまにおねがごとしようね!」


 父親ちちおや笑顔えがおむすめげる様子ようす母親ははおやは、微笑ほほえみみながらていた。


約束やくそくまもってくれてうれしいぞ”


 意識内いしきないちいさなこえこえたがしてふと、母親ははおやは、そら見上みあげた。

 その満足気まんぞくげささや少女しょうじょこえ母親ははおやは、やさしく微笑ほほえんだ。


 3にんつつようかぜやさしくなか。「あっ!」とむすめ境内けいだいえる指差ゆびさした。

 すると、そのもっていたゆきがパラパラちた。


「あー、かあさん。5円玉えんだまいや。ってない?」


「あら、5えんは、ふるいのよ? いまは、自由じゆう十円じゅうえん飛躍ひやく百円ひゃくえんなのよ?」


 むすめだきせる母親ははおやは、ほこらしつぶやいて財布さいふから十円じゅうえんを2まいすとむすめ感謝かんしゃめて賽銭箱さいせんばこ十円玉じゅうえんだまほうれた。それにつづいて百円玉ひゃくえんだまれられた。


 カランコロン!チャチャッ! パン!パン!


 3にんおとは、んだそら天高てんたかくどこまでもひびわたった。

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お賽銭 丫uhta @huuten

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