第43話 隠されていた資源

 どぉん! という発破の音が冬の草原を揺るがした。

 ひとかたまりになって暖を取っていた家畜や竜たちが、普段聞き慣れない音に驚いてバタバタと右往左往するのを、竜に乗った数人が巧みに誘導して元の場所へと戻してやっている。


「ごめんねぇ……。ちょっと我慢してね」


 その様子を見ながら僕が手を合わせると、傍らのサーリヤがクスリと笑った。


「それにしても旦那様、急に地面をあのように掘り返し始めて……何をなさっているのです?」

「資源調査」


 短く僕が答えると、現場の指揮を任せていたシオが、頭の上に手で大きく丸を作って飛び跳ねているのが見えた。


「……出たみたいだ。行ってみよう」

「あ、はい……」


 近付いていくと、大人が5人くらいは入れるほどの大きさで地面に穴が開いている。

 深さは5メートルほど。

 すり鉢状の底の部分に、白とも銀ともつかない不思議な光沢をした岩のような塊が顔を出していた。

 穴の底では、帝国軍の軍服を着た数名の男たちが、その塊にロープをかけているところだった。


「さすが工兵出身は手際がいいね」


 僕が言うと、穴の周囲をぐるりと回ってきたシオが報告してくる。


「大きさは、だいたい1メートル四方ですが、推定重量は数百キロはありそうです。どうやって持ち上げるんですか? ……と言うか、コレ、なんなんですか?」


 僕は、一緒についてきたサーリヤを見た。


「サーリヤには見覚えがあるんじゃないか?」


 案の定、サーリヤはうなずいた。


「骨……に見えます。それも、竜の物ではないかと」

「竜の骨って……どこの骨なんです? あんな大きいの」


 サーリヤの答えに、シオがパチパチと目を瞬かせた。


「翼膜と背骨の付け根にある小さい骨の……かけらの、かけらの、そのまたカケラ……かな」


 シオの肩甲骨あたりを指でくるくる示しながら、僕は答えた。

 サーリヤとシオが顔を見合わせる。頭の上に「?」マークが何個も浮かんでいるのが見えそうだ。


「ロープをかけたら、竜と牛を集めて引っ張らせよう。詳しい話は、引っ張り上げた後で」


 ◇◆◇


 およそ一時間後、白銀の塊はみんなの協力もあって穴の底から枯れた大地の上に移されていた。

 その周囲を、竜牧民と居残り希望者の元帝国軍人たちが混ざり合って、物珍しそうな視線と一緒に取り囲んでいる。


 塊の近くには、発破を手伝ってくれた工兵たち。


「あの……本当にいいんですか?」


 そのうちのひとり、ツルハシを手にした若い兵士が僕のほうを見て言った。


「ああ。許可・・はもらってる。やってくれ」


 僕はうなずいた。

 若い兵士が、「では……」と言いながらツルハシを持ち上げ、塊の端に勢いよく振り下ろした。

 ツルハシと塊が触れ合った場所に一瞬火花が散り、小石ほどの大きさに塊が削り取られる。

 それを拾った兵士が、僕の元へ走ってきた。


「ど、どうぞ……」

「ありがとう。じゃあ、みんなよく見てて」


 僕は骨を受け取ると、懐から懐中電灯を取り出した。

 カバシマの尋問をした時に使っていたやつだ。

 尻の部分のねじを回すと、懐中電灯の中からコロリと小さな石が出てくる。


「みんなも知ってのとおり、これが『魔鉱』だ。大気や地中に満ちるマナとかエーテルとか呼ばれているものが長い年月をかけて結晶化したものと言われている」


 取り出した石……魔鉱をみんなに見せてから、僕はさっき受け取った骨を魔鉱の代わりに懐中電灯に押し込んだ。


「もしこの中に魔法を使える者がいればわかると思うけど、魔法使いは触れたり体内に取り込んだマナを触媒にして様々な魔法を行使するよね? ただし、魔法使いには生まれながらの特別な素質を持っていなければなれないとされている」


 似たような大きさだった骨がきれいに筒の中に収まり、僕は再びしっかりねじを締めた。


「そのマナを科学の力で動力に変換し、誰でもその恩恵を受けられるようにしたのが……今僕たちが日常的に使っている魔導機関だ。当然、魔導機関を動かすには動力源たるマナ……つまり、結晶化した魔鉱が必要になるわけだけど……」


 最後に、懐中電灯のスイッチを入れる。

 昼間だからわかりにくいが、筒の先にぱっと明かりが点ったのは全員が目にしたはずだ。

 どよめきが、起きた。


「竜が死んで残す骨には、どういう理由かは不明だけど大量のマナが残っていることを……僕は昨晩知った。いや、違うな……見えた・・・んだ」


 懐中電灯のスイッチを切って、僕はそれをシオに放り投げた。


「えー!? ええ〜っ!? な、なんででしゅかぁ!?」


 興奮したシオが、受け取った懐中電灯を何度も点けたり消したりしながら、叫んだ。盛大に噛みつつ。

 そこへ、


「急いで帰ってきてみりゃ……相変わらず妙なことをやってらっしゃいますなぁ、英雄殿は」


 カバシマを連れ、夜明け前に村を発っていたガストンが姿を見せた。


「ああー、ガストンさん! どこ行ってたんですか!? ……ああいや、そんなことよりこれ! 見て! 見てくだしゃい! ほら! ほらーっ!」

「……そして、少尉殿は相変わらず落ち着きが無いと。はいはい、途中からでしたがちゃんと見てましたよ。凄いもんですなぁ」


 絡んでくるシオを軽くいなして、ガストンは僕を見た。僕にしかわからないよう、小さくうなずく。

 

「……で、ソウガさんはこの骨を村の特産品にしようと考えてるわけですかい?」


 その顔に、やや疲労の色を浮かべながらも、声だけはいつもの軽い調子を崩さずにガストンは言った。


「そこまでは言わない。みんなで冬を越せるだけの食料や資材、着るものを買うための資金にするだけだよ。あんまり欲張るのはどうかと思うな」


 僕は答えた。

 瞬間、集まっていた人々の中から、わっという歓声が上がった。

 

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左遷英雄、竜を飼う(旧名)最強無敗の英雄将軍だったが、一般兵に格下げになってしまったので、左遷先のド辺境で竜牧民としてのんびり暮らすことにした。〜でも、究極チート能力<竜の目>がそうはさせてくれない~ 桜桃キリト @shigema

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