Find our color⑪

 曲が終わり、始まる前のような静けさが流れる。ただ、私たちの上がった息の音が、細々とマイクを通して聞こえる。まだ夢の中みたいだ。

「みんな、よく頑張ったわね。素晴らしかったわ。」

 麻衣先輩が優しく声をかけてくれる。その声に引っ張られるように、現実へと戻されていく。私は、涙を拭う。そして、明音と千代さんの方を見る。2人とも肩で呼吸している。疲れているはずなのに、2人とも無意識なんだろが笑顔だった。

 「私たち、出来たんだ...。」

 明音が我に返って呟く。

 「出来たね。」

 千代さんもこっちを向いて笑いかける。

 「...うん。出来た。」

 私が聞こえるか聞こえないかの声で、それでも笑顔で返す。

 「やったーー!」

 明音が大きな声で立ち上がる。私たちもそれに合わせて、明音のもとに近づく。3人で集まって、お互いにワチャワチャした。

 

 「本当に、みんな、よくやったわ。」

 私たちが、浮足立ってワチャワチャしていると、麻衣先輩が優しい声で言ってくれた。

 「「「ありがとうございます。」」」

 私たちは、先輩の方を向き直しお礼を言う。

 「みんなーー。よかったよー。感動した~。」

 渚先輩は目をウルウルさせながら言った。そんな風に見てくれていたことは、少し恥ずかしいが、それ以上に嬉しかった。

 「いろは、千代、明音。本当にいい演奏だった。正直、ここまでの演奏が出来るとは、思ってなかった。よく頑張ったね。」

 紅葉先輩が2人に続くように言う。その声は本当に嬉しそうだった。

 「いろは。『自分だけのもの』は見つかった?」

 紅葉先輩が、私のすぐ近くまで来て言う。

 「はい!見つかりました!」

 「そっか。それは良かったよ。」

 私が満面の笑みで返すと、紅葉先輩は満足そうに、そして嬉しそうにいった。


 「いやー。みんな、いい演奏だったよ。」

 軽音部の部室の奥から、テクテクと足音を鳴らしながら美人が歩いてくる。誰だろう。知らない人だ。制服は私たちと同じものを着ているようだが、パーカーを羽織っている。

 「香音。隠れてないで、さっさと出て来なさいよ。」

 私たちが戸惑っていると、麻衣先輩が美人に声を掛けた。どうやら、先輩たちが言っていた「もう1人のバンドメンバー」なようだ。

 「みんな。はじめまして。私は、相羽香音。ギター弾いてるよ~。よろしくね~。」

 香音先輩は明るく挨拶する。先輩たちはホントに明るい人が多い。バンドマンとはそういうものなのだろうか。

 「「「よろしくお願いします。」」」

 私たちは声を合わせてあいさつした。運動部みたいだ。

 「1年生は元気いいね。若さを感じるよ。」

 「香音。また変なこと言って...。」

 陽気に返す香音先輩に、麻衣先輩がつっこむ。前々から思っていたが、麻衣先輩はまとめ役として大変そうだ。

 

 「そんなことより、私も演奏したくなった。いいでしょ、みんな?」

 香音先輩は麻衣先輩の声が、届いているのか分からないが、いきなりこんなことを言い出した。

 「私もー!やりたーい!」

 渚先輩がのっかる。

 「私はもちろん大丈夫だ。」

 紅葉先輩も目をキラキラさせている。

 この人たち、ほんとに音楽が好きなんだなぁ。

 「しょうがないわねー。みんな、ごめんね。」

 麻衣先輩は呆れて、申し訳なさそうにしている。それでも、声からは楽しそうな感じが伝わる。

 「後輩を試すようなことしたんだ。今度は私たちの番だよ。即興でやるくらいしないとね。」

 紅葉先輩はしっかりとした声で言う。

 「「楽しんでねー。」」

 渚先輩と香音先輩が声を合わせる。息ぴったりだ。

 

 こうして、先輩たちの即興ライブが始まった。セットリストは、最初にカバー曲、次は私たちのやった曲だった。ここ3週間、何度も練習した曲だ。私達との違いは、以前よりも鮮明な形で分かる。何というか、歴の差を感じるくらい堂々として楽しいステージだ。そして最後は、先輩たちのオリジナル曲だった。初めて聞いたが、先輩たちらしい、明るい曲だ。部室は、窓から差し込む夕焼けが合わさり、鮮やかなオレンジ色となった。

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カラー・ロック @uta0624

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