【1人用台本】愛死ています

しんえん君

愛死ています


【諸注意等】


生配信等での使用は可。その際、リンクの明記をお願い致します。

動画など、残るものに関してはご連絡下さい。(プロフィールよりtwitterへ飛べます。)

アドリブ、細部の改変、性別の変更などは可能です。



【本作の読み方】


・ダークな作品ですので、苦手な方は閲覧をご遠慮ください。

・一人用の台本ですので、自由に読んでいただけたらと思います。

但し、改変は常識の範囲内で。



【登場人物】


役表


秘めた人 女性:



秘めた人

彼を愛している。大好き。いっぱいちゅき。もうわかんない。




【台本】



眠っているこの人が愛おしい。


彼のまつ毛が震えるのも。

彼の香りのするこの部屋も。

全てが愛おしくて、


彼で私を構成したくなる程。

私は彼を愛しています。

愛していると言っていいでしょう。

他に形容できませんから。



容姿も、中身も。

もちろん仕草も。瞳も。放つ言葉も。

彼の全てが私を幸せにする。

彼のものなら全て受け入れる。



それなのに、壊したくなるのは何故でしょう。

彼の上下する胸を包丁で……

彼の喉仏の浮き出た首をこの手で……



そんな考えがよぎるのです。毎夜。

次々現れるそれを、針で突くのです。

いけない、いけない。と。

そんな考えを抱くのはいけない。おかしい事だと

それは己を殺すような痛みが伴う作業です。



ちょうど炭酸飲料のようなものでしょうか?

今は活発に泡が出ていますが、やがて泡は減っていき、最後には全く無くなるでしょうか。


この幸せを、守りたいと思えるでしょうか。


いつか己を殺さずに、愛しい彼の寝顔を見る事が叶うでしょうか。



今彼の首に伸びる腕を、抑えることさえできれば、いつかは楽になれるでしょうか。

今にも触れそうな指を引っ込められれば。




いけない。

やめなさい。

こんな事、いけない。


言い聞かせて

やっと手を止める。





いっそ、死ぬべきなのでしょうか?


彼を殺してしまうなら、私の方が死ぬべきでしょうか。


彼を手放すくらいなら、そのほうがましかもしれません。

できれば彼を道連れにしたいくらいですが、そんな烏滸おこがましいこと、できません。


私が死んだら彼は悲しむでしょうか。

私が死んだら、彼は次の女性と付き合うのでしょうか。

私が死んだら、彼は幸せになるのでしょうか。


そんな事になってしまったら、私は彼を憎んでしまうでしょう。


でも、そのとき私はもう存在しないなら、どうしようもない。

私が憎んだところで、彼には関係ないでしょう。

彼にとってはそのほうが、幸せなのでしょうか?


私がいないほうが。


私は彼無しではいられないのに。

彼は私無しでもいられるのでしょう。

それが心に刺さって抜けない。


別に、大したことではないのです。私は見返りを求めたりしたい訳ではないのです。けれど、返しのついたミツバチの針のように、ずっと刺さったままで。

私はもうどうにもできないのです。


大したことではないのです。

私がどうなろうが。苦しもうが。彼にとっては。

私が己を殺そうが、死のうが。

彼さえ生きていれば、私にとっても。

大したことではないのです。



それでもこんなふうに悩んで、見苦しい。


どうしてこんなことを思うのか、私にもわからない。


このまま彼の隣にいられるだけで十分なのに。


満足している筈なのに。


それを、壊そうだなんて、なんて恐ろしい考えなんでしょう。


その考えに支配される時が来るのではないかと、怖くてたまらないのです。

この考えを潰す針が鈍るのではないかと。

そして彼の胸に包丁を突き立てて……

いや、もっと衝動的に、彼の首をこの手で締めて……

彼を、殺してしまうのではないかと。


延々と脳みそを回って回って。ずっと離れないのです。




彼の胸はまだ、規則的に上下しています。

まだ、吸って、吐いて。上がって、下がって。

穏やかな寝顔。彼はまだこの世にいます。

彼がこの世にいる限り、私は彼を殺したい欲求を潰しながら、幸せな顔をして、生きていくのです。




ー--------------

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

【1人用台本】愛死ています しんえん君 @shinokunn

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ