桜並木の下で逢いましょう

生きるとはどういうことかを、改めて考えさせられる。
良く書けている。

書き出しが衝撃的である。

「自分は周りの人たちと一緒に卒業できないのか、というよくわからない喪失感の襲われた」この表現が良い。
同じ時間を生きているはずなのに、自分だけ同じ時間を生きられない。
取り残されたような疎外感を覚え、先を行くみんなを見送る人になってしまう。
一緒にいるのも嫌になったから、
「好きなことを好きなだけさせてほしい」と父にお願いをして高校を休む。
この流れに納得してしまう。

端的に秋の表現をしているところは素敵。

治療が苦しくて泣いている十五歳くらいの陽野くるみを励ますのは、非常に大事。
優に伝えていないのだから、凛には後ろめたさがあるはず。
くるみの年齢は「十五歳くらい」と表現されている。
凛が余命宣告されたのがこのくらいの年齢だったと考えると、くるみは、かつての凛自身。
当時の彼女もくるみのように、生きる目的を失ったような目をしていたはず。
きっと励ましてほしかった。
でも励ましてくれる母親がいなかった。
だから彼女を励ますことで自分を励ますことにつながり、後ろめたさを解消してから優と再会することで、告白を断った時の話ができたのだ。

みんなが幸せであるようにと祈り、ささやかな願いをして亡くなっていく。
実にいい子である。

娘が亡くなった後、父親は大丈夫かしらん。

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