第6話 まとめSF:東京湾海底原発計画

 二酸化炭素はいやだ、電気がほしい、人をだましてもカネほしい、エラくなりたい。そんな人たちは私はいやだ!とか、書いてきたわけだが、そろそろまとめねばなるまい。世俗的ではあるが浸透しているこの「常識」とやらを実現するのに、かなりの無茶しなければできないってことを。


―――


 202x年、その設備の計画が始まった。


 「話がちがいます、ドクター・イワノフ」


 首相補佐官がロシア人顧問技術者に言った。


 「ちがってなぞいないだろう、宮部補佐官。みんなが電気ほしい、電気自動車欲しい、でも二酸化炭素はいやだ。さらにカネと快適な暮らしも欲しい、というからこれしかなかろう」


 「だからって、東京湾の海底に原発なんて」


 「君は何者だとわたしをおもっているのかね?あの四年続いた対ウクライナ戦争を戦術核二発で片づけた男だぞ。引き換えにプーチンは失脚してしまったが。だが、わたしは日本の首相に指名されて、顧問になったのだし、高野首相だって支持率低下は怖いんだよ、それぐらいわからない君ではあるまい。地方を札びらでぶったたいて、東京用の原発を作れるような時代じゃないのだ」


 イワノフは日本通として知られ、寿司をくう動画などで来日二年で早くも有名人である。巧みに日本語を操り、日本人を理解している。


 すこし経ってから宮部はこたえた。動画の満面笑みを浮かべたイワノフと目の前にいるイワノフはまるで別人のように威厳があった。


「正直なこと、それはいけないのでしょうかね。わたしたち日本人の持つ伝統ですし、誇りでもあります……第二次大戦でわたしたちは負け、都市は焦土と化しました。だが、千年を超える歴史ある国家として、その精神は生きているとおもっています。清くなおき誠のこころ」


 後半の言葉をのべるのに、宮部は涙をこらえることに執心した。それを見て、イワノフは憐れむように言った。


「大衆、というものを君は理解していないようだな。すでに日本人はこの数十年で変化したんだよ。責任なき経営者、政治家、マスコミ。それに乗っかって儲けようとするカネの亡者。そしてそれを信じる多くの人々」


 イワノフは続けていった。


「先の大戦で、権威をうしなったものたちに代わり、新たな世代が日本の驚異的な成長をうながした。彼らには理念があり、世界に共通する考えだったし、実に尊敬すべき人たちだった。アジアもアフリカも中国でさえ、彼らを尊敬した。だが、その時代もおしまいになりそうだな」


 イワノフはシガーバーに置かれた古いヒュミドールから葉巻を取り出してマッチで火をつけ、続けた。久しぶりに見るマッチが新鮮に見えた。マッチの火は炎色反応により、青色から赤く変化し、宮部は「マッチ売りの少女」の逸話を思い出した。


 イワノフは言った。


「ああ、これか。これは葉巻好きのケネディが使っていたものだ。このシガーバーに寄贈したものだ。まあ、ケネディもよい時代に生まれ、核戦争も起こさずよい時代に死んだんだよ」


 宮部は首をふった。イワノフは答えは考えるようにしながら、一服していった。


「動画サイトでどういうかく乱工作を私たちがしてきたか。この動画サイトを見たまえ。すでに数百万もの人が見て応援してるではないか。それから、その窓から外を見るといい」


 宮部は険しい表情で、都内のビルから国会議事堂を取り巻くデモ隊の人々を見た。騒乱のなか、怒号を叫ぶ老若男女たちがいた。さまざまな旗に文字が書かれている。『ストップ!地球温暖化!』『ガソリン車撤廃!』『早期に再生可能エネルギーを!我々はこごえている!』『日本の借金は孫に返させるのか!』。お互いに矛盾しあうように見える主張をかれらは訴えている。だが、それを言葉にして大衆に言える立場ではない。


 経済・金融・エネルギー政策で大失態をおかした前政権は大スタグフレーションを発生させ崩壊した。そこで、あらたに高野光氏が首相に就いた。しかし、高野首相とて、どうにでもできる問題ではない。


 宮部は顔をしかめながら、イワノフに向き合った。ロシア産天然ガスをサハリン2経由で大量に輸入しはじめた日本は、エネルギー政策でも経済戦略でも岐路に立たされていた。


 「わかりました、ドクター。それでやってください、基礎設計が完成したら首相会見です」


 イワノフはディスプレイを指していった。


「できてるぞ、これを見ろ。皆さんが大嫌いな石炭発電所ともこれでおさらばだ」


「これは…原潜?」


「原潜ではない。旧ソ連、ロシアはチタン合金加工技術ではどの国もかなわない技術をもっている。これは、原潜のように葉巻型の外殻をもっている。水深千メートルにさえ耐えうる外殻だ。それ、これを見ろ」


 イワノフは銀色に光る金属の塊を宮部に放り投げた。チタン製の綺麗に加工された丸いかたまり、それは何なのだろうか。


 ―――


 ※この後はSF小説として別途、アップします。現在執筆中です。

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