焼米にまつわる虎丸長者伝説

篠川翠

第1話

長者伝説は少なからず全国各地に伝えられていますが。郡山台こおりやまだい遺跡のある郡山台・長者宮ちょうじゃみや一帯にも次のような伝説が語り継がれています。


昔、虎丸とらまる長者という金持ちが住んでいた。長者の屋敷は八町はっちょう(約870m四方)にも及び、長者宮の広々とした平地には大きな屋敷や、いろは48棟の倉が並び、郡山台の台地には立派な寺院が建てられ、観音かんのん様がおまつりしてあった。倉はほとんどが米倉こめぐらで、あふれるように米を持っていたことから、虎丸長者は米長者とも呼ばれていた。 時あたかも、後三年ごさんねんえきで奥州安倍あべ氏の討伐のため、源義家みなもとのよしいえが多くの家来を引き連れ、通りすがりの一夜の宿を長者に願い出た。しかし、安倍氏に味方していた長者に断られたことから、止むを得ず野宿した。この付近を、今も仮宿かりやどという。腹の虫がおさまらない義家は、家来に命じて長者の屋敷に火を放った。屋敷はたちまち火の海に包まれ七日なのか七晩なのばん燃え続け、何一つ残らず、荒れ果てた野原となってしまった。 何年か過ぎ去り、長者屋敷の大火事は人びとから忘れ去られようとしていた。ところが、長者屋敷の焼け跡に夕暮れになると、一人の見かけないわらわがどこからかやってきて


黄金こがね千杯せんばい こめ千杯せんばい 朝日さす 夕日かがやく三つ葉うつぎのしたにある‥‥‥‥」


と悲しげな声でとなえながら、さまよい歩いているという噂が立った。村人の何人かが焼け跡のあちこちを掘り返してみたが、出てくるのは真っ黒に焼け焦げた焼米やきごめだけで、宝物たからものを見つけたものはひとりもいなかったという。


焼米が大量に出る郡山台遺跡=安積あさか郡衙ぐんがにまつわる、ロマンに満ちた長者伝説です。

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