第32話 次で

学園に向かい俺を出迎えたのは興味がある、と言いたげな視線ばかりだった。


そんな中ついに我慢できなくなったのか一人の女子生徒が俺の近くにやってきた。


「き、霧島くん」

「なに?」


答えながらカバンを机に置いた。


顔は向けないし話しかけないで欲しいとアピールしているけど。


「お、お話したいんだけど」

「俺は別にしたくない」

「え、えぇ……?」


困惑したような顔をする女子生徒。

そもそも俺はこいつの名前すら知らないんだよな。


でもたしか、記憶によるとクラスのアイドルとか呼ばれてた気がする。


でも、それでも話しかけてくる。


「5組は霧島くん以外そこそこ仲がいいの。そろそろ溶け込んでくれないかな?」

「まるで委員長みたいなこと言うんだな」

「私委員長だから」


なるほど。

それでクラスに溶け込まない俺を見てついに話しかけてきた、とそういうことなんだな。


「あー、考えておくよ」


そう答えるとチャイムが鳴った。


渋々といった様子で席に戻っていく委員長。

一時間目は朝っぱらから体育の時間だった。


「……」


体育の時間は嫌いだ。

座っていたら終わるものじゃないから。


その中でも面倒なのがペアになって何かをする、というものなのだが俺はクラスに溶け込んでいないのでいつも最後まで余る。


がこのクラスの男子は偶数。

いつもはなんだかんだ誰かと組めるのだが


(なるほど、今日は休みか)


一人休んでいて奇数なようだった。


結果余る俺は先生と組むことになったのだが、まず俺が先生とやって全員に見本を見せることになった。


「いいか?今日は近接戦闘の訓練だ」


体育と言っても遊びのようなものではなく、より実戦に近く、これからの役に立つようなものを教えるようになっていた。


そこで今日は雑魚モンスター相手に効くフェイントを教えてくれた先生。


「霧島。さっき教えたフェイントを織りまぜて先生のことを本気で殴ってみろ」

「冗談のつもりですか?」

「本気で言っている。さぁ、こい。この結果も成績表に反映されるからな」

「死にますよ?」

「ははっ。死にはしないさ」


そう言った後に先生は防御魔法を展開した。


おそらくレベル6程度の【ブロック】系統の魔法。


それを自分の周りに3枚程度展開していた。


「1割でいいか」

「なにがだ?」

「力の入れ具合ですよ。本気でやれば先生死にますから」


そう言うと、フェイントを織り交ぜて言われた通りに踏み込んで突きを繰り出した。


パリパリパリパリン!!!!!!!!


薄いガラスがハンマーで砕かれるような音を鳴らして、俺の拳は【ブロック】を全て破壊して先生の腹の肉を捉えていた。


拳の先に伝わるぶにょっとした肉の感覚。

そのまま拳を捻りながら振り抜いた。


「がぁっ!!!!!!!」


何十メートルも吹き飛ばされる先生。

そのまま


シーン。


起き上がる様子のない先生。


(本気でやってたら肉片すら残らなかったかもな)


そう思いながら吹き飛ばした先生だったが、しばらくするとヨロッと立ち上がって戻ってくると


「げほっ……。とまぁ、こんな感じだ」


と血を吐きながら生徒たちに説明を始めていたが横の俺を怯えた目で見ていた。


「さ、さぁ、やってみろ」


そう言って説明した先生はアイテムポーチからポーションなどの回復アイテムを取り出すと大量に使い始めた。


「本気でやった方が良かったですか?」

「はははっ……冗談だよあれは……」


乾いた笑いで俺を見てきた先生。

ビクビクとした視線を俺に送ってきていた。


その後俺には極力触れないようにしたいのか露骨に俺から視線を逸らしながら授業を進める先生だった。


昼休みになった。

俺が立ち上がるだけでクラス中の視線が俺に集まってきた。


(立ち上がっただけなんだが……)


本当は目立ちたくなかったが。結果的になぜかこんなにも目立ってしまっているようだ。


そんなことを思いながら廊下に向かおうとしたら道を開けてくれる生徒たち。

それを見ながら廊下に出ると


「霧島くん」


シオンが息を荒らげながら俺のクラスの前まで来ていた。


「なに?」


俺がそう聞くと返事をしたのはシオンではなく後ろにいた男だった。


「待てよーどこいくんだよ子猫ちゃん」


とシオンに声をかけているようだったが俺に気付く男。


「なに?お前」


そう聞かれても答える必要も無いので横を通り過ぎようとしたら腕を掴まれた。


「なに?この手は」

「先輩が声をかけてんだ。無視すんなよ。俺は今Aランク冒険者で将来有望な先輩だ。言うことは聞いておいた方がいいぜ?」

「離しなよ」


男の手を見てそう呟くが笑い出す男。


「あぁ?離してって?お前みたいな生意気な奴には教育が必要……」


そう口にする男の足を払って転すと見下ろして告げる。


「離せよ。二度も言わせるな」

「ひ、ひぃぃぃぃぃ!!!!」


男は慌てて逃げていく。

それを見送って礼を言ってくるシオン。


「気にするなよ。ウザイから蹴散らしただけ」


答えながら俺は屋上に向かうが同行してくるシオン。


「ついてきてどうしたのさ」

「い、一緒にご飯どうですか?ってそれだけですけど」


と屋上までついてきたシオン。


適当に食べようと思ったところまた西林から連絡。


「おう、霧島か」

「どうしたんだ?」

「五階層が解放されたわ。どないすんねん?」


そう聞いてくる西林。

そうか、五階層が解放されたか。


次の階層、五階層で大迷宮は終わりらしいし。


「勿論、速攻行くつもりだ」

「はっ。そうこなな。んじゃ、ギルドで待ってるで」


そう言って通話を切る西林。

そのとき地面が揺れた。


「な、なんですか?!これ」


その場にしゃがみこんだシオン。


「地震だろうが、いきなりきたな」


そう呟いていると終わる揺れ。


「残りの授業俺は公欠にするよ。今の地震関係ないこともないんだろうし」


そう言ってシオンに目をやる。


「どちらでもいいよ。俺に合わせる必要は無いし、今回は休んでもいいし」

「私も公欠にします。行きましょう、五階層に」


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

最弱ユニークスキルと呼ばれたスキルで俺だけステータスがチートみたいになってる件~誰も周回しないような低ランクダンジョン周回で俺だけ無限に強くなれます にこん @nicon

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ