第31話 この先

「まさか。死体が生き返るなんて悪趣味なダンジョンだな」


そう呟いてセリカに目を向ける。


一応本人確認をしておこうか。


「あんた、俺になんて言ったか覚えてるか?」

「私が死ねば瑠花を頼む」


俺がここまで瑠花の怪我を治そうとしていた理由のひとつもそこにある。

こいつに後のことを頼まれたからだったが。


そのことを言えるということは本人なようだが。


緊急クエストは謎の冒険者の捕獲。


その謎の冒険者というのはおそらくこいつのことだろう。


「まぁいい。俺たちに同行できるか?」


剣を収めてそう聞いてみたが


「無理だ」

「だろうな」


どうするか悩んでいると瑠花がセリカに駆け寄っていく。

今のところ敵対の意思があるわけではなさそうだしいいだろう。


「私にできるのはこの先の案内くらいさ。探してたんだこの先に進める人間を」

「そうか」


そう呟いてセリカの近くによるとセリカは案内を始めた。

その道中で聞いておく。


「死体がどうして動いて喋ってるかを教えて欲しいが」

「私は死体ではない」


そう言って俺の手を取ってくるセリカ。


「体温だってあるだろう?」

「まぁ、あるけど」


死体が動いてるわけでは無さそうだが。


そうして進んでいると、セーブポイントが見つかった。


「今日はここで休まないか?」


セリカの声で時間を確認するとすでに夜になっていた。

4階層はかなり広い階層のようだが。


「そうだな」


俺はみんなに確認を取ってから西林にも魔法で連絡する。


各自ここでの休憩に納得したようなので一旦ここで休憩となる。


「セリカ。冒険者カードを見せてくれ」

「紛失した」


そう言ってアイテムポーチの中に何も入っていないことを見せつけてくる。


カードを紛失した場合未登録扱いとなる。

十中八九、各区画をクリアしたのはこいつと見て間違いないだろうが。


「じゃ、私は向こうで休むから」


ここのセーブポイントはかなり大きめな部屋でセリカはひとりで転びにいった。

それを見て瑠花が俺をセーブポイントの外に呼び出した。


「どうしたの?」

「あの人嘘ついてます」


そう言われたが俺にはどれが嘘なのか分からない。


「どれが嘘?」

「それは分かりませんがあの人嘘つく時は、相手から見えないように右手の人差し指をクルクル回す癖があるんです」


俺とは別視点で見ていた瑠花だから気付いたってことか。


「でもそれなら嘘ついた時だけクルクルしてたんじゃないのか?」

「それが、話してる時結構クルクル回してて……全部……?って感じでした」

「勘弁して欲しいところだな。で、それだけ?」

「はい」

「まぁいい。注意はしておくよ」


そう言って俺はセーブポイントの部屋の中へと戻る前に瑠花に声をかけておく。


「悪いけど、俺は初めからあれのこと別に信用してないから。しょせん死人は死人だよ」


なにかあるんだろうとはずっと思っていた。


この世界においてモンスターに囲まれたらあとは待ってるものなんて【死】だけだから。


その状況で生き延びた、なんて思えるほど俺は楽観的じゃない。


一度死んだが、このダンジョンには生き返れるようななにかがあると思った方がいいか。


このダンジョンはそういうものだろう。



翌日、4階層のボスを撃破した。


「相変わらず凄まじい魔力だな。孤児院にいたころから瀬奈は抜けていたけど」


と話しかけてくるセリカに俺はそろそろ本題に入ることにした。


「セリカはなんで生きてる?」

「答えられない」


質問を変えることにするから。


「先日森山というやつが怪我をした。関わったか?」

「知らないな」


セリカの後ろにいた瑠花の顔を少し確認した。

頷いていた。


嘘だ。


なにか、知っているんだろう。


「マトモに話す気はない、と?」

「どうかな」


緊迫した空気が俺たちの間に流れるが、とりあえず俺は次のフロアに向かうためにこの先のセーブポイントに向かったが。


「相変わらず閉ざされてるな」


次の階層。五階層への道は閉ざされていた。


これは俺の予想だが。


「セリカはこの閉ざされた先も自由に行動できるんじゃないのか?」

「なぜ、そう思う?」

「言い方が悪かったか。この大迷宮内ならばある程度好きにできるんじゃないのか?」


区画を突破したのはまぁ置いといて、それ以上に各区画の間の移動速度には引っかかる。


だからこいつだけはダンジョン内をそれなりに好き勝手移動できるのではないか、と思っているが。


「すごい洞察力だな。そこまで分かるんだ」


そう言ってくるセリカを見てから俺は瑠花達に一旦下がるように指示を出す。


「悪いが信用できない」


こいつが本物だとしても今までの瑠花とはまるっきり違う思考回路をしていると思っていいだろう。


「なにが目的なのかも話せないよな?」


そう聞いてみると笑い出す。


「分かってはいたけどやっぱりそこまで信用されないのか。うんいいよ、話すよ」


そう言って自分のステータスを見せてくるセリカ。


​───────​───────​───────

672737÷8

757565」8×

28÷×:

​───────​───────​───────


まるで意味が分からないステータス。


俺はこの時点で確信した。


「人間じゃないな」

「そう。私はこのダンジョンの操り人形さ」


そう言って来るセリカを見て瑠花を含めた全員が構えた。


「一気に敵対ってわけ?さすがSランク冒険者、か。切り替えが早いし、その切り替えの速さが君たちをここまで生かしてきたってわけか」


だが、向こうには未だに敵対の意思が見えずにいた。


「このダンジョンは五階層で終わりさ」


そう語るセリカ。


「五階層で終わり?」


俺が聞くと頷くセリカ。


「そこで待ってるよ。そこまでこれたら全部話す」


そう言って消えていくセリカ。

やはりこのダンジョン内だとある程度移動できるらしい。


それからしばらく、待っていると別ルートを通ってきた西林達と合流できた。


「五階層で終わりか。こんなバカでかいダンジョンがその程度の深さしかないなんてほんまなら拍子抜けやけどな」


そう呟く西林に頷く。


「しっかしそのセリカってやつが何を企んどるのかはほまに分からんな?」


俺もそこは分からない。

最後まで敵対の意思が見えなかったのはどういうことなんだろう。

しかし、考えたところで分からなかった。


「で、どうすんや?このままあの森山とかいう奴みたいに向かうんか?」

「いや、やめておこう。何があるか分からないし」


そう答えて俺は地上に帰ることにする。


とりあえず今日のところは戻って立て直そう。

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