第30話 このタイミングで?
翌日学園に登校した。
誰とも会話することなく昼休みなどは携帯端末をいじったりして情報を集めながら過ごしていた。
今日もなにごともなく一日が終わればいい、とかそんな事を思いながら、三時間目の授業を受けていた時だった。
「止まりなさい!部外者の立ち入りは禁止されております!」
教師だろうか?が走る足音と
「やかましい!部外者ちゃうわ!」
聞き覚えのある声が聞こえてくる。
この声は……というよりこの関西弁……少し前に聞いたな。
なにが起きるのか黙って見ているとバタバタと足音が聞こえると思ったらガラッと扉が開いた。
「おったわ霧島!」
と開口一番俺を指さしてくる西林。
クラスにいる全員の視線が俺に向けられた。
「お前なに普通に授業受けてんねん!」
そう言いながらズカズカ歩いてくる西林は俺の机の前で止まった。
突然の事でクラス中の時が止まったようだったが、俺もこいつの行動が理解できなかった。
「俺が授業を受けることは普通の話だろ?」
そう言ってみるが喚く西林。
「お前にはSランク冒険者としての自覚がないのか?!今ごたついてるねん!ええからギルドに来い!」
とかなんとか言ってたら教室の中に職員が入ってきて引っ張られていく西林。
「ええかぁ?!来るんやで?!ギルドで待ってるからなぁ?!森山の件や!」
引っ張られながら最後にそう言い残して姿を消した西林。
残された俺と微妙なクラス中の空気。
教師すら授業を進めるのを忘れて黙って俺を見ているだけだった。
クラスにいたサーヤにとんでもない顔で見られていた。
俺はその中ガタッと椅子を引いて立ち上がった。
別に隠していたわけではないが、今の一件でクラス中に俺が既にSランク冒険者として活動しているのは知られてしまったことだろう。
(まさかこんなところまでくるとは思っていなかった)
前に立っていた教師にこれ以上授業は受けないことを伝えると、なぜか顔をこわばらせていた。
それから震える声で
「は、はい。わ、分かりました……」
と答えたので扉の方に向かう。
がその際に
「あ、あいつSランク冒険者なのか?」
とクラスの誰かが口にしていたのをキッカケに誰かが聞いてきた。
「き、霧島?なにか説明してくれないか?」
誰に聞かれたのかは分からないが答えるのも面倒なので扉を閉めた。
俺からは何も話すことは無い。
これが俺の答えだと思ってもらおう。
◇
平日の昼からギルドに来ることはあまり無いが、俺はギルドに来ていた。
「ようきたな」
珍しくこっちの区画のギルドまで来ていた西林。
こちらのギルドでこうして会うのは初めてのことだが、特に触れずに会話を進める。
「わざわざ呼びに来てなんなんだ?」
「森山の件で緊急クエストが発令されたんや」
そう言って俺にクエストを渡してくる西林。
内容は4階層の踏破、というものらしいが。
「解放はされたのか?」
「お前がしたんちゃうんか?」
「?」
「未登録の冒険者が侵入して各区画を強引に突破したんや。そんでもって4階層は正式に解放された」
「は?」
「……その反応やとなんも知らんみたいやな?」
初耳のことだし、何も知らないんだよな俺は。
「とにかく謎の冒険者が各区画を攻略しおったんや。異常やで」
たしかにそうだな。
俺も勿論動いてないのは分かるし東條にもそれだけの実力があるわけではないし、そもそも大迷宮への侵入となるとそれなりに厳しい。
それを未登録で攻略していくのは……色々と考えにくいが。
「緊急クエスト、ねぇ……」
俺は渡されたクエスト用紙を改めて見る。
内容はこの謎の冒険者がダンジョンから出た形跡がないから可能ならば捕獲せよ、とのことらしい。
「無茶苦茶な話だな。殺すのは簡単でも捕獲するのって難しいんだよ」
「せやけどそれが任務や。行こうや」
今日は真白も東條も揃っていた。
それに
「今日からは私も行きますよ瀬奈様」
瑠花も同行してくれるらしい。
「あの時のリベンジです」
彼女は数年前に挑みここで負けた。
そして足に負傷を負った。
このダンジョンに対する思いは人以上にあるだろう。
「よし、行こうか」
準備を終え俺たちは大迷宮の4階層に向かう。
◇
「やばそうやな」
「そうだな」
3階層までとはかなり変わっているように見える。
今まで無機質なダンジョンだったが、壁の色が黒ずんできていた。
まるでこのダンジョンの難易度を示すように。
しばらく進むと二手に道が分かれていた。
「どっちに行く?」
「二手に分かれたらいいだろう」
そう言うと俺は真白と瑠花を引き取り、西林達に東條を渡した。
「戦力的にそれで問題ないだろう?」
「まぁええわ。じゃあウチらは左行くから右よろしく」
そう言われて俺は頷いて右の道を行くことにした。
「瀬奈くんって私の事遠ざけてる?」
途中で真白にそう聞かれた。
「なんで?」
「なんとなく、必要ない時とかはこの前休みくれたし」
「無駄に死なれたくないだけだよ」
俺は特に問題なくダンジョンを進んでいるが、本来ここは日本屈指の難易度を誇るダンジョン。
いつ人が死ぬかなんて分からないし目の前で死なれるよりはまし、って思ってるからだ。
「そ、そうなんだ」
なぜか嬉しそうな顔をする真白を横目に見ながら進んでいると、拓けたエリアに出た。
そのまま抜けようとしたがそんなこと許さないと言うように大量の雑魚モンスターが湧いてきた。
【空間斬り】
スキルでフロア内の全ての敵を斬りつける。
俺の攻撃力は高い。
数字の暴力で倒れるだろうと思っていたが、
「待って。あいつら生きてるよ」
真白にそう言われて周りを見たら
【根性】
というスキルで雑魚モンスター達のいくらかが持ちこたえていた。
俺ももう一度スキルを使おうとした、その時だった。
「瀬奈。変わっていないな。お前は」
そのとき、俺が討ちこぼしたモンスター達が他の人の斬撃で消し飛んだ。
「最後の最後で詰めが甘い」
そんな声が聞こえてきた。
でもこの声は本来聞こえてはいけないし聞こえるわけもない声だった。
その声を聞いた瞬間1番最初に反応したのは瑠花だった。
「せ、セリカ姉様?」
そう言って声を発した人物に駆け寄っていこうとする瑠花を俺は止めた。
「待て瑠花」
「ど、どうしてですか?瀬奈様」
「あれが本物だという保証はどこにもない」
俺は瑠花の姉であるセリカを黙って見つめた。
なぜ、ここにいるのかは分からないがそもそもあいつは、すでに
───────死人だ。
瑠花を守ってモンスターの山に囲まれて死んだ。
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