第29話 目標達成だが

地下の大迷宮に向かった俺だったが、前に進んだ最終地点までつくと西林達がいたし。


今回真白と東條にはとりあえず休んでもいいと伝えてある。


なので俺がひとりで西林たちと合流することになったのだが。


ちなみにあの時にいたロシア人は虚偽の報告をしたことにされてライセンスの停止を食らっている。


結果的には大富を振り回したことになる。

このままいけば永久剥奪されるだろう。


待ち合わせ場所のセーブポイントに辿り着いたが俺を待っていたのはよくない視線だった。


「おおきになぁ霧島〜。よう来てくれたでほんま」


腕を組んで俺を見てくる西林の姿。

それから、俺はそんな西林の横に座る少女に目をやった。


(げっ……)


少女は会釈してきた。

その少女は俺が今日学園で出会ったばかりの少女だった。


そういうことだったのか、後悔するって……。


「ウチの妹とは喋る価値すらないんか?えぇ?」


にっこりした笑顔で話しかけてくる西林。


「め、めっそうもございません」


思わず変な敬語が出てきた。


そんなことよりも


「い、妹だって?」

「せや。妹や」


それからこう言ってくる。


「時間が無い、か。でも今は時間あるよなぁ?」


こうなれば頷く以外の反応ができないが、少女は西林を宥めてから俺に向き直ってきた。


「霧島くん。私は同じ学園の西林 シオンです」


と名乗ってくるシオン。


そんなシオンに俺は引きつった顔で頷く。


「え、う、うん」


めちゃくちゃ気まずい。

つい先程俺は時間がぁ、と言ってこの人との話し合いを直ぐに終わらせたからだ。


となると今この時は時間があるし会話に付き合った方がいいことになるが。


なんてことを思っていると俺の顔を覗き込んでくるシオン。


「ど、どうしたの?」

「私は霧島くんのことが好きです」


とそう言ってきた。

なんで告白されてんの?とか思いながら西林に目をやった。


「らしいで。男なら答えたらどうやねん」


助け舟なんて来る訳もなくそう言ってくる西林。


「そんなこと言われてもな」


俺はこのシオンって人の事知らないしいきなり好きだなんて言われても困るんだが……。


そうやって困惑しながら俺は2人を連れて先に進もうとしたが


「誤魔化すんか?」


そう聞いてくる西林。

何も答えないでいるとシオンが口を開いた。


「お姉ちゃん。いきなりこんなこと言われたから普通の反応だと思いますが」


と意外なところから助け舟。


「そうか。まぁウチはどうでもええけどな」


そう言いながらついてくる西林。


それにしても姉がすごい関西弁で妹は普通なのか、まぁダンジョンができてからは違うところで育つなんてことは普通にある話だが。


なんてことを思っていると西林が話しかけてきた。


「霧島はなんで大迷宮にきてるんや?」

「欲しいものがあるんだ。どんな病気だって治せるアイテム。そんなものがここにならあるって思ってる」


そう言うとシオンが口を開いた。


「ありますよ。ここになら」


と説明していく彼女。


「ここには本当に様々なアイテムがあります。数十年前では考えられなかった瞬間移動、それもここの素材を使えば実現ができていますからね」


シオンはそう言いながら我先にと進んでいく。


「なぜ、そんなアイテムが必要なのか分かりませんが、私も霧島くんの助けになりたいです」


そう言いながら進んでいく。


今回も道中色んな障害があったが、ボス部屋まで無事に攻略が進んだ。


「すごいですね。霧島くんはなんでこんな力があって予備生なんでしょうか?」


何度目か分からなくなるくらい聞いていた言葉には何も答えずに西林に目をやった。


「俺の目当てのアイテムじゃない。あげるよ」

「ええわ。そこまで施されるほど落ちこぼれてないつもりやで」


そう返してくる。


だが、俺が持っててもあまり意味が無いんだよな。


ちなみにここのフロアボスの初回報酬はレイピアだったが俺には必要のないものだった。


そうして次のフロアに進めることになっていたので進んでみたが。セーブポイントのように休憩ができるようなフロアになっていた。


「休憩しろ、ということか」


そう思いながら俺はその場で時間を確認した。


深夜の0時。


そろそろ帰った方がいいか、とか思っていると俺の視線の先にあった扉が突如開いた。


そこから出てきたのは


「キリシマァ……」


若干の恨みを込めたような声でそう口にする森山だった。


俺が無視していると森山は近付いてきた。


なにか話があるらしいし顔を向ける。


「どうしたんだ?」


俺が森山に聞くと


「初回報酬はなんだった?」


聞かれたことに答えると


「譲ってくれないか?それ。僕の側で取れた回復アイテムの【世界樹の種】と交換してくれないか?」


そう言われて目の前に世界樹の種を出てきた森山。


​──────​───────​───────​─

名前 :世界樹の種

ランク:S

​───────​───────​───────


なるほど。ランク的には俺のレイピアの方がSSレアと若干高いが俺には必要のないものだった。

そのため、まだ回復アイテムの方がいいと思ったので俺はレイピアを森山に渡した。


すると世界樹の種を渡してきた森山だがその瞬間ニヤッと笑った。


「あはははは。馬鹿じゃないのか?お前こんな強そうなレイピアとそんな回復アイテムを交換するなんてな」


そう言ってきた森山。

そのまま続ける。


「これからの大迷宮攻略が楽しみだなぁ?なぁ?霧島。このレイピアがあれば既存の冒険者ランキングなどもひっくり返る!」


そう言って森山はまだ解放されていない次の階層の方に向かっていく。


「まだ解放されてないけど」

「解放されていないだけでダンジョン自体はある。ならば瞬間移動でこの壁の向こう側に行けばいいだけさ」


そのまま瞬間移動で壁をぬけていく森山。

理屈で言えばたしかにそうだが。

俺はどうしても行く気になれない。


森山が連れてきたパーティの奴らも俺たちに特に目を向けることなく壁の向こう側に行った。


「ええんか?霧島。レイピアなんて渡してもうて」


そう聞いてくる西林に頷く。


程度で冒険者ランキングがひっくり返るとも思わないから」


そう口にして俺もこのダンジョンを後にすることにした。


そうしてダンジョンの帰り道、俺は例の病院までやってきた。


そしてあの病室へ。


「やぁ、瑠花。お待たせ」


そう言って俺はベッドに腰を下ろすと手に持っていた世界樹の種を瑠花に渡した。


「これは?」

「世界樹の種さ。回復アイテムらしい。これで治らないかな?」


そう聞いて瑠花にアイテムを使ってみてもらうと、パァァァァァァっと瑠花の足が光を放って。


やがて


「あ、あれ?」


違和感を感じたのか首を捻りながら瑠花はベッドの外に足を投げ出した。


そしてそのまま恐る恐るといったような感じで手に力を込めて立ち上がった。


「た、立てます!」


そう言って足を動かす瑠花。

ちゃんと、歩けているようだ。


「な、治りました!」


そう言って俺に飛びついてくる瑠花。


「ありがとうございます!瀬奈様のおかげで治りました!」


そう言ってぴょんぴょんと跳ねる瑠花。

よっぽど嬉しいのだろうが、注意しようとしとそのときこの飛び跳ねる音が聞こえたのか看護婦が注意しにきたが


「あ、あれ?た、立ってる?」


と瑠花を見てから俺を見てきた。


「どんな医療を施しても無駄だったのに?!せ、先生!!!」


バタバタと看護婦が走っていった。

なんか勘違いされているような気がするので、病室の窓に手をかけるとガラッと開けた。


「じゃ、俺行くから。家は分かるよね?行くとこないなら来ていいから」

「は、はい!」


瑠花の返事を聞いて俺は窓から脱走する。

さて、俺の瑠花を治すという長年の夢はこれで叶ったことになるが。


大迷宮のことはまだまだ分からないことだらけ。

今まで特に興味はなかったが今の俺はもっと大迷宮を攻略したい、と思っていた。


ここまで来たのだ。俺が全部攻略したい、とそう思うようになっていたが、そのとき着信があった。


(また西林か)


そう思いながら出ると


「やばいやばいやばいやばいやばい」


いきなりまくし立てられて嫌な予感がしながらも聞き返す。


「なんだよ?」

「お前んとこの学園の森山が死んだらしいで」


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