第28話 名前が広がっているようだ

モニターの中の黒の殲滅者に変装した東條は更に魔法を放っていき、あっさりとボスを倒す。


そこには元々東北区画を担当していたパーティ達もいた。


そいつらの前で東條はボスを倒した。


『く、黒の殲滅者?!』


西林の叫びが聞こえてくる中俺は東條に撤退の指示を出す。

ここまで東北区画に黒の殲滅者が現れた、という証拠を残せたのならもう十分だろう。


もはや大富がなにも言えないであろうことは理解していながら俺は三矢を味方にするためにも声をかける。


「ギルマスも俺がこのモニターの人物だって、思うの?」


大富の顔を伺うようにして一瞬だけ見てから首を横に振った。


「あ、有り得ないな。そ、そんなことは」


これでギルマスは俺の味方になってくれたことだろう。

俺は大富に目をやった。


「それで、俺は不当に拘束されているわけだけど、この件に関しては今すぐ解放してくれる、と言うのなら俺はこれ以上なにも言わないよ」

「う、うぐぐ……」


余裕そうな顔をしていた大富が困ったような顔をして逃げるようにズリズリと後ずさる。


「ところで、こんなところにいる場合かな?大臣様」


黒の殲滅者が現れた以上、こいつがここでじっとしている暇はないだろう。


「東北区画に向かわなくていいのかなぁ?処罰対象の黒の殲滅者が今こうして東北区画に現れているんだけど」

「き、貴様……」


そんなことを口にしてくるが俺は気にせずににっこりと笑って続ける。


「国民が待ってるんだよね?処罰するのを。早く向かわないと逃げられちゃうよ?」

「くそっ!」


大富はなにも言えないのかそのままギルマスの部屋を抜けていった。


その後ろ姿を見送る俺と三矢だったが、もうここには用がないので俺も出ていこうとしたら呼び止められた。


「てっきり私は君が黒の殲滅者だと思っていた」

「違うって前も言った気がするけどね」


そう答えて俺は部屋を出ようとしたが、三矢が口を開いた。


「だが、一つだけ考えられる可能性がある」

「なんの?」

「君がここにいながら魔法を使いあそこのダンジョンボスを倒した、というものだ」


まさか、気付いてるのか?


そう思ったが杞憂なのはすぐに分かった。


「すまない。忘れてくれ。流石に物理的な距離がありすぎる。この可能性がどれだけ有り得ない事なのかは私も分かっているつもりだ」


そう言ってそれ以上なにか言うことも無く机に向かい始めた三矢を見てから俺は扉に手をかけた。


(俺はその有り得ないことをやったんだがな)



翌日、学園に向かうために道を歩いていると生徒達の会話が聞こえてきた。


「また黒の殲滅者が出たんだって。今度は東北に」

「らしいよね。私も聞いた。なんでも冒険者省の大臣も近くのギルドまで向かってたって話も聞いた!」


その後も女生徒たちの会話は続いていく。

別に盗み聞きするつもりもなかったけど、声がデカくて勝手に耳に入ってくるのだ。


「それでまた黒の殲滅者に逃げられたんだって!あんだけ偉そうに処罰するとか言っといてまた

逃げられるって逆にすごくない?」

「仕方ないんじゃないの?黒の殲滅者って世界最強の冒険者って言われてるくらいだよ?それをSの大臣じゃ捕まえられないよ」

「あはは、そうかなー」


そんな会話が聞こえてくる中俺は歩いていこうとしたが、ふとこちらを見る女子生徒たちの視線が視界の端に映った。


コソコソと話し出すが、俺の耳は聴力を強化してあるので聞こえてくる。


「あれって最近噂になってる、Sランク冒険者の予備生の霧島くんじゃないの?」

「え?あ、あれが?思ったよりかっこいー」

「話しかけに行かない?」


そんな会話が聞こえてきたので少しだけ歩く速度を上げることにした。


退散だ。


校門前までやってきたが、そこに森山が立っていた。


面倒ごとも嫌だから避けて通ろうかと思ったが


「沖縄区画を攻略してきた」


そう言ってきた森山。

まさか、こいつが?とも思ったが証拠に冒険者カードを見せてきた。


カードには記録が残るから分かる。


「お前がこの区画の特殊部隊に選ばれて攻略したのは知っているが、僕は沖縄を攻略してきた。そして特殊部隊に引き抜かれた」


沖縄は北海道よりちょっと厳しいかなくらいの難易度らしいが、それでも大迷宮を攻略できたのは賞賛に値するだろう。


相手がこいつじゃなければ俺も賞賛していた。


「僕はお前を認めないぞ霧島」


そう言ってキッと睨みつけてくるのを見て俺は横を通り抜ける。


ここで待っていたのは俺の横を歩いている陽菜目当てなのだろう。


「霧島さん」


そうやって声をかけているが、相変わらず無視されているようだった。


そうして教室に入ると今日の授業が始まるのだがその授業中にメッセージの着信があった。


もちろん、授業中に携帯端末の操作などいけないことではあるが。


俺にメッセージしてくる奴らなんてたかが知れてるし、滅多なことでしてこいので一応バレないように確認してみる。

急な話の可能性もある。


(三層が開放されたで)


相変わらずなんで俺の連絡先を知っているのか分からない西林からのものだった。


その程度のことなら急ぎでもないだろ、と思いながらメッセージから目を話そうとしたが下の方にあった一文が目に止まった。


(今までと形式が変わっとる)


形式?

そう思いながら俺は読み続ける。


(三層からは区画の数が激減してるみたいや。いくつかの区画が合わさってるみたいや。例えばで言うなら霧島んとこの区画とウチらの区画が同じになっとる。つまり合同で攻略することになるってことや)


合同攻略か。

そう思いながら俺は携帯端末をしまった。


その後の昼休みに俺は柊会長に話しかけられた。


「霧島くん。少しいいかしら」

「どうしたの?」


食堂に向かうために歩きながら会長の話に付き合おうとするが、ずっと表情は重い。

マジめな話をするようだが。


よく分からない話をされなければいいが、と思いながら歩いていると。


「見た?これ」


そう言って俺に携帯端末を見せてくる会長。


「冒険者ランキング?」


そこに浮かんでいた文字を見てつぶやく俺。

そう言えば東條が1位だったランキングな気がするが。


未だに一位は東條アンナとなっているし。


「これがどうしたの?」


俺がそう言ってみると会長はちょいちょいと指を動かして画面をスクロール。


そしてとある場所で指を止めた。


「これ、誰の名前でしょー?」


首を傾げて聞いてくる会長。

そこにあったのは俺の名前だった。


「それを見せたかった、というわけですか?」


余りにもくだらない話なので呆れ半分で口にしてみたが、そのとき先程から会長の後ろに立っていた女子生徒と目が合った。


「うん。私からはね」


そう言って会長は後ろの女子生徒に目をやった。


すると赤面しつつ俺に話しかけてくる。


「あ、あの3年1組の……」


と自分の名前を名乗ってきた女生徒。


「時間をもらえませんか?霧島くん。ずっと話してみたいと思っていて」


なるほど。

それで会長を通してコンタクトを取ろうとした、と。


「すみません。時間がありません」


そう謝罪を口にして俺は食堂の方へ向かっていくが、トコトコと歩いてくる会長。


「ちょ、ちょっと?ふ、普通そんなあっさり断るの?」

「話し相手なら足りているので」

「そ、そういうことじゃないんだけどなぁ……それと後悔しても知らないからね?」


と困惑しているような会長だった。


後悔?

何の話だ?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る