第27話 もうひとりの


「ライセンス停止ってほんとうなのか?」


ギルマスの部屋を出てこれまでのことを話すと東條が焦った様子で聞いてきた。


「嘘をついてどうする」

「そ、それもそうだが。このままでは霧島のライセンス剥奪だなんて」


その言葉には答えずにギルドを出ようとしたらついてくる東條。


「どうするつもりだ?霧島」

「俺は何もしないさ」


そう答えて家の近くまで戻ってきたがまだついてきていた東條。


「なんなのだ?」

「お前がほんとうにこのまま諦めるのかと思って」


俺がなにも答えずに黙っていると東條の携帯端末に着信があったらしい。


「出ていいか?」

「確認しなくても勝手に出なよ」


そう言うと通話を始めた東條だったがその顔色がどんどん悪くなった。


「なっ……どういうことだ?私のライセンスも剥奪、だと?」


向こうの声までは聞こえないが会話を聞くに俺の事を黙っていたことで不義理を働いたこととなりライセンス剥奪の可能性が上がってきているようだ。


「めちゃくちゃな」


そう言って通話を切る東條。

俺の顔を見てきた。


「私もこんなところじゃ終われないのに」


お互い状況はよくないらしいが。


俺は別にこいつのことは知らない。


陽菜を呼び出して自分の部屋に上がらせたが、なぜかついてくる東條。


陽菜にこれからの事について話した。


「俺はこれから定期でギルドの監視を受けることになる。だから代わりに仮面をつけてダンジョンに向かって欲しい」

「わ、私にお兄様の代わりを?」


驚いているらしい陽菜だが。


「陽菜にしか頼めない」


そう言ってみるが答えたのは東條だった。


「私にやらせてよ」

「お前に?」


まさか自分から首を突っ込んでくるとは思わなかった。


「状況は同じだ。私も黙っていた件について問いただされているがそこに別の殲滅者が現れたのなら、私は言い訳ができる。霧島は殲滅者ではない、という」

「なるほど。お互い利益が一致している、ということか」


俺は頷いて陽菜から視線を逸らした。

この件たしかに東條に頼んでみてもいいかもしれない。


「頼めるか?」

「だが、どうすればいい?私は霧島のように動けない」

「【感覚同調】という魔法がある」

「どうすればいい?」


東條の肩に手を置いて魔法を発動させる。


しばらく待っていると俺の脳裏に俺の姿が浮かんだ。


これは東條の見ている俺の姿。


「これで俺の精神はお前の中にいる、という状況になる。見たもの感じるものを全て俺も同じように感じることができるが」


痛覚だけは遮断しておく。

痛いのは嫌だから。


「こ、こんなこともできるのか」


俺は頷いてこれからの事について説明する。


「俺がギルドに監視されている間ダンジョンに潜って欲しい。後は俺が指示を出す」


そう言って東條を立たせると部屋から追い出す。


「お、おい?説明が少ないぞ?」

「大して難しいことじゃない。ダンジョンに入ってくれれば後は俺がやる。今から東北の区画に向かってくれ。見つかるなよ?」

「そ、それだけか?!説明は!」


頷いて東條をたたき出した。

説明するよりやってもらった方が早い。



朝起きて俺はギルドに向かった。

そして大富による直接の監視を受ける。


「黒の殲滅者、自分から明かした方が楽だぞ?」

「別人だから。明かすも何もないんだがな」


俺はそう言いながら右目で大富を見ながら左目で東條の見ている景色を見ていた。


今東北の区画に侵入したらしいが。

この後こいつが先に進んでいくのを見届ける。


「殲滅者でないかどうかはしばらく観察していれば分かるだろう」


そう口にして俺の監視というくだらない業務を続けるらしい大富。

こんなことに付き合わされるギルマスの三矢に同情したくなるな。


「こんなことに付き合わされる俺に同情してほしいものだ」

「さっさと吐けばこの無駄な時間も終わるぞ?」


そんなにも俺を処罰して黒の殲滅者への制裁を与えたいらしい。


そうして俺の方は数時間が経過して何も動き出さなかった。


それもそうか。

俺は別に何も話さないし大富側も証拠がない以上とりあえず経過観察するしかないのだが。


でもそのとき、ついに動いた。


「ギルドマスター」


ガチャりと扉が開いてギルマスの部屋に入ってきた職員の口から言葉が出る。


「く、黒の殲滅者が現れました」


その言葉が聞こえた瞬間即座に反応を示した大富。

大富だけではなく、三矢も驚きの表情を浮かべていた。


「ば、ばかな!黒の殲滅者ならここにいるではないか!」


そう叫ぶ大富だが職員は首を横に振るだけ。


「東北区画の大迷宮に現在黒ずくめの人物が現れています」


そう報告をして職員はこの部屋にあったモニターに動画を流し始めた。

そこには俺の姿に似せた東條の姿。


「な、なぜ殲滅者が!」


そう叫ぶ大富を見て俺は口を開く。


「もう、いいかな?これで。黒の殲滅者とやらは別に現れた。つまり正体は俺では無いし。なら俺に用はもうないよね?」

「だがこいつが黒の殲滅者と決まった訳では無い」


と、謎なことを言ってくる大富。


ここに辿り着いた仮面の人物。

それだけではまだ足りない、とでも言うつもりなのだろうか?


「と、言うと?」

「この人物は黒い服装をしているだけだ。実力を見ていない。黒の殲滅者であるのなら強力な魔法を見せるはずだ」


なるほど。そういうことか。


東條は既にボス部屋までたどり着いていた。


【エクスプロージョン】


俺は東條の視点を通してボスに魔法を放つ。


他の奴らの視点では黒の殲滅者の姿をした東條が魔法を放ったようにしか見えないだろう。


それを証明するように三矢は大きく口を開けていた。


「こ、これが黒の殲滅者……初めて見たがすごい魔法だ……」


俺たちの目の前に置かれていたモニターでは先程の魔法でボスが消し飛んでいた。

その様子を見て三矢は驚いているようだが。


三矢ではなく大富に視線をやる。


「これでもまだこれが黒の殲滅者は本物ではない、と?言うつもり?」


俺はそう言いながらパイプ椅子から立ち上がる。


三矢にもなにか言ってもらうために口を開く。


「ギルマスも見てたよね?今の魔法。これで偽物だとまだ思う?俺にはとうてい思えないけどね。俺が黒の殲滅者?ご冗談を、と言いたいところなんだけどね」



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