第26話 事件発生
「アンナ!こいつがシックス・ウィンターだ」
未だにその呼び方で俺を呼ぶやつがいるとは思わなかったな。
元々俺の六冬という偽名はこいつからが俺の事をシックス・ウィンターと呼んでいたのでその直訳だ。
「知っている」
そんな男にそうやって答える東條。
「ロシアを滅ぼした悪魔だぞ?!」
「だから?」
男にそうやって言い返す東條。
「私はシックスウィンターを恨むのはやめた」
「しょ、正気なのか?」
そう言われて頷くアンナ。
「シックスウィンターはたしかにやり過ぎだとは思うけど元々はロシアが悪いと思うから。私はもう恨んでない」
そう言われ歯ぎしりする男。
「お、お前はそうかもな。だが俺は仲間を目の前で……」
そこまで言った男だったが、そんな男を無視して俺は西林に声をかける。
「西林。先に進まないのか?」
「え?」
いきなりの事で戸惑っているらしい西林。
しかしすぐに
「え、行くで行くで」
と返してきた。
それを見て男はぐちゃぐちゃ言ってくるけど。
いつものようにニッコリ笑って答えてやることにする。
「誰に文句行ってるのかな?俺じゃない人がやったことに対していろいろ言われても俺は知らないよ」
◇
帰り道、真白はすぐに帰ったが東條がついてきていた。
「すまない。仲間が霧島の正体に気付いたかもしれない。もしかしたら言いふらしたりするかもだけど、止めなくてよかったのか?」
そう謝ってくる。
「言いふらされても誰も信じないよ。個人のつまらない妄想で終わる」
俺は実際にその光景を見ているし。
「そ、そうなのか?しかし」
「心配性だな?誰も信じないよ」
良くも悪くも対ロシアの時に俺は過去で一番凄まじいインパクトを与えている以上、ちょっとやそっとじゃ認めない人が多い。
まぁ、隠す事に越したことはないからこれまで誰にも言ってこなこったわけだけど。
そうしながら俺は病院の前まできていた。
「帰っていいぞ東條」
「誰か入院しているのか?」
「見舞いに来ただけだ。帰りなよ」
そう言って暗に帰れと言っているが、こいつは帰ることなく瑠花の病室までついてきた。
病室に入ると瑠花が声をかけてくる。
「瀬名様。お話はお伺いしております。大迷宮突破の件おめでとうございます」
「まだ二階層だけどね」
「でも、これまで数年突破されなかったダンジョン、ということで院内でも話題になっておりますよ」
そう言いながら瑠花は俺にネットを見せてきた。
「こんな感じですね。どこもかしこも瀬奈様の話題で持ち切りなようです」
とのことらしい。
新人冒険者なのに数々の高難易度の依頼やダンジョンやクエストを攻略し続けている俺の話題で持ち切りだった。
そんな記事ばかり今は書かれているようだが、そんな話をしにきたわけではない。
「持ってきたよ。これで、どうかな?」
俺は不死鳥の羽根を瑠花に使ってみた。
でも
「だめな、ようですね」
不死鳥の羽根でも瑠花の足は治らないらしい。
「これでも、ダメなのか」
俺は瑠花に聞いてみる。
「あとどれくらい時間は残されてる?」
「分かりませんが、このまま病状が進行するようであれば切断した方がいいという話を聞いております」
「重い話だな」
そんな話を頭から追い出すように首を横に振った俺だった。
しかし瑠花は今度は東條に目を向けていた。
「瀬奈様の彼女さんですか?」
「え?そ、そんなふうに見えるのか?」
戸惑う東條。なぜか顔を赤くしていたが。
俺も口を開けた。
「男だろ?そいつ」
「え?女性でしょう?瀬奈様」
目をまん丸にして見開いてそう言い返してくる瑠花。
俺は東條を見ると
「わ、私のことを男だと思ってたのか?」
「え、う、うん」
俺が戸惑っていると手をわなわなとふるわせた後近寄ってきて。
俺の手を掴んで自分の胸に押し当てる東條。
「二度と間違えるなよ。私は女だ」
「あ、あの、当たってるんだけど」
「当ててるのだ。二度と間違わないように、な」
俺はココ最近で一番驚愕したのだった。
そんな俺を見ながら東條は口を開く。
「ハラショーな目をしているな」
「ん?」
ロシア語か?
分からないな。
東條は病室を出ていった。
しかし、女だったのか。
気をつけよう。
◇
翌日の夜。
俺がギルドに入ると大富が来ていた。
それどころか俺がギルドに入った瞬間、ギルド内の視線がすべて俺に突き刺さる。
「霧島、瀬奈」
俺の名前を低い声で呼びながら近付いてくる大富。
「なに?」
「ギルマスの部屋に向かおうか」
俺はそう言われて大富とギルマスの部屋に入った。
そこには三矢がいたが、三矢は俯いておりなにも話すことはないらしく大富が口を開いてきた。
「単刀直入に行こう。君が黒の殲滅者なのではないか、と私は疑っている」
昨日ロシア人から報告があった、と続ける大富。
読みが外れたな。
そもそもあのロシア人が報告するとは思っていなかったが。
「まさか、そんな一人のロシア兵の言うことを信じる、と?そんなわけないでしょう。漫画の見すぎだ」
そう言って立ち上がろうとしたが
「ロシアの日本侵攻の時に確認されたのはウルトラエクスプロージョン。そして君が昨日使ったのはハイエクスプロージョン。関連性があるが」
「別人ですよ」
「現在日本にハイエクスプロージョンを使えるのは君を含めて片手で数えられる程度だ」
「そんな妄想を聞かせるために呼び出した、と?」
立ち上がろうとしたが止めてくる大富。
「黒の殲滅者は匿名冒険者としてかなり長い間世間を荒らしてきた人物、もしもその正体が君であるのなら処罰を与えなくてはならない。それが私達なりのケジメだ」
続きを待っているととんでもないことを口にする。
「君の冒険者ライセンスを剥奪し冒険者情報を抹消処分、とする。君がいくら優秀でもケジメは大切だからな。ということだ。匿名のクズ冒険者。さっさと白状しておけよ」
なんでもいいけど、肝心のものがないな。
「証拠は?」
「ない」
キッパリ言い切ったな。
「今なお匿名冒険者に対しての罰則を求める声は大きい。その声を沈めるために生贄が必要なのだ」
なるほど。それだけの理由か。
続きを待っていると
「これから一週間君の冒険者ライセンスの停止を行う。その間に別に殲滅者らしき人物が現れれば疑いは晴れるだろう」
なるほどな。そういうことか。
替え玉、を出そうか。
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