転生先の仕事が過酷すぎてサボろうとしていたけど年に一回しかないと聞き魔法の練習を始めたらいつの間にか職業変わってた

寒椿

第1話 転生先の仕事

ドンッッッ、ドンッッッ、ドンッッッ。


「もぉぉぉぉ!!!なんなのよぉぉぉぉぉ!!」


ある屋敷の一室、ルカは大きな声で不満を叫びながら大量の書類にハンコを押しまくっていた。


「なによこれぇ…公務員はどの世界でも楽な仕事じゃないのぉ…?公務員か知らないけどぉ…」


もう書類の内容など頭に入ってこない、というかそもそも読んでいない。ただの自動ハンコ押しマシンと化している。


(なんで私がこんな目に…!っていうか私を轢いたあの車の運転手が悪いんじゃない…!末代まで呪ってやるわ…)



___1ヶ月前。


キキィィィィィィィィッッッ!!!


「瑠歌ちゃんっ!!」


私は友達が止めてくれる声に気づかず、信号無視をした車に轢かれて死んでしまった。



(ん…あれ…?ここ…どこ…?)


目を覚ますと驚くほど豪勢な部屋のベッドに寝かされていた。家具の一つ一つが一級品だろう。


(私…確か車に轢かれて…)


死んだはずなのに…と自分が生きていることに驚く。ふと壁に目をやると、いかにも貴族らしいドレスを着た、額縁に入った自分の写真が掛けてあった。しかし当の瑠歌には覚えがない。だから、正しくは自分に似た少女の写真、だろう。


(えぇ…どゆことぉ…?)


ひとまず、外の様子を見に窓に向かう。


(え、ええええぇぇぇぇぇぇぇぇ!?!?)


どうやら窓の外は商店街らしい。人がひしめき合っている。問題なのは…まず建物がファンタジー小説に出てくるような煉瓦造りである。それに加えて、頭に角が生えている人がいたり…魔法使いのようなローブを着た人がいたり…肌が緑色のゴブリンのような人がいたり…。


それを見た瑠歌にはある考えが浮かぶ。


(これ…異世界転生ってやつじゃないのぉぉぉぉ!?!?)


焦りが吹っ飛びワクワクする気持ちでいっぱいになる。


その時だ。


バンッッッッッッ!


勢いよく部屋のドアが開く。


「おはようございます、ルカ様!やっとお目覚めになったのですね!?さっそくですがお仕事のお時間ですよ!」


ドアの前には同じくらいの年齢に見える少女が立っていた。


「…だ、だれ…?」


突然の来訪者に瑠歌は驚く。


「私はミリアですよ。ルカ様、馬鹿げたことを言ってないで働いてください!さあ行きますよ!」


瑠歌はパジャマのまま別室に連行されたのだった。



部屋に入るな否や瑠歌は絶句する。


(な、なにこれ…)


目にしたのは高く積み上げられた書類の山だった。1メートルは超えているだろう。


「さ、書類に押印をお願いします。」


「こ、これ全部…?」


「いえ、まだまだ溜まってますが…とりあえずは…」


「え…えええええええええええええぇ!!」


「さ、始めてください。半分終わるまで休憩は無しですよ!」


「は、はい…」


ダンッッッ、ドンッッッ、ドンッッッ、ダンッッッ!!!!


(てか…ミリアとかいう子の押しに負けちゃったけどなんで私がこんな目に…)


ドンッッッ、ドンッッッ、ダンッッッ、ドンッッッ!!!!


(あれ…あの子なんで私の名前知ってるんだろう…)


ドンッッッ、ダンッッッ、ダンッッッ、ダンッッッ!!!!


(まあいいわ。ひとまず半分頑張って休憩の時に聞こう…)


ドンッッッ、ダンッッッ、ドンッッッ、ダンッッッ、ダンッッッ!!!!___________



何時間同じ動作を繰り返していただろう。


(こ、これで半分くらい…?)


もう声を出す元気もない。右手が痺れている。


その時、鐘が鳴り部屋にミリアが入ってくる。


「お疲れ様です、ルカ様。予想以上の進捗ですね。午後からの仕事に備えて少し休憩にしましょう」


「ああああ…!疲れたぁぁぁぁぁ…!!」


「昼食を用意しました。どうぞお食べください」


「え、いただきます!」


おかずの焼き魚を一口頬張る。


(おいしい!幸せだわぁ!)


「おいしいわね!ありがとう」


「それはよかったです。午後からもお仕事頑張ってください」


「はぁい!…ってそうじゃないわよ!ここどこ!?なんで私の名前を知ってるの!?あなたは誰!?あれはなんの仕事なのよ!?」


危なかった。食事に釣られてあの重労働を容認してしまうところだった。


「なにを仰ってるんですか?ここはローデン王国のノージス家のお屋敷です。私はルカ様が幼い頃からメイドとしてお仕えしていますよ?名前を知らないはずないじゃないですか。」


「そ、そうだったわね…!!」


ここは同意しておかないと怪しまれてしまう。


「それに、ルカ様のお仕事は国の予算の使用をチェックする大事なものです。自覚を持ってくださいね!」


「は、はい…。っていうことは、これから毎日同じ仕事をするってことになるわよね…」


「はい、もちろんですよ?」


「えぇぇぇぇぇ…」


「頑張ってくださいね!」


「は、はぁい…」


そんなことを話しているうちにいつの間にか昼食を食べ終わっていた。


(よし…やるって返事はしたけど、隙を見つけてサボってやろう…ふふふ!)


その考えによって地獄を見ることになると瑠歌はまだ知らなかった…_______



「ルぅカぁ様ぁぁぁぁぁッッッ!!また私の目を盗んでサボってぇぇぇぇ!!今度という今度は許しませんからね!!!」


「ひぃぃ…!ごめんなさいぃっ!真面目に働きますから許してくださいぃぃぃっ!!」


いつものように瑠歌の職務怠慢に怒るミリアがいる。これからもまたそんな日々が続くのだった…



1話 完

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