どこでもドア(随筆)

西しまこ

どこでもドア

 ずっと、ドラえもんのどこでもドアが欲しかった。


 それは、わたしが時間ぎりぎりにしか行動出来ず、「余裕をもって」とかそんな言葉がマイ辞書になかったからである。またとても忙しくて、「ああ、もう、時間ない!」みたいな感じだったからでもあると思う。移動時間なんて、無駄! と若くて傲慢なわたしは思っていた。

 しかし。

 ニンゲン、変わるものである。

 最近のわたしは移動時間が嬉しい。

 移動時間、一人で本を読んだりいろいろ考え事をしたりする。その時間がとても有意義に感じられる。さらに「余裕をもって」という言葉も辞書に掲載されるようになった。ブラボー! である。自分で自分を褒めるわたし。かつて、つきあっていたひとに「どうして遅刻するの? 毎回だよね? 遅刻やめて欲しいのだけど」と言われ、「わたし、遅刻は直らないから、諦めて」とか言ったことは記憶から抹消するとしよう。

 わたしはここ十年くらい、いわゆる在宅で仕事をしている。

 移動時間がない、ラッキー! と最初は思っていた。

 ところが、落とし穴があった。

 移動時間がないと、切り替えが難しい。

 移動時間がないと、「一息ついて」が存在しなくなる。

 仕事が終わった瞬間に家事とかいろいろやらなくてはいけなくなる。あれ、おかしくない? なんか変じゃない? 

 移動時間がなくなった分、別の仕事がそこに割り込むという悪魔の仕業に、わたしは気づいたのだ。


 そんなわけで、最近はどこでもドアに魅力を感じない。

 てゆうか、移動時間が得られる仕事を探そうかな、と思い腰を上げつつあるのである。

 移動時間の自由。

 大勢人がいても、わたしは独り。

 あの孤独の中での読書や思索は大変有意義なのである。

 

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