05,その後の学校と殲滅委員会 (2)
小夜子の精神が耐えられなくなり廊下の血の海に身を投げた時、山道を下るための通学路を壊した鯨の異獣が方向を変え学校に突っ込もうとしていた。
しかしその時、轟く雷鳴と共に鯨の脳天が叩き落とされた。
「よっしゃーー!!超命中!」
殲滅委員会 第5班 班員ライル・トドロキは大きなハンマーを勢いよく肩に担いで鯨の異獣の頭の上に立って同じく第5班の班員であるフウエル・クロノにピースサインをした。
フウエルは少し呆れながらもライルがいる頭の上に飛び乗った。
「超スカッとしたわー!バシッ!ビューンって感じでさ!」
ライルは伸ばした金色の髪を後ろにかき分けた。
「派手すぎ。この音で俺らのことバレたら管理委員会に怒られるぞ」
「知らない。超知らない。倒したからいいでしょ」
ライルはまるで女らしさもなく豪快に笑い飛ばした。
「はぁー。
「そうだ。そうだ。日本人に押し付ければいいんだよ。それで超解決でしょ!」
「まあ俺らもその日本人の血が半分入ってるけどね」
フウエルは校舎の窓から映る生徒の死体とシンバルを持ったチンパンジーの異獣を眺めながらボソリと呟いた。
「うるせ!超うるさい!その話はしないでよ」
ライルはフウエルを嫌な顔をしながら見た。
「はいはい。それより早く行こうよ。いるかもしれないんでしょ?あの"
ライルとフウエルは一緒に鯨の異獣の頭を飛び降りて校舎のグラウンドに着地した。
「てかさー。そんな超大物があるかも知れないのになんで私達2人だけなの?」
「だって俺たちは日本人の血が……」
「はい!はい!分かってますよ!もういいって!」
ライルはうるさそうにフウエルの話を遮った。
「分かってるなら言うなよな」
フウエルは自分の話が遮られて不服そうだった。
「はぁ?ちょっと愚痴を言っただけじゃん!」
「………」
「差別されてる事なんて分かってるわよ!あーあウィマと一緒がよかったなー」
ライルは第5班 班員 ウィマ・サイジョウを思って少しだけ頬を赤らめた。
「ウィマがお前を好きになるわけな……」
その時、激しい衝突音が響き渡る。
その音の正体は降り注ぐ瓦礫によってフウエルとライルは理解した。
校舎の2階から上が全くなくなっていたのだ。
そして吹き飛ばされた瓦礫がまるで降り注ぐ流星のようにグラウンドや山に降り注がれた。
「来たぞ!」
フウエルは自分の周辺に風の矢を出現させた。
「そんなの超分かってるし!」
ライルは肩に担いでいた大きなハンマーで飛んできた瓦礫を壊した。
そしてその校舎を壊した張本人がグラウンドに舞い降りた。
しかしその張本人は何故か目をつぶっておりフラフラとしていた。
そして舞い降りてきたのは張本人だけではなく、生徒に催眠をかけ自殺に追い込んだ異獣も一緒だった。
1階で職員室の教師に催眠をかけていたその異獣は本能でライルとフウエルを敵と見做し、たまたま気絶していた生徒を使って反撃を試みようとした。
しかしその異獣の最大の幸運は催眠をかけた生徒が
"
本来の小夜子であった場合、自分の力を自覚し使えるようになるまで時間がかかるはずだったが催眠をかけられ尚且つ自分自身は気絶しているという状態が彼女の力を無自覚に扱えるようにしていた。
「なんて魔力だよ。バケモンか」
フウエルは額に大粒の汗を流した。
制服を着た血まみれの女子生徒とその後ろにいる人間のような異獣。
「フウエル!私が特攻!あんたは援護!」
ライルはあえて何も考えずに小夜子の元に走った。
何か考えてしまったらおそらく彼女の足は動かなかったからだろう。
フウエルはライルが言った言葉を噛み締めるのに時間がかかった。
ようやくライルが走り出した所でその意味を知った。
反論しようとしたがすでにライルは小夜子の近くにいた。
「で、で、では!みなさんさようならー」
小夜子の後ろにいる異獣が催眠をかける。
小夜子は走ってくるライルに右手の手のひらを見せた。
まるで自分の手とどっちが大きいか比べようとするかのように無邪気に。
ライルはその手のひらを見て戦慄した。
小夜子の手のひらに溜まっていく魔力の量に彼女は死を覚悟した。
その無邪気な手のひらから放たれたその魔力は平穏な学校生活を壊された生徒たちの憎しみと恨みが込められていた。
そしてその怨念が宿った魔力は容易に山の形を変えることは造作もない事だった。
音はない。
漂うは死の香り。
放たれた魔力は山を削り大きな音を立てて山は崩れ落ちた。
ライルは腰が抜けてその場で座り込んだ。
魔力が自分に当たる直前、フウエルの風の矢が彼女を間一髪で助け出した。
ライルは過呼吸になった。
もう二度と立ち上がることすら出来ないんじゃないかとさえ思った。
そして震えと過呼吸が止まらない彼女が恐る恐る小夜子を見ると予想に反して彼女は倒れ込んでいた。
そして後ろにいた異獣は頭と首に2本と1本、風の矢がめり込んでいた。
「お、俺たちじゃ敵わない。レベルが違いすぎる」
フウエルの息も切れていた。
心臓の音がうるさかった。
ライルは少しずつ呼吸を整え始めた。
咳き込みながらライルも首を縦に振り同意した。
「あんなの人間じゃない!」
「視察は済んだ。退却しよう──また催眠するやつが現れて動かされたらまずい」
フウエルはライルの手を引っ張り立たせた。
「わたし……私!あんなのと戦えないわよ!絶対無理!超無理!」
「俺だって無理だよ。だから考えるんだ。
そう言ってフウエルとライルは学校を後にした。
第五階級の硝子の魔術師より世界へ 左右ヨシハル @Yoshiharu__Sayuu
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