梔子の実が開くとき
エピローグ 梔子の実が開くとき
【作者から一言】
エピローグです。
エピローグを読まない方がきっと幸せだと思います。
一応、ラストシーンの構想は最初からありました。
しかし、センシティブな内容なので、最後までラストシーンをどうするか悩みました。悩んで悩んで、やっぱり書くことにしました。
しかし、袋とじ的な扱いとしたいと思います。
あったかもしれないもう一つの結末、そのようにとらえてくださるとうれしいです。
読むか、読まないかは読者の皆様にお任せいたします。
ここまでお付き合いいただき、本当にありがとうございました!
本作、カクヨムコン8の長編ホラー部門に参戦中です。
本作、気に入っていただけましたら♡やお星さま、コメントなどいただけると大変励みになります。(レビュなどいただいた際には泣いて喜びます)
それでは、皆様またどこかでお会いしましょう。
勇気のある方のみ、スクロールしてエピローグをお読みくださいね。
【エピローグ 梔子の実が開くとき】
姉に拘束を解いてもらい、その縄で今度は倒れて意識を失っている槙島を縛りあげる。
槙島を縛りあげた後立ち上がるが、長い時間縛り付けられた状態で放置されていたからか、体中の筋肉が強張りうまく立つことが出来ない。
そんな私を見かねて姉が肩を貸してくれた。
ざっと広間を見渡す。小学校の体育館ほどの広さがあった。ホールの天井付近には明かり取の窓がみえ、その向こうには植物の影らしいものが見えた。
どうやらこの空間の大部分は自体は地下に存在しているらしく、明かり取の窓、つまり天上付近が地上に出ているといった作りになっているらしい。何とかあの窓まで登ることが出来れば地上に出ることは出来るがしかし、それは無謀というものだ。
「出口はどっちかな」と姉に声をかける。
姉は、目を丸くしていた。何を驚いているのかと不思議に思い声をかけた。
「お姉ちゃん?」
姉の腕がゆっくりと自分の下腹部に伸びる。姉は血相を変え、そして唇を震わせ始めた。
明らかに尋常ではない様子だった。
「どうしたの⁉ ねえ!」
「……瑠璃、どうしよう。破水したかも」
咄嗟に姉の足元に目を落とすと、さっきまではなかった水たまりが出来ていた。
大きく膨らんだ姉のお腹も心なしか萎んでいるように見えた。いや、気のせいではない。確実に萎んでいる。
私はパニックになる。
「ど、どうしたら……」
姉は覚悟を決めたような顔をする。
「ここで産むわ」
「うそでしょ?」
「もう、時間ない。瑠璃、お願い手伝って」
私はいったい何ができるだろうかと思うが、頷くしかない。
とにかく助けが必要だ。
スマートフォンを確認すると、ギリギリ電話は繋がりそうだ。急いで警察に電話し、事件に巻き込まれて誘拐されたこと。その場で姉が産気づいたことを伝えた。
警察ははじめ状況が良く理解できていない様子だったが、私のあまりの慌てようにただならぬ雰囲気を感じ、ドクターヘリと警官隊を送ることを約束してくれた。
しかし、医者の到着を待つ時間はなかった。間もなく、陣痛が始まり、姉は苦しそうな唸り声を上げる。
私はそんな姉の手をただ握ることしかできなかった。
姉は額に大粒の汗をかきながら、必死に陣痛の痛みに耐えている。
「ねえ、瑠璃。私ね、夢を見たの」
姉がうなされているかのように、息も絶え絶えといった様子で声を出す。
「たぶんお腹の子の声だよ。なんかね、『
私の脳内にあの時の化け物の声がこだまする。
――ハハサマ
全身の血の気が引いていく。
いや、そんなはずはない。だって、クチナシ様なんてものは最初からいなかったのだ。その存在を信じた私の脳が作り出した幻影だ。
陣痛が再び強まったのか、姉の呼吸が荒くなり私の手を痛いほど強く握る。
姉のお腹はどんどん萎んでいき、ついにはその皮の向こうに赤ちゃんの姿がぼんやりと浮き出ていた。お腹の皮が大きく脈打ち、その痛みに姉は大きく息を飲んだ。
それはほんの一瞬のことだった。赤ちゃんには複数の腕が付いているように見えた。
「うそ……だって……」
これは幻覚だ。
クチナシ様などいる訳がない。
頭の中であの女の声が響く。
――ほら、感じてください。これが貴方様と私の狂気が生み出した、結果です。あれは、私達の子供と言ってもいいでしょうね。
敷島桜は本気で恐怖していた。その恐怖はあの女に向けられたものではなかったとしたら?
あの男は、必死で扉を押さえていた。そしてその扉の向こう側では、多くの人間の悲鳴が聞こえていたじゃないか。あの者たちはいったい何を恐れていたのだ?
本当にこの島にはクチナシ様という化け物がいるのだとしたら?
そして、今でも誰かの
姉の胎の中から、微かにしかし確かに音が聞こえた。
――かちり、かち、かち、かち、かち、かち、かち、かち、かち、かち、かち、かち、かち、かち、かち、かち、かち、かち、かち、かち、かち、かち、かち、かち、かち、かち、かち、かち、かち、かち、かち、かち、かち、かち、かち、かち、かち、かち、かち、かち、かち、かち、かち……かちり
産まれてこようとしているのだ。
私の左手が近くに落ちてあった懐中電灯に伸びる。その懐中電灯には槙島の血がべっとりと付着している。
持ち上げるとずっしりとした重量を感じることができた。これだけ重ければ女の私でも問題ないだろう。
私は、懐中電灯を振り上げた。
【完結済】梔子の実が開くとき 肉級 @nikukyunoaida
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