4.新たな人生
夏休みが開け、2学期になった。
新学期初日に涼佳が東京に帰ったことを担任から告げられたときは、流石にクラスがざわついたものの、気がつけば最初からいなかったかのように日常が戻りつつあった。
空也も同様で、学校が終わると真っ直ぐ帰宅し、机に向かう。その繰り返しだ。
真実とはあの日以来顔を合わせづらくなり、それこそ昔に戻ってしまったかのようだった。おばあちゃんは治療を続けているが、一度見舞いに行ったきりだ。
涼佳がやってきてから、振り返ってみると現実感のない毎日で、それこそ夢のようだったが、空也の胸には夢にしてはハッキリとした喪失感が残っていた。しかしどうしようもなかったと言い聞かせ、喪失感を見なかったことにする。
その日も1人登校した空也は自分の席に着くと、教室内を見渡す。見知ったクラスメイトたちが、いつものメンツで集まっている。ずっとこの日常が季節が変わっても続いていそうな気がする、すっかり見慣れてしまった光景。
そうこうしているうちに、士郎が登校してきた。
お互い挨拶を交わし、席に着くと士郎が雑談を振ってくる。
新学期直後、士郎からは涼佳に何があったかを聞かれたが、知らないと答えていた。
士郎の話を聞きながらも、気がつけば涼佳のことを考え始めてしまう。
好きになった女の子のことを自分は何も知らない。なぜこの田舎に引っ越してきたのか。黒タイツをいつでも履いてたのはなぜなのか。自分のことをどう思っていたのか。聞きたいことがいっぱいあったのに消えてしまった。
もう少しやりようがあったのではないか。そう思うと、自分の無力さに表情が険しくなっていく。
「……也。おい、聞いてるか?」
いつの間にか士郎の話をそっちのけで考え事に夢中になってしまい、士郎に肩を叩かれて我に返った。
「……すまん。ボーッとしてた」
「どうした。まだ夏休みボケか? それとも」
「いや、夏休みボケだ」
士郎が何を言おうとしていたか分かっただけに、それ以上は聞きたくなかった。
「そうか。まあ早めに治しとけ」
「ああ」
そこで担任の真野が入ってきて、2人の会話は打ち切られた。
その日の夜。
空也は勉強を途中で切り上げると、椅子から立ち上がった。はっきりと測ったわけではないが、以前より集中力が半分も続かなくなっているような気がする。
ベッドの上に置いてあったスマートフォンを手に取ると、涼佳の連絡先を表示させる。
涼佳からは連絡はなく、空也からも連絡はしていない。
もちろん、しようと思えばいつでもできる。だが、メッセージはあくまで文字という情報のやり取りで、通話にしても音声データのやり取りでしかない。人間関係を変化させるには直接顔を合わせ、感情のやり取りが必要だ。だから、いくらこの機器を利用してやり取りをしても、意味があるとは思えなかった。
もう涼佳のことは忘れてしまった方がいいのではないだろうか。そう思い、本棚から黒須タイ子の写真集を取り出し、久しぶりに読むことにした。
今読んでも素晴らしい写真集だと思う。しかし、以前のように体の芯から震えるような感動を抱くことはなく、その理由もわかっている。『もっと素晴らしいもの』を知ってしまったから。それだけだ。
そもそも以前より、黒タイツに対して情熱を抱けなくなってしまっていた。来栖涼佳というもっと夢中になれる存在を知ってしまったから。
涼佳に会いたい。そう思うものの、涼佳は東京だ。田舎に住む高校生の空也にとっては、別の国と言っても過言ではない距離だった。
金曜日最後の授業前の休み時間。空也はぼんやりと窓から景色を眺めていた。家、山、田んぼばかりの代わり映えしない、刺激のない風景が広がっている。
もう金曜日だなんて時間の流れが最近加速したような気がするが、それもそのはず、登校して授業を受け、終わったら家で勉強をする。窓からの風景と同じような代わり映えのない日々を送っていればそう思ってしまうのも当然だ。
このままなんとなく勉強を続けて、なんとなく大学を受けてなんとなく進学するのだろうか。そんなことを考えていると、
「くーくん」
振り向くと、唯が後ろで手を組んで立っていた。
「どうした?」
「見てよほらー」
唯はスカートの端をつまみ、1cmほど持ち上げてみせた。
「何やってん……え?」
朝は生足だったはずなのに、いつのまにか黒タイツ(60デニール)を履いていたのだ。
陸上で鍛えられた肉感のある唯の脚と、比較的脚が透ける60デニールの組み合わせは健康的……を通り越して、ある意味下着よりも扇情的だ。
「どう……かな?」
悪くはない。空也以外の男子生徒ならば一瞬で陥落してしまうだろう。だが、空也は別だ。涼佳の脚と比べてしまうと、唯の脚を持ってしても『バランスが少し悪い』という採点をせざるを得ない上、そもそも以前より黒タイツに熱くなれない。
唯の意図は分かっていたが、涼佳のことを忘れられるどころか、むしろ辛くなってくる。
しかし唯は自分を励ますためにこうしているのだ。「ありがとな」と作り笑いを浮かべ、その場を収めた。
放課後。
空也は涼佳と写真撮影をした空き教室で外を眺めていた。
日照時間は少しずつ短くなり、相変わらず気温はまだ高いものの、肌から感じる夏より乾燥した空気は、今は夏なのではなく『気温が高いだけの秋』なのだと実感させてくれる。
ぼんやりと外を眺めているうちに、外から聞こえていた運動部の掛け声が聞こえなくなり、外が暗くなり始めていた。ずいぶんとこうしてしまっていたようだ。帰って勉強しなければ。
空き教室を後にし、外に出る。思ったより涼しい。
自転車置き場に向かうと、前輪のすぐ近くにセミの死骸が落ちていた。気温の低下と相まって、今年の夏は完全に終わったのだと改めて実感させられる。
死骸を踏まないように自転車を押して校門に向かうと、自転車のハンドルを握った状態で立っている女子生徒が視界に入った。
つい脚を先に見る癖があるため、黒タイツを履いていている脚を見て一瞬涼佳かと思ったものの、涼佳が履いていたのは80デニール。目の前にいる女子生徒は60デニールだ。
「くーくん」
立っていた女子生徒――唯は空也に微笑みかけた。
「部活はどうしたんだよ」
「もう終わったよ」
そういえばもう遅い時間だったのを忘れていた。2人自転車を押しながら坂を下り始める。
「どうしてまだ俺がいるって分かったんだ?」
「自転車置き場にまだ自転車があったから」
「確かにそうか」
空也と唯の2人で帰るのはずいぶん久しぶりで、高校生になってからは初めてだ。
無言で自転車を押しながら歩く。遅い時間ということもあり、周りに生徒の姿はない。
沈黙を破ったのは唯だった。
「ねえくーくん」
「ん?」
横を歩く唯に視線を向けると、唯は押していた自転車を手放し、空也に抱きつくと胸を押し付けてきた。
直後、ガシャンと自転車の倒れる不快な音が鳴る。だがそれどころではない空也の耳には入らなかった。
「……これでも、女の子として見られないかな?」
部活後だからだろう、制汗剤の香りが漂い、柔らかいものが背中に当たる。明らかに涼佳よりも大きい。今起きていることが理解できず、海老反り状態で固まってしまう。
言葉が見つからず、しばらくそうしていると、
「やっぱり諦められないよ」
空也の耳に向かって唯がささやく。
何を諦められないかは、言うまでもない。
「私が代わりになるから、もう一度チャンスをちょうだい?」
空也が黙っていると、さらにささやきかけてくる。
陸上部で鍛えているといっても男の空也と比べるとやはり華奢な体つき、そして体の柔らかさ。ここまでされて、唯を女の子として意識しないはずがなかった。
それでもやはり脳裏に涼佳が浮かぶ。しかし、もう涼佳は遠いところに行ってしまった。それであれば忘れるために唯の力を借りるのも手かもしれないし、それは唯が望んでいることだ。
だが、それでいいのだろうか。同意の上だとはいえ、それは唯に対してあまりにも不誠実だ。答えを出せずに空也が思い悩んでいると、
「時間切れ」
唯は空也から体を離し、倒れっぱなしになっていた自転車を起こした。
「唯」
起こした自転車に乗ろうとする唯に声をかける。かける言葉は見つからなかったが、このまま無言というわけにはいかない。
「じゃあね。くーくん」
唯は寂しそうな笑みとともに空也に手を振ると、坂を下っていった。
これでよかったのだろうか。唯の後ろ姿を見ながら思う。これでよかったのだと結論づけてしまうのも言い訳がましいし、他にやりようがあったのかと言われると他には何も思いつかない。ともかく今はただ、小さくなっていく唯を見送ることしかできなかった。
翌日唯は珍しく学校を休んだ。
「今日は日野休みなんだな」
1限目が始まる前。士郎が話しかけてきた。
「……そうだな」
顔を合わせずに済むという安堵と、唯に対する申し訳無さを抱きながら、空也が小さくうなずくと、士郎は空也を観察するようにじっと見た。
「なんだよ」
「放課後時間あるか?」
「あるけど部活はいいのかよ?」
「今日は顧問の先生がいないから休みだ」
「……そうか、まあいいだろう」
珍しいこともあるものだ、と思いながら士郎の誘いに乗ることにした。
放課後。
空也と士郎は、道路と道路の間に挟まれた公園にいた。公園には横切るように川が流れており、2人はその川岸に敷設された台形のブロックに腰を下ろす。
「それで、何の用だ?」
空也は川面を見つめながら横に座る士郎に問いかけた。
「来栖が転校した理由を本当は知っているんじゃないかと思ってな」
「…………知ってる」
あまり驚きはなかった。士郎は勘が鋭いので、気づかれていそうな気がしたからだ。
「やはりか。それで、付き合ってたのか?」
「……いや、付き合ってない」
「なるほどな。それを聞いて安心した」
士郎は口元に笑みを浮かべる。
「どういうことだ?」
発言の意図がつかめず、眉をひそめながら士郎を横目で見る。今までの士郎の発言を聞く限りでは、奥手すぎることに呆れることはあっても、安心するのは不自然だ。
「俺は前々から来栖を狙っていた」
「なんだと?」
衝撃の発言に一瞬心臓が止まりそうになったかと思うと、耳元で鼓動を刻んでいるのではないかと思うほどにうるさく動き始める。
「今度の連休に東京へ連れてってもらうから、その時に会って口説こうかなと思っている」
「ちょっと待てよ。お前は俺のことを応援してくれてたんじゃなかったのか?」
「誰がそんなことを言った。俺は『誰かに取られても俺は慰めてやらないぞ』としか言ってないが?」
「いやだけど」
「確かに来栖のことをお前に『申し分ない』とは言った。だが、お前に譲るとは一言も言っていない」
「……」
記憶を振り返ってみると確かにそうだ。涼佳のことをいい女の子だとは言っていたが、応援するとは一言も言っていない。涼佳だって1人の女の子だ。士郎のようなイケメンに口説かれたら、落とされてしまっても不思議ではないし、もしそうなってしまったら、士郎に勝てる要素がない自分ではもうどうしようもないだろう。
頭の中がぐちゃぐちゃで、体に力が入らない。
「話は以上だ」
士郎が立ち上がり、その場を後にしようと歩き始める。
このままでいいのだろうか。また好きになった女の子を諦めて、自分に言い訳をしながら毎日を送るのだろうか。
「待て!」
いいはずがない。すかさず立ち上がり、大声で士郎を呼び止める。
「何だ?」
「来栖は……渡さない」
胸を張り、士郎を睨みつける。
「……それならば勝負をしよう。そうだな、この公園はランニングコースになっている。先に走れなくなった方が負けというのはどうだ?」
確かにこの公園は一周500メートルほどのランニングコースになっており、空也が中学生の頃に体育の授業で走ったこともあった。ただ、剣道部の士郎に対して空也は帰宅部。体力的にはどう考えても不利だ。
だが、やるしかない。
「やってやるよ!」
こうして空也VS士郎の涼佳を賭けた戦いが始まった。
勝負が始まってから40分が経過していた。
9月といっても気温はまだ高く、空也だけでなく士郎も全身汗でびっしょりだ。
しかし日頃防具をつけていて暑さに慣れている士郎はまだ余裕そうで、すでに空也を2度追い抜いている。
対して空也は限界に達しようとしていた。心臓はもう限界だと言わんばかりに激しく鼓動を刻み、肺は今すぐ立ち止まって新鮮な酸素を取り入れるようにと、地獄のような息苦しさを空也に感じさせている。体に徐々に力が入らなくなり、何度も倒れ込みそうになったものの、地面を懸命に蹴飛ばし、走り続ける。
そうしているうちに、後ろからやってきた士郎が空也を追い抜いた。振り返って空也に見下したような笑みを向けるほどの余裕がまだあるようだ。
体のあちこちが立ち止まって楽になれというサインを発しているが、その誘いを拒否し走り続ける。しかし、人間の体というのは真の限界を迎えると、本人の意志とは関係なく動きを止めてしまう。
「ぶぐっ……」
空也は崩れるようにへたり込み、胃の中身をすべて吐き出した。
体は酸素を求めているのに、ゲロ臭くて深呼吸すると二次災害が起こってしまいそうで、大きく息を吸うことができない。間違いなく人生で一番苦しい瞬間だと胸を張って言える状態だ。
それより今は立ち上がらなければ、そう思ったものの、体が動かない。涼佳が……士郎のものになってしまう。
「俺の勝ちのようだな」
空也が止まったのに気づいたのだろう。戻ってきた士郎が呼吸を整えながら空也を見下ろす。
「くっ……」
力を振り絞って士郎を睨みつけるが、ゲロの水たまりの前でそんなことをしてもまるで格好がつかない。
士郎はそんな空也を『相手する価値もなし』のような態度でどこかへ歩いていく。
「ま……待てよ!」
しかし士郎は止まらない。そして姿が見えなくなったかと思いきや、再び戻ってきた。500mlミネラルウォーターを両手に持って。
「飲め」
士郎は空也の前でかがむと、そのうち1本を空也に差し出した。表面には水滴がついており、冷え切っていることが見て取れる。
士郎から施しは受けたくなかった。しかし全身が水を求めている状況でそんな事ができるはずがなく、ミネラルウォーターを士郎の手から奪い取ると、一気に煽る。
まさに『生き返る』という表現がふさわしい感覚だった。冷たい水が食道を通り抜けていく感覚が、体が震えるほどに気持ちいい。
「プハァツ……」
一気に1本丸々飲み干すと頭も回り始め、そこで改めて負けてしまったことへの実感が湧き始める。冷静になって考えてみればあまりにも不利な勝負だったのに、涼佳を取られたくないという思いから、バカなことをしてしまった。悔しくて、涙が溢れてくる。
「……そこまでできるのに、どうして諦めるんだ?」
「士郎?」
顔を上げると、いつもは涼しい表情を崩さない士郎の顔には怒りが滲んでいた。
「ゲロを吐くまで走るなんて、よほど来栖のことを思ってなければできないはずだ。東京に行ってしまったくらいで諦めるな!」
やっとここで空也は理解した。士郎は空也を鼓舞するため、一芝居を打ったのだ。
「フ、フン」
空也は鼻で笑うと、よろめきながらもなんとか立ち上がる。
「俺としたことが、どうやら弱気になってしまっていたようだ」
脚がふらつくが、胸を張り、無理やり余裕があるような表情を作ってみせる。
「どうやら立ち直れたようだな」
「ああ」
士郎が空也に手を差し出し、迷わずその手を取ると、
「そもそも俺にはすでに彼女がいる」
「……は?」
「同じクラスの勝部香だ」
「ウソ……だろ?」
勝部は太り気味で、正直のところおせじにも可愛いとは言えない女子だ。勝部の名前を出され、またからかわれているのではないかと思ってしまう。
「本当だ。むしろ俺からすれば、来栖より香のような女の子の方が何倍も魅力的だ」
当たり前のように『香』と名前呼びするあたり、どうやら本当なようだ。
「マジかよ……」
士郎に感謝の意を抱きつつも、意外な一面には驚かずにはいられなかった。
真実に誘われ、久しぶりに空也はおばあちゃんのお見舞いに来ていた。
ガンが見つかってまださほど経っていないにも関わらず、以前より顔つきは弱々しい。
「涼ちゃんに会いたいわねえ……」
ベッドで横になったまま、目だけを外に向ける。
「またすぐ会えるよ」と声をかけるが、おばあちゃんがこの状態でいるうちは難しそうだし、涼佳の父親の話しぶりを聞く限りでは戻ってくることは無さそうで、罪悪感を抱かずにはいられなかった。
病院を後にし、空也は真実とおばあちゃんの家でお茶を飲んでいた。
一気に2人もいなくなってしまった家は静かで、この広い家に自分と真実の2人だと思うと、見知ったこの家でも安心感を抱く前に寂しさを感じてしまう。
「……くーくんは悪くないからね?」
両手で持ったグラスをちゃぶ台の上に乗せ、中を見つめながら真実が言う。
脈絡のない発言だったが、涼佳の父親が来たときのことだとすぐに分かった。
「……ああ」
今でも涼佳の父親の正論を打ち負かせる気はしないし、言っていることは田舎者の1人として正しいと思う。しかし、それはそれとして、何も言えずに涼佳を見送ってしまったことには今も後悔が残っている。
士郎のおかげで立ち直ることはできたが、物理的な距離、そして涼佳の父親という大きな障害を解消する目処は未だ立っていない。
「……ねえ、久しぶりに膝枕してあげようか?」
「え?」
「くーくん元気がないみたいだから、膝枕したら元気が出るかなって思って」
その一言にかつての思い出が蘇る。昔はよく真実に膝枕をしてもらっていた。
真実も寒い時期は黒タイツを履いており、幼い時期に『あの感覚』を知ってしまったことから、真実との関係が悪化した後も黒タイツフェチという性癖が残り続けていたのだ。
そんな空也にとって特別な存在の真実からの申し出。黒タイツを履いてはいないとはいえ、心が揺らいでしまう。
「ほら、おいで」
真実は二度自分の太ももを叩き、空也を促す。
「……」
無言で立ち上がり真実の横に跪く。あとは横になるだけだ。
だが、できなかった。ここで甘えてしまったら、涼佳に顔向けができない。
「くっ、黒タイツじゃないからいい!」
裏返った声で答え、そそくさと元の場所に座る。
「確かに、涼ちゃんは必ず黒タイツ履いてたもんねー」
真実は事情を察したような笑みを浮かべたかと思うと、その表情は真剣なものに変わった。
「だけど、このままでいいの? 涼ちゃんは美人なんだから、すぐに向こうで彼氏作ってくーくんのことなんて忘れちゃうよ?」
違いない。涼佳のような女の子を東京の男が放っておくはずがない。認めたくないが、認めるしかない。
「ダメだよ。くーくんの気持ちに応えられなかった私が言うのもなんだけど、このままだとくーくんは絶対に後悔する。いいの? もう子供じゃないんでしょ?」
真実に言われるまでもない。ここで何もしなかったら、真実のときよりも更に大きな後悔を抱えていくことになる。そんなのごめんだ。
「おね……真実さん」
頭を起こし、真実の目をまっすぐに見ると、
「……俺、東京に行きます。なんとかして返すので、お金を貸してください」
深々と頭を下げる。こういうときは言葉遣いにも気をつけた方がいいので敬語だ。
間を置いて、「行ってきなさい。私結構お金あるから」という声が頭上から聞こえてきた。
「ありがとうございます」と再び頭を下げると、ふと、前にも思ったことが気になり始めた。頭を上げ、
「そういえば、どこでそんなにお金を稼いでたんですか?」
「うーん、それはね……」
真実は言いづらそうに髪の毛をいじる。
「まさか……」
「あっ、違うよ! そういういやらしいのじゃなくて、もうやめちゃったんだけど、一部の人が好きそうな写真をネットで売ってたっていうか……その、くーくんも好きなやつ」
「好きなやつ?」
「ヒントは……涼ちゃん」
その一言ですぐに分かってしまったと同時に、何か繋がったような気がした。
「黒須……タイ子」
まさかとは思いつつも独り言のようにつぶやくと、真実が慌てた様子で近寄ってきた。
「何で知ってるの!?」
「い、いや、俺も買ってたから」
真実の勢いに気圧されながら答えると、
「ふ~ん……くーくんも買ってたんだ」
真実は余裕を取り戻したようで、目を細めてニタニタと笑う。
「いいだろ別に! そういういやらしいものじゃないんだろ?」
「もちろん。なんだか嬉しいなって思って」
「嬉しいって……まあ、そういうことだよ」
なんだか恥ずかしくなってきたので真実から視線をそらす。
もう子供じゃないと思わせられるような機会を作れたと思ったのに、結局こうやってからかわれてしまう。勝てねえな。そう思ってしまうのだった。
涼佳は駅の改札を通り抜けると、家に向かって歩き始めた。
改札からはICカードをタッチした時の電子音が、ほぼ定期的なリズムで鳴り続けている。
涼佳とは違う高校の制服を着た女子生徒3人組を追い抜き、黙って家に向かって進む。後ろからはじゃれ合っているのか、騒ぎ声が聞こえてくる。
教室である程度話せる同級生はいるが、涼佳には彼女たちのような友人はいない。1人で登校し、1人でお昼を食べ、学校帰りにお店に寄ることもあるが、家に帰ったら机に向かう。
涼佳の家がある辺りは住宅地だが、ビルが上空の一点に向かって空を隠すように伸びている。空は狭く、数十メートル歩くごとにコンビニやチェーン店が視界に入った。
空也が住む田舎に比べて遥かに便利で、生まれ育った街だけあってやはり安心感がある。だが、歩いていると田舎に慣れてしまったせいだろうか、情報量の多さに頭が疲れてくる。
田舎に住んでみて、自分の生まれた家は相当恵まれていたことがわかった。父親のお下がりとはいえ、高校生にバイクをくれるなんてある程度上の家庭だけだろう。東京の同じクラスの子たちもそんな感じだから気づかなかった。
別に扱いが悪いわけではないが、両親の興味は弟に移っているのが肌で分かる。とは言ったものの、陸上を続けられなくなってしまった姉より、これからが有望な弟に手をかけたくなってしまうのも分かる。
しかし、こうやって東京で不自由のない生活をさせてもらっていても、物だけでは心は満たされない。そんなふうに思ってしまう。
別に田舎の人は心が暖かくて、都会の人は冷たいなんてステレオタイプなことを言いたいわけではない。ただ、真実やおばあちゃんは本当の家族より家族に思えたし、深く付き合える友人もできた。
またおばあちゃんのご飯が食べたい。そして、便宜上『友人』としたが、やっぱり別の存在な気がするよく分からない人、空也に会いたい。ふとした瞬間にそんなことを考えてしまうのだった。
羽田空港に降り立った空也は到着ロビーを出ると、出発前に入れた乗換案内アプリを起動した。涼佳の家の最寄り駅は真実から聞いていたので、羽田空港からのルートを調べる。どうやら乗り換え2回で行けるようで、まずは空港から出ているモノレールに乗るらしい。
それにしても、空港内があまりにも広くて不安になってくる。地図上ではちっぽけな東京都にこんな広い空港があるなんて、なんだか信じられない。
それはともかく、今は涼佳の家へ向かわなければ。この方向で合っているのかと不安になりながらもなんとか乗り場を見つけると、切符を購入して恐る恐る自動改札機へ切符を入れ、通り抜ける。
ホームへ向かうと、ちょうどやってきたモノレールのドアの前に立つ。
ドアが開き、中にいた乗客たちが空也を邪魔そうに避けながら降りていく。そういえば、電車に乗るときはドアの横に立つのがマナーだった。田舎者だと思われただろうな。顔が熱くなるのを感じながら乗り込み、席に座るとため息をつく。
最初のミッションはクリアしたものの、あと2回も乗り換えが残っている。無事涼佳の家にたどり着けるのだろうか。不安で仕方がなかった。
反対方向に乗ってしまうというトラブルがあったものの、空也は20分遅れてようやく涼佳の家の最寄り駅に到着した。慣れないことの連続で、すでに頭が疲れ始めている。
駅から歩くこと15分。涼佳の家があるマンション前にたどり着いた。1階はエントランスになっており、入居者か管理室の許可がなければそこから先に進むことはできない。
スマートフォンを取り出し、涼佳の連絡先を開く。あとは電話をかけるだけだ。
しかし、涼佳は会ってくれるのだろうか。あの時何も言ってくれなかった自分を恨んでいるのではないだろうか。
だがここまで来て涼佳に会わず帰るなんて考えられない。意を決し通話ボタンを押そうとしたところで、誰かがマンションから出てきた。
「げっ!」
出てきたのは涼佳の父親だった。慌ててとっさに目に入った隙間に隠れる。
危なかった。しばらく後ろ姿を見届けると、ため息をつきながら隙間から抜け出し、そのまま迷うこと無く通話ボタンを押した。3回、4回と呼び出し音が鳴り、
『……もしもし?』
久しぶりに聞いた涼佳の声に、一瞬息が止まりそうになる。
「ひっ、久しぶりだな」
『うん……どうしたの?』
声を聞く限り、困惑はしているが、怒っているわけでは無さそうだ。
「その、今来栖の家の前にいるんだけど」
『……え?』
10分後。涼佳がエントランスから現れた。薄手のパーカーにスカート、そしてやはり黒タイツというラフな格好だ。
ずっと会いたかった涼佳が、今目の前にいる。言いたいことや聞きたいことがあった……はずなのに、なぜだか言葉が出てこない。
そうこうしているうちに涼佳は足早に空也の前に歩み寄ってくると、
「……なんでお父さんに言い返してくれなかったの?」
氷のような冷たい目で空也を睨みつけた。
涼佳がそのような態度を取るのも無理もない。だが、電話越しの声を聞く限りでは開口一番にそんな事を言われるとは予想外で、「それは……」とその場しのぎの言葉しか出てこない。
「私、あの時助けを求めて須藤くんを見たよね」
「……すまない」
今までとは違う意味で涼佳の視線に耐えきれず、視線を落とす。
「申し訳ないって思ってたのに、どうしてこんなに私を放っておいたの?」
「その、やっぱり、電話やメッセージじゃなくて、直接会わなきゃダメだと思ったんだ。だから、遅くなってすまない」
「直接会うからそれまでは放っておいてよかったんだ?」
それを言われると、やはり自己満足だったかもしれない。しかし、電話にしろメッセージを送るにしろ、何を話せば、送ればいいのか今でも思いつかない。だが、言われてみればずっとほったらかしにされていて、ある日急にやってこられたら怒りたくなるのも当然だ。
「怒るのも当然だ。だけど、本当はもっと早く来たかったんだ。だから、遅くなってすまない」
勢いよく涼佳に頭を下げてからふと気づく。全く謝罪になってないどころか、ただの言い訳ではないだろうか。
やはり、あのとき何か言うべきだった。きっと徹底的に論破されただろうが、怖がって何も言えずに固まってるよりは何倍もマシだ。これでは、士郎や真実に合わせる顔がない。
次の瞬間、空也は頭上から聞こえてきた声に耳を疑った。それは涼佳の笑い声だった。
「ふっ、ふふ……須藤くんチョロすぎ……ふっふっ……フフ……!」
なぜ笑っているのだろう。困惑しながら顔を上げた空也の目に映ったのは、軽く握った拳を口に当て、体を震わせている涼佳だった。
「どういう……ことだよ?」
さっぱり訳が分からない。涼佳は何を笑っているのだろう。
「ふふ……だから、須藤くんをからかってたってこと。私、別に怒ってないよ」
涼佳は笑うのをやめると、上手くいったからだろう、すっきりしたような表情で空也を見る。
「なんだよ……驚かせるんじゃない」
思わずため息が出る。何かおかしいと思ったら、涼佳に一芝居打たれていたようだ。心臓に悪いったらありゃしない。
「まあ、あのときのお父さん怖かったからね。何も言えないのもムリないよ。……だけど、ちょっと悲しかったのは本当」
「……すまん」
「だけど、来てくれて嬉しかったから……これで差し引きゼロかな」
そう言って微笑む涼佳の笑みは初夏の太陽のようにまぶしくて、直視できなかった。
それにしても、真実といい、涼佳といい、女性にからかわれてばかりだ。そんなことを思いながら遠くの方を見ていると、見覚えのある人物がこちらに向かって歩いてくることに気づいた。涼佳の父親だ。
「まずい! 来栖のお父さんがこっち来てる!」
「え!?」
「こ、ここは一旦解散だ。ま、また後で!」
そう言い残すと空也は駆け足でその場を後にした。
1時間後。空也は涼佳と東京の街を歩きながら、不思議な感覚を抱いていた。
今2人が歩いているのは新宿だ。何度もテレビやインターネット上で目にしたことがある場所で、そこは実在するのだと頭では分かっていても、飛行機に乗っている間に画面の中の世界に入り込んでしまったのではないか、などという突拍子のないことを思ってしまう。
歩きながらあちこちを見渡していると、
「初めて東京に来た感想はどう?」
隣を歩いていた涼佳が話しかけてきた。
「……画面の中の世界に来たみたいだ」
今の涼佳はチェックブラウスにスカートという格好で、毛先にはウェーブがかかっており、薄くだがメイクもしている。そんな雰囲気の違う涼佳を直視できず、一瞬だけ見て視線を外す。
新宿は人が多く、道を行く女の子たちは皆レベルが高かったが、涼佳は彼女らに勝るとも劣らないどころか、すれ違う人たちが振り返って二度見するほどだった。
「そんなふうに思うんだ。なんか、そういうのっていいね」
そう言うと、涼佳は表情をほころばせる。
「そうか?」
「うん。私にはない視点だから」
その一言で涼佳が田舎にいた頃のことを思い出す。自分にとっては何の変哲もない場所でも、涼佳は新鮮そうに目を輝かせていた。自分の立場に置き換えると、なんだか分かる気がする。
「そういえば、須藤くんはどこか行きたい所ある?」
「そうだな……」
いつか東京に行ったら、と考えていた場所はいくつかあった。だが、今行くべき場所はそれらではない。
「それじゃ、あっちで俺がしたように、どこかおすすめの場所に連れて行ってくれ」
「うーん、急に言われても」
「ないってことはないだろ。まあ、お嬢様だから普段はこんな所来ないってなら話は別だが」
困ったように唸る涼佳に、勝ち誇ったようにニヤける空也。
「お嬢様じゃないから。じゃあ、あそこかな」
涼佳の後をついて15分ほど歩き、2人は公園にいた。
広さだけならば野球もやれそうな広さで、芝生を取り囲むように生えている木々が、周りの建物を視界に入らないようにしてくれる。しかし東京都庁舎は流石に隠すことができず、ここが副都心の一等地にあることを思い出させてくれる。
「なんというか、都心のオアシスって感じだな」
自然と2人は並んで空いているベンチに腰を下ろした。
林に囲まれているおかげか、少し前まで聞こえていた電車や車の音といった喧騒が軽減され、代わりに葉擦れの音が聞こえる。
「1人で考え事をしたくなったらここに来てたんだ。でも、いくら広いって言っても人が全くいないってことはないから、私はあの城跡の方が好きかな」
涼佳は寂しそうに遠くを見つめた。
「そういうものか」
空也的には悪くないとは思うのだが、正直なことを言うのも野暮な気がして曖昧に頷く。涼佳がそんな表情をしているのはいいことではないが、いざ東京に戻ったらやっぱりもう田舎は懲り懲りだ、と言い出さなかったことには一安心だ。
だが、ここで満足してはいけない。何のために東京に来たかを思い出し、続ける。
「そのさ……ずっと聞けなかったんだが、どうして田舎に来たんだ?」
「えっと、それは……」
涼佳は口ごもり、目を伏せた。
「いや、言いたくないなら言わなくて構わないが」
「ううん。……私ね、ずっと陸上をやってたの。それで、自慢じゃないんだけど都大会でも優勝するくらいで」
「マジか」
真実との会話で陸上をやっていたというのを耳にしていたが、そこまでとは予想外だった。
涼佳の言葉を聞きながら、涼佳の脚を見る。確かに、この脚があれば全国大会も夢ではないかもしれない。涼佳の脚に感じていた魅力は、もしかしたら機能美だったのかもしれないと、今頃になって思う。
「でも、最初は陸上そんなに好きじゃなかったんだよね。だけど、結果を出せばお父さんもお母さんもみんな褒めてくれた。それが嬉しくて続けていたんだけど、いつしか私が結果を出すのは当然のことのようになって、誰も褒めてくれなくなった。そのとき気づいたんだよね。私は結果を出して褒められるのが好きで、陸上自体は好きじゃなかったんだって」
涼佳は寂しそうに目を細め、遠くで追いかけっこをしている親子を見る。
「それで虚しくなってやめちゃったのか?」
「ううん。去年ケガをしたのが原因かな。ケガ自体は大したことはなかったんだけど、やっぱりブランクができちゃうでしょ?」
「ああ……」
3日休むとブランクを取り戻すのに1週間はかかると聞く。高校生という長いようで短い期間では、たとえ1ヶ月でも大きな痛手になってしまうことは想像に難くない。
「ケガをしたことで陸上をやめることはできて、これで重荷が降りた。そう思ってたんだけど、いつの間に陸上は私の人生の一部になってしまっていて、これから何をしたらいいのかもわからなくなっちゃったし、私は傷跡が残って生足で歩くことはできなくなっちゃった」
涼佳は視線を落とすと、自分の太ももをに指を立てた。
「……すまなかった」
まさかそんな事情で涼佳がいつも黒タイツを履いているとは思わなかったとはいえ、今まで自分がしてきたことを思うと、罪悪感から頭を下げずにはいられなかった。
「どうして謝るの?」
「え……?」
予想外の言葉に頭を上げると、
「私は、須藤くんに感謝してるんだよ?」
「どういうことだ?」
さらにさっぱり分からない。
「須藤くんはどうして私が転校してきたと思う?」
「……療養?」
「正解」
今の話を聞く限りはそれくらいしか思いつかなかったが、どうやら正解だったようだ。
「……お母さんはそう言ってたけど、多分私より優秀な弟に手をかけたいからおばあちゃんに私を押し付けたんだと思う。だから、私なんて誰からも必要とされないんだなって思ってたら……須藤くんは私のことを必要としてくれた」
「いや、必要って言っても……」
「そうだよね。私の『脚』が好きなんだもんね? だけど、それでも私を必要としてくれたのが嬉しかった。それに、私今まで陸上漬けであんまり男の子と関わることがなかったから、『ちょうど良かった』っていうのもあるかな」
涼佳は白い歯を見せ、空也の顔を覗き込むように笑う。
ちょうど良かった。決していい言葉ではなく、自分本位にも聞こえる発言だったが、涼佳が心を許してくれたような、そんな気がして嬉しかった。
しかし、1つ訂正しなければならないことがある。
「……好きなのは脚だけじゃない。その…………来栖自身も好きだから」
本当はもっといい雰囲気で言うつもりだった。だけど、今は脚だけではなく涼佳の全部が好きなのだと訂正せずにはいられなかった。
「えっ……?」
目を丸くした涼佳に聞き返されると、時間差で顔が熱くなってくる。涼佳から顔を背け、
「いっ、いや、あの、アアアアレだからな。人間としてじゃなくて……そ、その、そういうことだ!」
もっとカッコよく言うつもりだったのに、そんな余裕はないし、息苦しいし、涼佳の顔を見ることも出来ないし、カッコ悪いったらありゃしない。
「須藤くん」
後ろから涼佳の声が聞こえ、一瞬体がこわばる。どちらなのだろう。涼佳の声を頭の中で反芻すればするほど、答えは『ノー』な気がしてくる。怖い。怖い怖い。怖い怖い怖い。
しかし、いつまでもこうしているわけにはいかない。錆びついた機械のように、恐る恐る涼佳に体を向ける。
視界に入ったのは、口元に穏やかな笑みを浮かべる涼佳だった。
「ありがとう」
そう言うと手のひらを上に向け、空也に手を差し出してきた。
無意識のうちにその手を取ってしまい、そこで気づく。
「こ、これって……そういうことでいいんだよな?」
「須藤くん」
「は、はい」
急に真顔になった涼佳に、つい丁寧な返事をしてしまう。
「須藤くんの態度次第ではキャンセルかな?」
「……好きです。俺の彼女になってください」
「それなら、合格かな」
そう言って少し照れながら浮かべた涼佳の笑みは、まるで高原に広がる花畑のようだった。
新たな関係になった空也と涼佳は都内を散策したあと、空港へ向かう電車に乗った。
並んで座る2人は、どちらからともなく手を繋ぐ。
涼佳とこうしていられるのも残りわずかなのだと思うと、自然と握る力を強めてしまい、涼佳も同じ気持ちなのか握り返してきた。
空港までは1時間もかからない。今ばかりは東京の便利さが恨めしい。
帰りたくない。涼佳と別れたくない。やっと思いを伝えられたのに。しかし空也は自分の田舎へ帰らなければならず、涼佳が住むのはこの東京なのだ。
「同じ日本に住んでいるんだから、また長い休みにでも来ればいい」
しかし、だからといって暗いままでいる理由にはならない。意識して元気のある声で涼佳を励ます。
「うん……。でも、しばらくはお父さん許してくれないかも。せっかく須藤くんとこうなれたのに」
涼佳は弱々しい声で答えると、視線を床に落とす。
「だ、大丈夫だ! またお金を貯めて会いに行く!」
「確かに、それなら須藤くんには会えるけど、おばあちゃんには会えないから……」
「あっ……」
確かにおばあちゃんの容体は今後どうなるか分からない。この前お見舞いに行ったのが最後だなんて悲しすぎるが、東京におばあちゃんを連れて行くことも出来ない。何か、涼佳を励ますことができるいい方法がないものか。考えを巡らせていると、涼佳が顔を上げた。
「……決めた。私も須藤くんと一緒に行く」
「え? いや、だけど」
涼佳の意思は尊重したい。だが、迷うこと無く「よし行こう」とは流石に言えなかった。
「大丈夫。須藤くんには迷惑をかけないから」
先程とは打って変わって、強い意思を感じる目で空也を見る。そこまで言われては、涼佳を止める気にはなれない。
「……分かった。だけど」
しかし、2人には1つ問題があった。
「俺、そんなに金を持ってない」
多少真実からお金を借りてきたとは言え、もうひとり分航空券を買うほどの余裕はない。
「大丈夫。私お金あるから」
そう言って涼佳は財布をカバンから取り出すと、中身を空也に見せる。これだけあればなんとか足りそうだ。
「流石、いい家のお嬢様はお小遣いも桁違いだな」
「言っておくけど、1ヶ月でこんなにもらってるわけじゃないからね。それに、お嬢様じゃなくて『普通』の家だよ?」
「普通……ね」
「うん。普通だよ」
2人は顔を見合わせ、笑い始めた。
到着ロビーに涼佳とともに現れた空也を、真実は驚きの声とともに出迎えた。
「え……? 涼ちゃん?」
「一泊だけ許可をもらえたんです」
東京で示し合わせたとおりに、涼佳はまるで不自然さを感じさせない態度で答える。
そんな2人を空也は無言で横目で見る。真実ならば信用してくれるという自信があったものの、100%ではない。
「一泊くらいならまあ、許してもらえるか……。車こっちに停めてるから」
真実はどこか腑に落ちない様子だったが、駐車場に向かって歩き始め、2人は後に続く。
空也と涼佳は後部座席に乗り込み、涼佳はカバンからスマートフォンを取り出すと、機内モードを解除した。次の瞬間、画面上には一気に大量の不在着信の履歴が表示された。すべて父親からだ。
「……!」
即座に涼佳は再び機内モードに戻す。
すると今度は運転席に座っていた真実のスマートフォンが鳴り始めた。
「あれ、涼ちゃんのお父さん? もしもし?」
その一言に、空也と涼佳は凍りつく。
「はい。一緒にいますが……え? はい……はい」
真実の表情が徐々に険しくなっていく。2分も経たずに真実は電話を切り、後部座席に体を向けると、「くーくん、どういうことなの?」と空也を問いただした。
「違うんです。私が無理を言って」
涼佳がすかさず横から割り込むが、
「涼ちゃんのお父さん、場合によっては警察沙汰にするかもって。明日こっちに来るらしいから2人で謝って」
「警察……」
涼佳の顔が青ざめていく。
こうなることは分かっていた。しかしいざ『警察』の二文字を出されると、恐怖で背筋が凍りついたかのように寒くなってくる。
だが、なんとか父親を説き伏せる以外、選択肢はない。覚悟を決めた空也は小さく頷いた。
翌日。今度は空也が到着ロビーから出迎える番だった。空也、涼佳、真実の3人で涼佳の父親の到着を待つ。
到着ロビーから涼佳の父親が出てきた瞬間、空也は体が縮み上がるのを感じた。だが拳を握りしめ、視線をそらすことなくじっと見据える。
対して涼佳の父親は空也は眼中にないかのように真っ直ぐに涼佳のもとへ歩いていくと、涼佳の頬を引っ叩いた。
周りの客は2人に一瞬目線を向けたものの、すぐに視線をそらし、気まずそうに早足で出口へ向かって歩いていく。
続いて涼佳の父親は横で呆然としていた真実に向き直ると、「私の娘が迷惑をかけてしまったようで申し訳ありませんでした」と頭を下げた。
「あ、いえ! 迷惑だなんて」
自分に話が振られるとは思っていなかったのだろう。動揺したように胸の前で両手を振る。
「今後はこういうことが無いように言って聞かせますので……それで、須藤くんだったかな」
涼佳との会話を打ち切り、隣にいる空也に無遠慮な視線を向ける。
涼佳の父親は決して背が高いわけでもなく、威圧感を与えるような格好をしているわけでもない。だが、自分に自信を持ち、自分が今の自分でいることに何も疑問を持っていないと言わんばかりの目で見つめられると、体が縮こまってしまうのだ。
「……はい、そうです」
だが、そこで圧倒されてしまったらその時点でおしまいだ。胸を張り、顔に力を入れてまっすぐに涼佳の父親を見る。
「分かっていると思うが、君のやったことは立派な未成年者略取及び誘拐、つまり犯罪に当たる。……しかし私も事を荒立てたくはない。この場で自分のやったことの重大さを認めて謝罪をすれば今回のことはなかったことにしよう」
「お父さん、ついていくって言ったのは私だから、須藤くんは悪くない」
涼佳はすかさず空也をかばったものの、
「しかし、涼佳を連れて行くと決めたのは君だろう? 同意があろうとなかろうと、人様の子供を親の許可無く連れ去ったのは立派な犯罪だ。それは変わらない」と涼佳の言うことはまるで意に介さない。
空也の心にあったのは恐怖心だった。両親や教師以外の大人に、静かだが怒りを向けられている。年齢は空也の二周り以上離れており、同じ人間ではあるものの、そこまで年が離れていては価値観はまるで違う。そんな相手から向けられる怒りは、見たことのない獣に牙を剥かれているかのような恐怖に近かった。
しかしここで引くわけにはいかない。昨晩そう決意していたはずなのに、いざこの場に直面すると何も言葉が出てこない。何を言っても、何をやっても、効果がないような気がしてくる。
それでも、何か言わなければならない。それが今の自分にできる唯一のことだと意を決する。
「……確かに、涼佳さんを連れて行くのを了承したのは俺ですが、涼佳さんは自分の意思でここに来たんです。それとも、来栖さんは娘の自由を奪うことが正義だと思っているんですか?」
涼佳の父親は空也の言葉を聞くと、少し苛ついたように一瞬表情が固くなった。便宜上『涼佳さん』と呼んだことが気に食わなかったのかもしれない。しかし表情はすぐに元に戻り、
「君は涼佳の意思を尊重しているとでも言いたいのかな。もしそうだとしたらその前提が間違っている。そもそも意思なんて関係ない。法律として、君のやってることは犯罪なんだ。高校生なら分からないとは言わせないぞ。田舎というのは倫理観も遅れているんだな」
「ぐっ……」
『田舎というのは倫理観も遅れているんだな』というその一言に感情が一気に膨れ上がりそうになったものの、足を踏ん張り、怒りを押し殺す。
田舎を貶されたのはさておき、言っていることは間違っていない。しかし、それをそのまま受け入れたくなかった。
「あなた、涼佳のお父さんですよね? 涼佳がどうして何でもある東京からこんな倫理観が遅れている田舎に戻りたがるのか知ってるんですか?」
感情を逆なでさせるべく、あえて『涼佳』と呼び捨てにする。
「友達もそれなりにできただろうし、自然が多くてのんびりしているからだろう。旅行で数日滞在するならばまだいい。だが涼佳は東京の人間だ。こんな何もないところに住んでいたら、将来間違いなく不利になる。東京に一度来た君なら分かるだろう?」
しかし涼佳の父親はまるで動じた様子も無く言い返してきた。
彼は父親として涼佳のことを思っていることは分かる。涼佳と話す中で、東京を目の当たりにして、もはや違う国だということを理解した。田舎に住み続けることが悪で、都会に住み続けることが正義という価値観も理解できる。
だが、それは本人の意志を無視してまで押し付けていいものなのだろうか。涼佳の人生は涼佳自身が決める権利があるはずだ。
「だけど涼佳が自分で行きたいって言ったんですよね? なぜその意志を踏みにじることができるんですか? そんなこと、子供の幸せを願っている大人のすることじゃない!」
しかし涼佳の父親は空也を冷ややかな目で見ると、大きくため息を吐いた。
「理屈で勝てないとなると感情論か。話にならないな。せいぜい後で自分のやったことを後悔するといい。涼佳、帰るぞ」
しかし涼佳が次に言い放った言葉で、涼佳の父親の表情に動揺の色が浮かんだ。
「……あなたなんて私のお父さんじゃない!」
「涼佳。一体なにが不満なんだ。陸上は続けさせたし、不便のない生活を送れるようにはさせているはずだ」
「不満なんてないよ!」
涼佳の声がフロアに響き渡る。
「……不満がないならなんなんだ」
涼佳の父親の声に、空也と話している間にはなかった苛つきが混じり始めた。
「なんで私のことを分かろうとしてくれないの? 確かに旅行に連れて行ってもらったり、色々買え揃えてくれたことには感謝してるよ。だけど、17年一緒にいたお父さんやお母さんより、おばあちゃんや真実さんの方が私にとっては何倍も家族みたいだよ。お父さんたちには話せなくてもおばあちゃんや真実さんには話せることはいっぱいある。何かを買ってくれるより、優しい言葉をかけてくれたり、悩みを聞いてほしかった!」
「だったらそう言えばいいだろう!」
「何かにつけてまず自分の言うことが正しいという態度を取る人に言えるわけないでしょ!」
2人の親子喧嘩はヒートアップしていく。さすがに見かねたのか、離れたところから警備員が2人に向かって歩いていくる。
「もういい! お前の意見など聞かない」
「聞かないじゃなくて、聞けないんでしょ。石頭だから」
空也は涼佳の家庭事情をここに来て初めて知ることができた。そして涼佳が自分に助けを求めてきた理由、田舎を気に入った理由も分かった気がした。もし自分が涼佳と同じ立場だったら、似たようなことを思ったのではないか。そう思う。
「言うようになったものだな……もう、お前はうちの子供ではない。好きにすればいい」
結局涼佳の父親は根負けしたというよりは、もう涼佳がどうでも良くなったかのように踵を返そうとしたが、
「真実さん」
真実に向き直り、発言を促す。
「私は……」
真実は胸元で左拳を右手で覆い、
「涼佳ちゃんと一緒にこれからも住んでいていいと思っています。いえ、住みたいですね」
涼佳の父親に向かって自然な笑みを見せる。
それを聞いた涼佳の父親は、
「……分かりました。真実さんにばかり負担をかけさせるわけにはいかないので、少なくとも大学を出るまでは親として責任は果たしたいと思っています。また後で連絡します」
チケットを購入するべく、到着ロビーの横にあるカウンターへ向かって歩いていく。
後ろ姿を見送りながら、空也は疑問を抱いていた。確かに涼佳を田舎に残らせる、という目標は達成した。しかし、これでいいのだろうか。そう思ったら、自然と体が動いていた。
「待ってください」
涼佳の父親は振り向くと、「何かな」と冷たい声で答えた。先程までの威圧感はなく、どこか寂しそうな目を見た瞬間、得体の知れない生き物に見えていた涼佳の父親が急に人間に見えてくる。
「本当にこれでいいんですか? 考え方が合わないのは仕方ないとしても、実の娘ですよ?」
「仕方がないだろう」
「2人が妥協できるところを探るべきです。例えば、大学は東京に進学するとか」
「東京の大学に進学するだけではダメだ。私の娘である以上、最低のラインはクリアしてもらう。田舎の高校に通いながらそれができるのか?」
「やります。俺も涼佳と同じ大学に受験します。1人でなく、2人、一緒に受ける仲間がいるという安心感があれば重圧もかなり軽くなるはずです」
予め原稿を作っていたかのようにスムーズに言葉が出てきた。
「もし、万が一のことがあったら?」
圧迫面接ってこんな感じなんだろうか。そんなことを思う。だが、すでに答えが自分の中にあったおかげでまるでプレッシャーは感じなかった。
「その時は、責任を取ります」
「……いいだろう。ただし、男に二言はない。もし約束を破ったら、その時は分かっているね」
涼佳の父親は踵を返すと、振り返ること無くカウンターに向かって歩いていった。
12月の土曜。夜。
空也と涼佳は涼佳の部屋でテーブルの前に腰を下ろし、向かい合って勉強をしていた。
涼佳は長い髪の毛をポニーテールにし、黒い縦セーターにギンガムチェックのスカートという、服装はともかくとして、ポニーテールにしているのは微妙にオフ感がある。
涼佳の父親と約束してから、平日は通信教育、土曜の昼間は2人で隣の市の塾へ行き、夜は涼佳の家で一緒に勉強となかなか忙しい毎日を送っている。だが、涼佳と一緒のおかげでまるで苦にならない。
とは言ったものの、流石に疲れてきた。一息入れようと空也が顔を上げると、涼佳が足を投げ出し、「ん~」と唸りながら伸びをしていた。
自然と空也の視線は涼佳の脚へと引き寄せられていく。
「……する?」
察したような様子で、涼佳は空也に微笑みかける。
「……いや、いい」
気温はますます下がっていく一方で、涼佳の体温で温まれる膝枕はやはり冬が本番だ。おかげで最近は会うたびにしてもらっていた。流石に今回は遠慮しておくことにする。
「……じゃあ、代わりに空也くんとくっつきたいな?」
「おっ、おう……」
涼佳の甘えた声に浮かされ、空也が立ち上がりベッドに腰掛けると、涼佳はその隣に座り、肩に頭を預けてきた。
無言で涼佳の肩に手を回す。小さいな、という感想とともに愛しさが溢れ、晴れて恋人になってからそれなりに経つというのに、今でもこうしていると鼓動が早くなってくる。
「あれ、心臓ドキドキしてる?」
涼佳が肩から頭を離すと、至近距離で空也の目を見た。
何度見てもきれいな目だなと思う。肌は近くで見てもシミひとつなく、見るからに柔らかそうで、無意識のうちに頬に触れてしまっていた。
「あっ……」
肌の柔らかさを感じる間もなく、今自分が置かれている状態に声が出てしまい、涼佳と視線が重なる。
「あ、えっと……」
頬を赤く染め、上目遣いで困ったような笑みを浮かべる涼佳に、理性にヒビが入る音が聞こえた。
いけない。涼佳から距離を取ろうとしたが、服の袖を掴まれてしまった。
「りょ――」
涼佳はゆっくり目を閉じると、わずかに顎を上げる。
すぐに涼佳が何を求めているか言われるまでもなく理解した。だが、してもいいのだろうか。今まではせいぜい手をつないだり、肩を寄せ合ったり、膝枕が健全か不健全かは置いておいて、清い交際をしてきたつもりだ。
しかし、さすがにこの行為は不純異性交遊ではないだろうか。だが、彼女にここまでさせておいて何もしないというのは男がすたる。
それになにより、清楚な雰囲気の涼佳の体の一部とは思えないほど艶めかしいピンク色の唇は、空也が理性的な判断をすることを許さなかった。
両手を涼佳の肩に乗せ生唾を飲み込むと、意を決し自分の唇を涼佳の唇と重ねる。
唇と唇が触れた瞬間、体が震えるほどの快感が走った。柔らかく、夏の果実を思わせるような瑞々しさ。世の中の恋人はなぜこんなことをするのだろうと疑問だったが、今なら理解できる。こんな気持ちいいならハマってしまうに決まっている。
それはそうと、いつまでこうしていればいいのだろう。できればずっとこうしていたい気もするが、流石にそういうわけにもいかないし、ずっと息を止めているのでさすがに苦しくなってきた。
名残惜しさを抱きつつもゆっくりと顔を涼佳から離し、目を開けると涼佳と目が合った。
「……しちゃったね」
涼佳の目はトロンとしており、吐息が明らかに熱を帯びている。
もうダメな気がした。空也は息を吸うと、再び涼佳の唇に自分の唇を重ねた。
その日の23時。
空也と涼佳は手を繋ぎながら空也の家に向かって歩いていた。
家までは50メートルも無く、外は寒い。1人で帰れると言ったのだが、少しでも一緒にいたいという涼佳のたっての希望で送ってもらうことにしたのだ。
冬の深夜の空気はむき出しになった顔を潰そうとしてくるかのように、寒さを通り越して痛みを与えてくる。だが、涼佳と手を繋いでいるおかげか、あまり寒いとは思わなかった。
「おばあちゃん帰ってくるの楽しみだね」
涼佳が帰ってきてから、おばあちゃんはこの調子なら一時帰宅もできそうなほどに回復し始めていた。
「……真実さんのメシも悪いわけじゃないんだけどな」
「なんていうか、おつまみだもんね」
この前夕飯をお呼ばれしたときのことを思い出し、二人して苦笑を浮かべる。
真実の料理はヘタというわけでは決してないが、なんというか酒のつまみのようなものばかりになってしまい、おばあちゃんのバランスのいい料理が恋しくなってしまう。
そんな他愛のないことを話しているうちに家の前にたどり着いたが、家の明かりが消えている事に気づいた。
「あれ? ……あ」
完全に見るのを忘れてしまっていたスマートフォンをポケットから取り出すと、両親から『今日は帰らない』という連絡が来ていた。鍵を持って出るのを忘れてしまったので、このままでは家に入れない。
「どうしたの?」
「いや、母さんたち出かけてるみたいだ。あと、鍵も忘れた」
「……泊まってく?」
涼佳は首を前に倒し、鼻から下を首にゆるく巻いたマフラーで隠しながら言う。
「い、いや、真実さんいるだろ?」
『泊まってく?』という言葉にはそれ以上の意味はおそらくないだろう。だが、ついそれ以上の意味を考えてしまい挙動不審になってしまう。
「あー、今なんか変なこと考えたでしょ?」
涼佳はマフラーから顔を出すと、ニヤニヤと笑う。
「う、うるさい! どうせ泊まるなら寝るまで勉強するぞ!」
空也は涼佳に顔を見られないように視線を外すと、手を引いて道を引き返しながら涼佳と出会ってからのことを考えていた。
以前はただ東京に行きたいという漠然とした願望しかなかったが、今は涼佳と同じ大学に進学したいというまだ曖昧としつつも、未来図が固まりつつある。
その後はまだ考えてはいないが、これからもずっと涼佳と一緒にいられるようにする、というところはもうこれから変わることはないだろう。
涼佳のことを愛していて、涼佳も同じ気持ちのはずだ。だから、涼佳とこれからも一緒にいるために、まずは差し当たって涼佳の父親との約束を守らなければならない。
そしていつか、涼佳の父親に認めてもらう。空也は涼佳の手を握りながら決意を新たにした。
(終わり)
60デニールは薄すぎる アン・マルベルージュ @an_amavel
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