第7話

「賢くない王様とか、嫌味にも程があるでしょ」



馬車に乗り込み、私はルーファスを白い目で見た。


しかし、当の本人は涼しい顔をして何処吹く風。


私はその態度に思わずため息をついた。


この世界では、女神の加護を受けた王を「賢王」と呼ぶ。


加護の最上級が愛し子で、賢王は女神の助けを得ることができ、愛し子は女神から護られる。


まあ、要するに賢王は愛し子の次に女神から愛されてる存在ということだ。


実際、私も知力、武力、道徳心などいろいろ考慮したうえで「あ、コイツめっちゃ優秀だ」と感じた王には加護を与えている。


言葉のノリは軽いが、これに関しては私も真剣に考えて選んでいるので安心して欲しい。


そして、賢王は当然のことながら他国の王に比べて権限が強い。


私を信仰しているのはこの国だけじゃないので、賢王になりたいと思っている者たちは少なくないだろう。


賢王に選ばれなければ、所詮は賢王じゃないただの王というレッテルを貼られることにも繋がるので、そういう意味で賢王になりたいのはこの国の王も同じはずだ。


ルーファスはそんな現国王に対して女神もいる場で「賢王にも選ばれない王」と嫌味を言い放った。


かなり、嫌な奴である。



「でも、今の国王はルナのお眼鏡にかなうような奴じゃない。そうなんでしょ?」


「それは否定出来ないけど……」



私は思わず目を逸らす。


あの現国王を賢王にしないのは、確かにその名に相応しい能力がないからで間違いない。


私の立場からしても、人選ミスなんてことは許されないのだから。



「ルナ」



ルーファスが私の頬をすうっと撫で、そのまま私の顔を自分の正面に戻した。


彼の瑠璃色の瞳にはまるで囚われたかのような自分が映っている。



「これからも俺のこと、愛してね?」



女神に向かって図々しくもルーファスはそう言うと、ご自慢のご尊顔に笑みを浮かべた。


自信満々だなぁ。あと二十年もしないうちに愛し子の地位を奪われるかもしれないっていうのに。


少し呆れて、でも先程の瞳が脳裏を過ぎり、いや違うなと思い直す。


自信があるんじゃない。自信がないから、他でもない私に確かめてるんだ。


賢王という存在に目をかける私に、自分だけを見てくれと心の中では叫んでる。


でも、長いこと生きてきていろいろ学んだせいでこんな回りくどい男になってしまったのだろう。私の、女神の愛を独り占めすることなど不可能だと悟りつつも諦めきれずにいるからこそ。


正直、人間の器量よしで可愛い女の子と結婚して幸せになって欲しいところだが、そこはこのゲームの世界にかかっている。


だって、ルーファスも隠しキャラとはいえこのゲームの「攻略対象」なのだから。


私は永遠の女神だ。


この世界の時の流れに身を任せるだけ。


ルーファスの問いに答えることなく、私は目を細めて彼の手を掴んで自分の頬から離す。


この女神に愛されし囚われし不幸な男に、祝福があらんことを。





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乙女ゲームの世界で神になってしまった件について 波野夜緒 @honcl

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