第6話

「はい、そこまで〜」



まさか、悪役令嬢を愛するはずの魔女がこんな可愛いけど胸と背が小さくて色気のない子を選ぶなんて。魔女の好みも時代とともに変化するのか……。


私はセレナという少女の背後に立ち、彼女の肩をポンと叩いた。


その瞬間、光が消え去り、私はまじまじと自分の手を見る。


女神チート過ぎる。ちょっと感動。



「なんで、なんで……?」



セレナは信じられないというように呆然としていた。


さっきまでとは打って変わって、目に光はなく、顔も青白い。


うんうん、魔女が与える力って強力だし負けるなんて思わないよね。



「貴女は、一体……」



顔を赤くして聞いてくる宰相の息子の言葉に私はニコリと笑って見せた。



「私は永遠の女神・ルナティア。この度はこの少女が私の愛し子を名乗っていると聞きつけてやって参りました」



永遠の女神・ルナティア。


突然の女神の登場に会場がザワつく。


さっきルーファスの圧で倒れた人がまた倒れるの見て少々罪悪感を感じていれば、圧を発していた張本人が鬼の形相でやってきた。



「ルナ、いきなり人前に出るなって言ったよね?というか、笑わないで」


「助けたのに理不尽……」



いつからこんな理不尽を言う子になってしまったのか。


いや、営業スマイルしただけじゃん。



「女神……?この人が……?」



セレナが信じられないものを見るかのような目で私を見る。


失礼だけどまあ、魔女を女神だと思い込んでたならしょうがないことだ。


私と魔女は見た目がかなり違うし。



「……女神・ルナティア。貴女が愛したのは、ここにいるセレナではないのですか?」



王太子はセレナ以上に呆然とした様子で私に問いかける。


しかし、その様子とは対照的に先程まで曇っていた瞳には少しだけれども自我が宿っていた。


どうやら、魔女の分け与えた洗脳の力が私の影響で薄まってきているようだ。


やっぱり、女神の力は凄い。


後は私がそれに恥じぬように女神を演じるだけ。



「ええ。私の愛し子はルーファス・マリーンズです。申し訳ないけれど、そこの貴女を愛し子にはしていない」



ふわりとした笑顔と柔らかい言葉遣いとは裏腹に容赦なく現実を突き付ける。


その瞬間、王太子を含めセレナの取り巻きたちの目には呪いが解けたように自我が宿った。


正しい行いも時に人に絶望を与える。


彼らの順風満帆とも言える人生は、ここで幕を閉じるかもしれないし、まだ続くかもしれない。


しかし、それを決めるのは私では無い。


私はゆっくりと振り向き、大きな扉の方を見た。


そこからここに歩いてくる人物を認識した王太子は絶望したような顔で力無く笑う。



「父、上……」



現れたのはこの国の王にして王太子の父である男だった。


王太子と同じ金髪に碧眼の瞳。顔立ちも血の繋がった家族らしく、よく似ていた。


違うところといえば、純粋に歳をとっているかいないか、というところくらい。


そして、この国で物事を裁くのは私ではなく彼だ。



「ルナ、俺たちの出番はここまでだ。帰ろう」



セレナの発言に未だに苛立っているのか、ルーファスは不機嫌そうに言うとみんなが頭を下げる中、堂々と扉に向かって歩き始めた。


そして、すれ違った国王に嫌味たっぷりにルーファスは囁いた。



「ちゃんと息子どもを裁いてあげてね?“賢くない”王様」


「っ!」



魔女よりもルーファスの方がよっぽど性格が悪いんじゃないかと思う。


分かりやすく国王の顔色が変わったのを見てルーファスはクスリと笑った。


……いや、それを無視している私も人のことは言えないか。


それにしても、わざわざ“賢くない王様”と呼ぶだなんて残酷だ。




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